シーカーがカイトという人と店の奥、寝泊まりしている方へ消えていき、僕だけが残された。
とりあえずカウンターと思しき机の黒い椅子に座り、机に頬杖をつく。
「おとなしく店番してろ、って事だよな・・・多分」
冬の短い日は暮れ、夕闇がひたひたと迫って来ている時間。
こんな危ない時間に、客なんて来るのだろうか。
時間が止まったような錯覚をする程、変化がない。僕の思考は、自然と内側に向かうようになった。
シーカーの本業の事、カイトというあの人の事。
そして、あの首飾りの事。
市場であの首飾りを見た時、一瞬何かを感じたのだ。
感情の意味を掴み取るより早く、その気持ちは消えてしまったが。
「あれは、何だったんだろう・・・」
声に出した所で、何か分かる訳でもない。けどその瞬間、閃光と共に僕の脳裏にある光景が閃いた。
―――僕は、市場にいた。今日行った時よりも活気があって、ついでに僕の視点も高い。
「どうしました?」
僕はその少し高い声の主へと振り返る。聞き取れないその音が僕の名前だと、何故か分かっていた。
そしてそこには、黒服黒マント姿のシーカーがいた。
「 」
僕は、感情のかけらも見えないシーカーに笑いかけていた。彼に掛けた聞き取れない名前は、確実に「シーカー」ではない。本名か?
ニコニコ笑って話すなんて、絶対にこんな事はしない。だが多分、今の僕は僕ではない。
首飾りの飾られたショーウインドウには、少女が映っていた。
でなければ、白いワンピースなんて着てない。
この服が女性の着る物である事は、さすがに分かっているからだ。
「それが欲しいのですか?」
シーカーの言葉に答えようとした僕を、頭を割らんばかりに激しい耳鳴りが襲う。
脳裏に、少女の声で『時間切れ』という言葉が閃く。
その言葉が指し示す意味を理解するよりも早く、僕は―――
「サンディ君?」
僕はいつの間にか、うたた寝をしていたのだろうか。目を開くと、蒼が飛び込んで来た。カイトという名の、シーカーの先輩。
「僕、寝てました?」
「うん、ぐっすり寝てたよ・・・あ」
「?」
彼は何故か、僕の瞳をじっと覗き込んだ。
「ああ」
そして、どこか安心した表情になる。
「君にその記憶は無くとも、確かに君は彼女なんだね。君と彼女はどこまでも近いが、決してイコールにはならない。ある意味、とても残酷な事だ・・・彼は、果して分かっているのかな?」
僕と、夢の中で僕だった彼女の事?
カイトへ僕がそう尋ねようとした瞬間、乱暴にドアが開いてシーカーが顔を出した。その表情は笑顔だが、何と言うか怖い。箱の中にいた時に見た、威嚇している時の猫みたいだ。
「先輩? 用が済んだならさっさと帰って下さい」
「君は先輩に対する敬意などはないのか?」
「そんな物、100年前に空の彼方へ棄てました」
「酷ッ! それ、俺と出会う前じゃん!」
シーカーは吹雪のように冷たい笑顔のまま、彼を戸外へと押し出していった。
そしてまた乱暴にドアを閉め、振り返った時にはいつもの飄々とした笑顔だった。
「さてサンディ。邪魔者も出て行ったし、夕飯にしようか」
【白黒P】捜し屋と僕の三週間・8
カイトとシーカーのやり取りは、多分絵にするととても微笑ましいはずw
誰か描いてくれないかなぁ。私無理だから。
サンディが見た夢は・・・そのうち分かるはず、です。
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