第四章 ガクポの反乱 パート5

 「ガクポには、グリーンシティを制圧の後、リンツ経由で帝都へと進軍してもらいたいの。」
 一通り過去を懐かしんだ後に、リンはリリィが用意していた地図で指差しながら、ガクポに向かってそう言った。リンツは旧緑の国と旧青の国との国境に位置する街である。
 「了解いたしました、リン様。」
 納得するように、ガクポは頷くとそう答えた。
 「でも、部隊の支援は出来ないの。無理して攻め上がる必要はないわ。とにかく、帝国軍を分散することができればいいの。」
 「問題ありません、リン様。」
 そこでガクポは自信に満ちた笑顔を見せた。そのまま、言葉を続ける。
 「リリィ殿には先日お伝えいたしましたが、私の手兵だけで二千を数えます。帝都に攻め上がるには十分な兵力といえるでしょう。」
 確かに、ガクポならばどれほど不利な状態であってもその刃で切り裂くことが出来るだろう。リンはそう考えながら、少し目元を緩めて、こう言った。
 「それならば私達も安心だわ。」
 「ただし、一つリン様にお願いが。」
 「どうしたの?」
 即座に、そう聞き返したリンに向かって、ガクポは一つ頷くと答える。
 「実は、我が愛刀、倭刀が、敵の手に落ちております。」
 ガクポはそう言いながら、腰に穿いた剣を引き上げ、リンに示した。そのまま、言葉を続ける。
 「今は代用として長剣を使用しておりますが、以前使っていた倭刀に比べると随分と使い勝手が悪い。」
 「その倭刀は、今何処に?」
 「詳細は存じませぬが、」
 一言、前置きを置いた上で、ガクポが続ける。
 「私が倭刀を失ったのは黄の国陥落の際、捕虜にとらわれた時です。恐らく、ゴールデンシティ総督府に倭刀が保管されているのではないかと。」
 「わかったわ。」
 ガクポの言葉に、リンは力強く頷いた。ゴールデンシティはいずれにせよ、ルワール本隊にとっての第一目標となる。それに、無償で力を貸すと言うガクポに対して、多少なりでも恩を返せるのならば、と考えながら、リンは答えた。
 「必ず、倭刀を奪回してみせるわ。」
 「ご協力、恐れ入ります。」
 そこで、ガクポは安堵したような表情を見せた。
 その後、綿密な打ち合わせを終えて、会談を終えたのは日が隠れて暫く経過した頃であった。日が高くなりつつある初夏の頃合であったから、時刻としてはもう相当に遅い。そのまま、リンはガクポの館に宿を取ることになった。
 決起の日を、夢に見ながら。

