「それでは、失礼します。」
「ありがとうございました。外までお送りいたします。」
最後まで、気を抜くことはできない。
いい方向に交渉を持っていけたとはいえ、ライバル社も強力だからな。
寧ろ鶏口となるとも牛後となるなかれ。
小さい会社だったが、着実に業績を残してきた。
経済誌の、今注目の企業とやらにもついこの前名が載った。
「お疲れさまです、マスター。」
社長室に戻ると、私の秘書、カイトがコーヒーをいれてくれる。
「ありがとう。」
「商談、いかがでしたか?」
こうして、成功しつつあるのも彼のおかげだ。
「いい手応えよ。まぁ、安心できるってほどではないけど。」
「そうですか。あ、以前頼まれた書類ですが、こちらでよろしいでしょうか?」
「そう、これ。ありがとう。コピーとったよね?」
「はい、コピーはファイリングして保管してあります。」
仕事が早くて正確な彼は、起業当初からの私の右腕だ。
思い切りの良さを武器にガンガンと前に進むタイプの私には気づかないような細かいところにも、よく気を配ってくれている。
カイトがいたから、今まで成り立ってきたようなものだ。
「今日はこれ以降、来客などの予定はございませんか?」
「そうね。一応緊急ってことがあるから、携帯はすぐ取れるようにしてあるけれど。」
「社員は終業時間で多くが帰宅していますが、マスターはいかがなさいますか?」
そして私の秘書である彼は私の…
「マスターはここのところ働きづめです。少しお休みになったらいかがでしょう?」
「そういって、本当は私と仕事じゃないことしたいんでしょ?」
「それはっ…」
恋人だ。
「顔に書いてある。」
「か、書いてませんって!」
照れるカイトが可愛い。
「あ、ちょっと来てくれる?この資料見てほしいんだけど。」
「はい。」
別に、今見なきゃいけないような資料ではない。
そうとは知らず真面目に読むカイト。2人でひとつの資料を見ていると、必然的に距離が近くなる。
資料なんて正直今はどうでもいい。
真剣に見ている隙をつき、彼の唇を奪う。
「まままっ、マスターっ!?」
あわてて飛び退くカイトを見ていると、余計に遊びたくなる。
社長室に鍵をかけ、脱いだ上着をハンガーにかけ、結んだ髪をほどいて彼に近づく。
彼の後ろには、この社長室を新調するときに買った、座り心地のいいソファーがある。
「びっくりした?」
「ほ、本当に仕事関連かと思って真面目に見てたんですよ!?だから…いきなりそんな…」
「カーイトっ♪」
少し勢いをつけ、カイトに抱きつく。というか飛びつく。
「うわっ!?」
バランスを崩した彼は、ソファーに倒れる。もちろん、その上には私がいる。
「な、何やってるんですか!ここ会社ですよ!?」
「社員はほとんど帰ってるんでしょ?鍵も閉めたし。」
「そそ、そうですけど…」
そう言いつつ私は彼の上着のボタンをはずし、ネクタイを緩める。
だって、この状況じゃ邪魔でしょ?
「ふぁっ!?」
急に、抱き寄せられ、キスをされた。
「いつまでもされるがままだと思わないでくださいよ?」
み…耳元で言わないでっ…
「反撃、ですからね。マスター。」
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