「…ふぁぁ…んー…」
朝が来た。いつもに比べてちゃんと起きれただけマシ。徹夜の仕事とかなくて良かった。なんたって今日は…
「休み…か。まぁ私なんて年中休みみたいなもんだけどね」
そんな自虐的なことを呟いて体を起こす。グーミリアは…ベッドに居ない。どうやらもうとっくに起きているようだった。朝早くから何をしているのだろうか。
「早いわねぇ、あの子…」
自分もそんな早起きな弟子に習って体を動かそう。そう思って立ち上がり、ドアへ向かうと…
「…エルルカ、起きてたのか」
「今起きたのよ。おはよ、グーミリア」
「ああ、おはよう」
相変わらずの不器用な喋り方。転生してからだいぶ経っているのだが、一向に直る気配はない。流暢に喋られるようになるのも、しばらくかかるだろう。
「今日は、休み、だったな。どうするんだ?」
「そうね…ちょっと出かけたりとかしようかしら…」
「そうか、気をつけていけ」
「ん、心配ありがとね」
せっかくだから外に出かけたりして、買い物とか…良いものがあったらだけど。
「あなたはどうするの?」
「私は、色々、用がある」
「へー、そう…」
グーミリアの用とはなんだろうか。気になるが、まぁあまり詮索はしないでおこう。本人もいい気はしないだろうから。
朝食をとって王宮の外へと出る。
久々に外に出た…と言えばいいのだろうが、あいにく最近は出かけたりするのも珍しくはない。
いつも通り森の方へ行って、普段行かないような場所へ行ってみようか。
そう予定を立て、森へと向かった。
森は相変わらず静かで平和だ。最近慌ただしかったから、落ち着くのに最適だろう。
…本当に、色々なことがあった。
人が、死にすぎだ。
…あの独裁国家じゃしょうがないのかもしれないけど。
自分の周りで人が死ぬのはもう慣れた。悲しむのも一瞬だけだ。…そう、そのはず。
「…やっぱりそう簡単には切り替えられないのよねー…」
自分の信頼していた仲間…友が死んだ。よくある事だ、もう…その度に悲しむのも精神を疲弊させるだけだ。それに…彼も、いつまでも悲しむのを良しとしないだろう。そういう人だった。
「…そろそろ移動しようかしら…。飽きてきたわ」
そう言って立ち上がる。さて、どこへ行こうか。
普段行かないような場所、と言ってもそう遠くへは行かない。時間がかかるし疲れる。
「このままエルフェゴートにでも行く…?いや、ミカエラも居るし、私が行ったらばったり会うかもしれないから…気まずくなるのも嫌だし、海岸にでも行きましょうか…」
あの海岸に行くのは久々かもしれない。王女の誕生パーティーでひと騒動起きた時は、王女はこの海岸に来たらしい。
…心の奥では覚えているのだろうか。記憶喪失も侮れないみたいだ。
そんなことを考えながら海岸へ向かった。
「ん〜!潮風が気持ちいい〜!」
日々の重役から逃げてここに来るのもいいかもしれない。潮風で悩み事とか吹っ飛ぶかもしれない。
砂…砂…砂、か。
子供とかはここでお城とか作ったりするのだろうか。さすがに作らないけど。…でも楽しそうでは…ない、気にしない。
ここでお城とか作ってたら「ルシフェニアの魔道士が夢中で砂の城を作ってた」とな噂になる可能性がある。
周りに人がいなくても油断は出来ない。噂というのはすぐに広まるものなのだ。
「…そろそろ帰ろ」
いつまでもぼーっとしてるのもつまらない。戻ってまた二度寝するのも有りだろう。
「…手ぶらもなんだし、あの子に何か買って帰ろうかしら」
あの子が言う用というのは多分王宮内でのことだろう。自分だけが出かけて楽しかった、というのもあの子に悪い気がする。
城下町で何か良いものがないか物色してから帰ることにした。
「…良いもの…あの子、何が好みなのかしら…」
置物?食べ物?アクセサリー…?
あの子に合うであろう物は見つかるものの、その本人が良しとするかは分からないので絶賛悩み中。
「ミカエラと仲が良いから、ネギとかでいいかしら…」
いや、さすがにそれは…お土産と言ってネギ1本渡すのも…可哀想だ。
そもそも仲が良いからネギ、という思考回路が自分でもよく分からない。なんでそういう結果になったのだ。
「んー…あら、これは…」
緑色の宝石のネックレス。1つの丸い球体が先に付いている物だ。
「なかなか綺麗ね…うん、良いかもしれない。これにしましょうか」
(財布を出し…ん?財布…あ、よかったあった。無くしたか盗られたかと思った)
無事にお買い上げをし、王宮へ戻る。門番以外には運良く誰にも会わずに部屋まで戻ってきた。
「ふぅ…ただいまぁ…」
「帰ったか、早いな。おかえり」
そう淡白に迎えてくれたグーミリア。本を読んでいるようだ。
「お休みの日に読書?外に出て空気吸いなさいよー」
「散々、手伝いや、お使いで、外に出てる。外の空気は、今、間に合っている」
「あらーそれは…」
大変だったわね…と言いそうになり抑える。その手伝いやらに出しているの自分だった。危ない、気づかずに激励する所だった。
「あ、そうそう。お土産あるわよー?」
「おみやげ?」
「そう、あなたに似合うかなって。髪の色と似てて、全体的に合うと思うの」
そう言い、慎重にお土産のネックレスを取り出す。壊れた様子はない。
「はい、ネックレスよ」
「ネックレス…装飾品、という、ものか。オシャレ…」
「そうよー、おしゃれおしゃれー。女の子は身につけるものにも注意しなきゃね」
「そういう、もの、なのか…」
私の持論なだけなのだが、『可愛い子にはおしゃれさせよ』みたいな感じで言ってみただけである。
「ふむ…綺麗だ、ありがとう、エルルカ」
「いーえー」
(さて…お土産も渡したことだし…寝ようかな…)
寝る部屋に向かい、ドアの前で止まる。
(一応…何があっても私は何もしないけど…)
「グーミリア、今日王宮にずっと居たのよね?今日って何かあった?事件…みたいなの」
「いや、特に、何も、無かった。どうかしたか?」
「ううん、何もなかったらいいんだけどね」
首を傾げるグーミリアにおやすみ、と言って部屋に入る。
ベッドにダイブ。今日は歩き回ったから疲れた。すぐに眠れそう…。
珍しい日もあるものだ。ひとつぐらい何か事件が起こると思っていたのだが、そんな気配すらも感じない。…そんな日だったのだろうか…。
何も無いに越したことはないので、すぐに気にしないことにした。
今日は平和な1日だった。
それだけが、幸せなのだろう。
…おやすみなさい。
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