「久々に今日は何もない平和な日曜日ね」
 カナデンジャーの秘密基地、通称『オクトパス』の大広間に、久々の朝寝坊を堪能した咲音メイコが姿を見せたのは、午前11時を過ぎたあたりだった。前日は、弱音ハクと雅音カイトを自室に引きずり込み、夜遅くまで酒盛りをやっていた。そのせいで、極端に朝に弱いハクはまだメイコの部屋で眠っていた。

「メイコ、遅く起きるなら一言言ってよ。せっかく朝食作ったのに」
 カナデンジャーの料理長を自負する鏡音レンは、遅く起きてきたメイコに一言文句を言った。
「あれ、カイトは?」
「カイトは、ちゃんと7時過ぎに起きてきたよ。それに今は、腕が鈍ると困るからって、防音室でヴァイオリンの練習してるよ」
 音楽教室の講師をしているカイトは、いつもの習慣からか、きちんと7時過ぎにはここに姿を見せる。
「前日どんなに遅くなっても、7時10分ごろには目が覚めるんだ」
 以前、カイトが言っていた事を思い出し、メイコはテーブルについてテレビをぼんやりと眺めていた。
「おはよ、メイコ姉。今日はトレーニングしないの?」
 トレーニングルームから戻ってきた初音ミクがメイコに声をかけた。
「今日はトレーニングはトレーニングでも、ボイストレーニングよ」
「そっか。残念」
 ミクは少し残念そうな表情を浮かべた。マッド・ウェポンとの戦い以来、2人の仲は劇的に変化していた。

「レン、この赤いのみんなにたっぷりかけてあげたよ」
 キッチンから鏡音リンが姿を見せた。かわいらしい柄のエプロンをつけ、今日は昼食を作る手伝いをしているようだった。その手には何やらタバスコのようなものが握られていた。
「リン、それは違うって! めちゃくちゃ辛くなりすぎてないか!?」
「え、赤い奴でしょ?」
 レンは試しにスパゲティを口にしてみた。その瞬間、
「辛ーーーーーーーーーーい」
 と、大声で叫んだ。
「赤は赤でも、タバスコとハバネロエキスは全然違うよ! ああ、これじゃ激辛ミートスパゲティになったじゃないか」
 その瞬間、大広間に激辛の失敗作がテーブルに並ぶ事が確定した。いくら失敗作とは言え、やはり食材にも限りがあり、無駄に捨てるわけにはいかなかった。
 スパゲティは好きだが、辛いのは苦手なメイコはげんなりした表情を見せた。
「どうする……とりあえず、食べる?」
「カイトは何も知らないはずよ。だからすべて……」
「メイコ、それはひどいな」
 突然、手にヴァイオリンを持ったカイトが現れた。
「残念だけど、今の話は全部聴かせてもらったよ。ひどいなぁ。失敗作の料理を食べさせようだなんて」
 メイコは誰にもわからないように舌打ちする。

「あれ、ルカは?」
 カイトはすぐに一人足りない事に気がついた。
「ルカは、朝早く出かけていったよ。まあ、毎週日曜日はどこかに行ってるみたいだけど」
 ミクはそう答えると、やはりうんざりした顔をリンに向けた。
「ちょっと、ミク姉、そんな顔向けないでよ」
「すべての元凶はリンでしょ?」
「そうだけど……」
 ミクとリンがああでもない、こうでもないと言い合いを始めた。
「ふーん」
 メイコとカイトは初耳だったので、珍しそうにその話を聞いていた。


 その頃、教会の礼拝堂では、静かに祈りをささげる巡音ルカの姿があった。十字架の前で跪き、手を組んで祈りをささげるルカの姿は、美しくもあり、また、はかなくもあった。
「毎週、ご苦労様です」
 年老いた修道女がルカに声をかけた。
「いえ……これは義務ですから」
 ルカは立ち上がると、手にしていた花を持って裏手にある墓地に向かった。墓地の奥の方にある、少し広いスペースにたどり着くと、ルカは歩みを止め、花を供えた。
「………………どうして……」
 目を閉じると、彼女が決して誰にも口にしない過去がよみがえってきた。出来れば忘れたい。しかし、絶対に忘れてはないない思い出が心の奥からよみがえってきた。
 だが、その祈りは突然の爆発音で遮られた。

