ショーウィンドウに映った自分を眺めておかしなところがないか探していた。左右が反転した僕は白いYシャツの上に黒の小奇麗なジャケットを着て、ベージュのパンツを穿いている。服に合わないのでいつものマフラーは外してきた。
大丈夫だよな?
自問自答する。これからミクとミクのお友達と一緒に夕食を食べる予定なのだ。僕は緊張していた。ミクに会うからというのもあるけれど、原因の大半は食事場所にある。
それなりの格好をした人間でないと入れないレストランの名を告げられたからだ。しかもお友達の奢りだという。庶民派を自覚している僕にはとてもハードルが高かった。
「大丈夫大丈夫」
テーブルマナーも一通り予習してきたし、クローゼットの奥に仕舞い込んでいたジャケットとパンツもこうして着てきた。ぬかりはない、はずだ。
今一度、自分に変なところがないか確認して僕は歩き出す。目的地の近くでいつまでも立ち往生はしていられない。物理的にも、気持ち的にも。
ほどなくしてたどり着いた建物を確認する。高級そうな木材を使用したドアが上品なランプで照らされていた。三階建ての石造り。エレガントな造形の建物は、重厚な雰囲気を纏いつつも紳士のような慎ましい優しさを演出している。
一度は収まった緊張がぶり返してきた。固まった体をほぐして深呼吸。冷静にと言い聞かせて気合を入れる。僕は艶消しされたドアの年代物っぽい取っ手を掴み、ゆっくりと押し開けた。
扉の中に入ると一転。煌びやかなシャンデリアの灯りが行き渡る広い店内には、まっ白なテーブルクロスが掛けられた丸テーブルがいくつも置かれていて、仕立てのよい服を着た男女が歓談している。
「いらっしゃいませ、お客様。お一人ですか? それともお連れ様が?」
滅多に見れない光景に面食らっていると、タキシードを着た若い男性が声をかけてきた。
「ええと、連れがいるはずなんですが……」
気後れしながら答える。場に呑まれて上手く口が回らなかった。
「そうですか。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ウェイターらしき男性は柔らかな物腰と笑顔を崩さない。
「カイトです。カイト・ミヤネ」
「カイト様ですね。ルカティーナ様名義でご予約を承っております。どうぞこちらへ」
「は、はい。どうも……」
男性は背を向け、きびきびとした動きで歩き出す。置いていかれないように僕は慌てて付いていった。
店の中央奥に案内された僕は、そこで見知った顔を発見する。もちろんミクだ。隣にいる暗めのピンク色をした髪の女性がお友達だろうか?
こちらに気付いたミクが友達とのお喋りをやめて小さく手を振った。僕はほっとして笑みを返す。
表情が見えるくらい席に近付くと、ミクのお友達がにこやかな笑顔を僕に向けてきた。黒地に紫の装飾のナイトドレスを苦もなく着こなす抜群の美人に笑いかけられ、一瞬ぎょっとしたが、どうにか笑顔を作って会釈をする。なんだか今日は冷や冷やしてばかりだ。
ミクのお友達、ルカティーナさんといったか、に促されて着席する僕。ウェイターはごゆっくりどうぞ、と一礼して入り口の方へ戻っていった。
「はじめまして、カイトさん。ルカティーナ・サーキュリーと申します。気軽にルカ、とお呼びください。以後お見知りおきを」
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