UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その17「三人vsタイプH(その3・作戦会議)」
少し前の作戦会議で。
「タイプHは強敵ではあるが、戦場で目撃されたケースは少ない。なぜだと思う?」
小隊長の質問に二人は答えられなかった。
戦場で見かけないといっても、見かけたら即時撤退という対処しかない敵である。本当に戦場に出現し戦闘に参加したという記録は残っていない。
話を先に進めるため、小隊長は答を披露した。
「タイプHは用途というか使命が限られているからだ」
「ほう」
「ふむ。その『使命』とは?」
「ずばり、仲間の救出だ」
「え?」
「やつは、モントリオール基地で、タイプLを救出した」
小隊長の記憶の中に、銀髪の死神が残っていた。
五千人の敵の中を、防御システムを構築したばかりのモントリオール基地の中を、無人の荒野を進むように、髪にまとわりついた枯れ葉を振り払うように、自然に歩む存在だった。
「それだけ?」
「モントリオールで私が生き残ったのはなぜだと思う?」
小隊長の記憶の中で、タイプHは考えられない機動力を発揮し、照準に捉えることができなかった。
「運がよかった、から?」
「さすが『奇跡のデフォ子』」
小隊長が「奇跡」と呼ばれているのは別の理由からだった。
「U」において、兵士が補充されるとき、乱数で決められたパラメーターが兵士の性能や性格を決定する。例えば、髪の色や背の高さのような外見的パラメーター、腕力や内蔵された機能のような内面的なパラメーターがある。その数は数千あるにも拘らず、小隊長はその全てがデフォルト値であった。その確率は一京分の一以下、だった。
その信じられないような確率で誕生したが故に、付いた徒名が「奇跡のデフォ子」だった。
「私は、あの時、弾薬が尽きていた。両腕、右足もやつに破壊されてほとんど動けない状態だった」
小隊長の記憶の中で、小隊長は動かない両手をだらりと垂らし壁に左足で寄りかかっていた。
「ほうほう」
「見逃してくれたのか」
「結果はそうだが、理由はおそらく、私が仲間を庇ったからだ」
モモが俯いて唇を結んだ。それを見て、テトは何かを察した。
「へえ」
「何もできない私は、仲間の盾になるつもりでやつの前に飛び出した」
小隊長の記憶の中では、倒れたモモが辛うじて動く右手で銃の照準をタイプHに合わせようとしていた。
それを察知したタイプHは、モモの右手と銃を蹴り上げ、返す刀で足を降り下ろし、モモの頭部を破壊しようとした。
そのとき、小隊長の頭に浮かんだのは、モモの握った美味しいお握りが食べられなくなるということだった。
その次の瞬間、小隊長は残った左足でモモの上にダイブした。
「うわ、無茶な」
「だが、やつは私に意味ありげな笑みを浮かべて、何もしなかった」
「ほんと、運がいい」
「違う。やつにとって、タイプHにとって、仲間を守るのは至上命題なのだろう」
「それで?」
「それが、やつの弱点でもあると思っている」
「だから・・・」
「この作戦を考えた」
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