 ルカは突然の爆発で吹き飛ばされ、茂みの中に飛ばされていた。
「まさか、誰かに……」
 最悪の状況が頭をよぎった。礼拝堂から炎が上がっているのが見て取れた。そして、その隣に建つ教会が運営する孤児院の中にザツオンが入っていくのが見えた。
「このままじゃ、子供たちが!」
 ルカはすぐにメロチェンジャーの非常スイッチを入れた。これで、『オクトパス』にいる仲間に異常事態を知らせる事ができる。
「コードチェンジ!!」
 ルカはすぐにカナデピンクに変身した。全員の到着を待っていては間に合わないと判断し、単身で孤児院の中へと入っていった。


 孤児院の中は既に地獄と化していた。入り口付近には、おびただしい血の跡があり、奥の部屋では、修道女が倒れていた。
「シスター、しっかりしてください」
「奥に……子供たちが……」
 奥の廊下を指差したシスターは、そのまま事切れてしまった。
「…………」
 叫びたくなる衝動を抑え、ルカは鉄扇を手に奥へと進む。

「お前のせいで、たくさんの人が……」
 どこからともなく、声が聞こえる。その声が、ルカが心の奥底にしまいこんでいた記憶を呼び戻した。
「……やめて……私を責めないで」
 不意にガラスの割れる音がした。その音と共に、ザツオンが襲いかかった。敵に遭遇したことで正気を取り戻したルカは、ザツオンを鉄扇で叩きのめし、建物の奥へと走り出した。
「子供たちを助けないと……」
 声を張り上げようとした瞬間、目の前にザツオンが現れた。
「……そこをどきなさい!!」
 大声をあげ、目の前のザツオンに向かって鉄扇を振り下ろす。いつもとは違う、完全に冷静さを失ったルカは、手当たり次第にザツオンを叩きのめしていった。
「……はあ……はあ……」
 ザツオンがいなくなったのを確認すると、孤児院の奥へと走り出した。
「待っていたぞ。カナデピンク」
 孤児院の一番奥、講堂で待っていたのは、シスター・シャドウであった。
「許さない。私にとって、一番大事な場所を!」
「簡単に後をつけられた貴方が悪いのよ」
 シスター・シャドウは鞭を手にすると、ルカと対峙した。

「ゆけ、ザツオン。狂音獣、マッド・メモリー!」
 目の前に、四角いVHSのテープを横にした顔に光ディスクの目と口を持ち、USBメモリーの手足。そして、パソコンのハードディスクを大きくしたような胴体をもつ狂音獣が現れた。
「相変わらず、下品な狂音獣を送り込んでくるわね」
「今のあなたに、この場所で戦う事が出来るかしら」
 いつも冷静なルカが、明らかに動揺している。
「このマッド・メモリーは、目の前にいる人物の記憶を自分のものにすることができるのだ。お前のあの思い出もな」
「!!……」
「13年前の事、今でもよく覚えているだろう」
「やめて! それは!!」
 突然、マッド・メモリーから飛行機の爆音が響いた。
「いや! そんな音を響かせないで!」
「お前だけ助かった……」
「お前の歌のせいで、大勢の人が死んだんだぞ」
「やめて! そんな言葉を聞かせないで。やめて!!」
 ルカの変身が解けた。ルカは、耳をふさぎ、ただ、力なくうずくまるだけだった。

「さすが、情報収集班。この女があの事件の生き残りだったとは……」
「……どうしてそれを……」
「この場でお前をなぶり殺しにするのもいいかもしれないが……巡音ルカ。あれを見ろ」
「ルカお姉ちゃん、助けて!」
 シスター・シャドウは後ろに掲げられた十字架の方向を指差した。そこには、ザツオンにナイフを突き付けられ、泣き叫ぶ子供たちがいた。
「この子供たちの命を助けたければ、今日の午後8時、ベイエリアのポイント43264に来い。もちろん、お前ひとりでな」
「…………」
「もし、ほかの誰かが来た場合は、わかっているな」
「…………」
 ルカは無言でうなづいた。
「引き揚げろ」
 シスターシャドウは、ザツオンと人質の子供たちと共に光の中に消えていった。
「ルカ! 大丈夫!?」
 ミクが部屋の中に飛び込んできたのは、それからしばらくたった後であった。


「ルカ、大丈夫? 少し、やけどをしているようだけど」
 ルカはメイコ達に連れられて、教会の近くにある病院に行き、腕と顔に負ったやけどの治療をうけた。
「しかし、いくらなんでもやりすぎだ。教会のシスターはみんな……」
 カイトが言いかけると、ルカは急に体を起こした。
「シスターは無事だったんですか!?」
「……みんな、死んでしまった。孤児院の子供を守ろうとして……」
「ひどい……」
 ミクは怒りを押し殺すように、拳を握りしめた。

「許すことはできないわ。一体だれが……」
「シスター・シャドウです。マッド・メモリーと言う狂音獣を連れていました」
 メイコは「シスター・シャドウ」という言葉を聞いて、顔をしかめた。
「メイコ、もう、君の知ってる御影桜子は死んだんだ」
「違うわよ! 桜子ちゃんは」
 その時、病室の扉が開かれた。全員が身構え、注目する中、看護士が入ってきた。
「…………」
 ただならぬ雰囲気と、気まずさから、看護師とカナデンジャーの6人は数秒間、固まってしまった。
「あの、巡音さん。お体は大丈夫ですか?」
 看護師の問いかけにルカは頷いて答えた。

「もう、私は大丈夫です。これで帰ります」
「ルカ姉いいの? さっきから元気がないようだけど……」
 リンが心配してルカの顔を覗き込む。確かに、いつもと比べれば元気がないように見えても仕方がないのだが、リンは何か引っかかるものがあったようだった。
「本当に? 今日はここに入院しておいた方がいいんじゃないの?」
「…………これ以上、迷惑はかけられません」
 そう言って、ベッドから立ち上がろうとした瞬間、
「痛っ」
 と、思わず声が出てしまった。
「ルカ姉、やっぱり安静にしないと」
「巡音さん、骨に異常があるかもしれません。ですから、検査入院ということで、今日一日、入院してください」
 看護士がそう告げると、ルカも少し考えて、
「わかりました。お願いします」
 と、告げた。

 
「ルカ、毎週日曜日にあの教会に行ってたみたいだね」
 病院からの帰り道、ミクは悲劇の現場となった教会に通りかかった。警察の非常線が張られ、マスコミもたくさんやってきてかなり混雑しているようだった。
「僕も知らなかったよ。でもルカ姉、どうしてここに毎週通ってたんだろう」
「あれ、ここは……」
 カイトは何か引っかかったのか、ふと立ち止まった。
「メイコ、ここは確か……」
「…………あ、そう言えば! そうよ、確か!」
 メイコとカイトは何かに気がついたのか、2人で何やら話し始めた。完全に蚊帳の外に置いて行かれたミク達三人はしびれを切らし、
「ちょっと、何? 教えてよ」
 と、ミクはカイトのマフラーを引っ張ってアピールを始めた。思いっきり引っ張ったおかげで、首がしまったのかカイトは必死になって、
「ギブ、放して!」
 と言っているようだった。

「ここは、13年前、航空機の墜落事故があったのよ。墜落した所が悪く、かつてここは住宅街だったから……相当な犠牲者が出た。飛行機の乗員乗客は全員死亡。墜落地点にあったあの孤児院もみんな……」
「知らなかった」
 ミクはカイトのマフラーを解放すると、メイコの話に聞き入った。やっとマフラーを解放されたカイトは、その場に倒れ込んだ。
「とにかく、少し調べてみましょう」
 メイコ達はそのまま走り始めた。
「まっでぐれ……」
 首を絞められてふらふらの状態のカイトはそのまま放置されてしまった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-11 日曜日の秘密 Aパート

カナデンジャー11話です。
内容はコラボにアップした物と同じです。

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閲覧数:117

投稿日:2013/06/24 21:40:17

文字数:4,802文字

カテゴリ:小説

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