 グリーンシティ。
 過去から現在、そして将来にわたり、ミルドガルドの文化都市と評価され続けた、歴史ある、静かな街である。そのグリーンシティを陥落させようと、今リンとセリス、そしてガクポが密かにグリーンシティへの侵入を果たしていた。案内役を申し出た人物はルワールから常に道案内を買って出ていた旅商人、リリィである。ルワール敗北の報は既に帝国全土に広まっているものか、ぴりぴりとした緊迫感がグリーンシティを覆ってはいたが、臨戦態勢という状態には到底見えない。恐らく、ルワールへの距離の遠さと、戦略的位置付けからグリーンシティへの襲撃を想定していないのだろう。
 そのリリィが三人を案内した場所がある。テトの紅茶店であった。
 「さて、面白いことになりそうだね。」
 店先から奥まった小部屋、リリィを含めた四人を案内したテトは、武装した三名の男女の姿を見て、頼もしそうに瞳を細めさせた。
 「テト殿、我々は既に決起の準備を終えておりますわ。」
 そのテトに向かって、代表してリリィがそう告げる。
 「商工会も、いつでも準備できているよ。当面、何が必要だい?」
 「街の人を、安全な場所に。」
 変わって、そう答えたのはリンであった。その言葉に意外、という様子を見せたテトに向かって、リンは言葉を補足するように続ける。
 「民間人に危害を加えるわけにはいきません。以前の、過ちのように。」
 伝え聞いただけではあるが、あの時、黄緑戦争の際に、黄の国による大虐殺事件が発生したことを意識した上での発言であった。だが、その言葉にテトは軽い笑顔を見せると、こう応える。
 「レン、と言ったね。五年前の出来事は知っているかい?」
 テトに対してはレンと名乗っているリンは、その言葉に力強く頷いた。
 「だからこそ、被害を極力避けたいのです。」
 「ところが、グリーンシティの人間は案外、強情な性格が多くてね。」
 呆れるような、何かを達観しているように肩を揺すりながら、テトはそう言った。そのまま、言葉を続ける。
 「自分達の為に、血と汗を渋ることは不名誉であると考えている。」
 「ですが。」
 危険、と言わざるを得ない。リンは強くそう考えた。
 「それに、民の力は馬鹿に出来ない。以前、黄の国が滅びたようにね。」
 リンの言葉を遮るように伝えられたテトの言葉に、リンは思わず息を飲み込んだ。その通り、黄の国はメイコとアレクが中心にはなったとはいえ、不満を限界にまで溜め込んだ民の暴走が存在したからこそ滅びた。テトが指摘している部分を、的確に理解しながら、リンは僅かに唇を噛んだ。その様子を、セリスが不安そうな視線で見つめている。
 「レン様、ここはテト殿のお言葉に甘えるべきかと。」
 宥めるように、そう言ったのはそれまで静観していたガクポであった。そのまま、言葉を続ける。
 「グリーンシティ総督府はなかなかの名城と耳にしております。その守備を突破するには、少しでも多くの人員が必要かと。」
 「その件だけどね。」
 ガクポの言葉を僅かに遮りながら、テトがもう一度、楽しむような笑顔でこう言った。
 「私を始めとして、商工会の何名かはフリーパスで総督府へと進入できる。」
 そこでテトはにやり、とした笑みを浮かべた。そのまま、言葉を続ける。
 「一週間後に紅茶の納品があってね。馬車一頭借り切って、総督府正門まで向かう予定だ。五人くらい、隙間に入れてあげられるよ。」
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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ハーツストーリー 67

みのり「お待たせしました!第六十七弾だよ!」
満「暫く更新できなくてすまん。ぶっちゃけ詰まってた。」
みのり「色々考えたんだけど、ハーツストーリーみたいな戦記物と、悪食娘みたいな私小説?ものとは書き方が違って当然だという結論に達したみたい?」
満「悪食娘は情景描写に力を入れているつもり。割と視線が近い位置で書いてるつもりだ。逆にハーツストーリーは視点を遠く、俯瞰的にイメージしてる。」
みのり「ということで、続きも宜しくね☆」

閲覧数:216

投稿日:2011/08/20 21:30:07

文字数:2,472文字

カテゴリ:小説

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  • ソウハ

    ソウハ

    ご意見・ご感想

    レイジさん、お久しぶりです。
    中々忙しくて来れなかったのですが、結構進んでいてビックリしました。
    まぁ、多分今回も感想+世間話的な長文になります、はい。

    読んでいてやっぱりレイジさんの作品はとてもお面白いです。
    最近自分の友達や後輩が小説をよく書いているのが見られるんですけど、皆上手なんですよね。
    どうやったらそんなにうまく書けるんだろうっていつも思います。
    だから今スランプ中でもあるので、いろんなサイトに行ったり、小説を読んだりしています(笑)
    それでよく、学校で休み時間とかに設定を考えたりしています。

    そういえば、レイジさんは夏バテとかしましたか? 自分は二回ほどしてしまい、夏休みが始まってからしばらくダウンしてました。
    今年の夏はこっちも結構暑かったです。
    ま、体調管理はきちんとしてくださいね。
    それでは長文失礼しました。

    2011/08/21 00:49:29

    • レイジ

      レイジ

      お久しぶりです。
      今は夏休みでしょうか?
      新作執筆したり色々していたらこんな感じにw

      お褒め頂いてありがとうございます☆
      皆さん小説書かれているんですね。
      コツというのはないですけど、書いたり、他人の(プロの)小説を読んだりしているとそのうち上手くなるんじゃないでしょうか。

      今はネットがあって、すぐに他人に見せることが出来ていいですよねぇ・・
      僕が高校生くらいの時はネットも未発達だったので、小説買いても見てくれる人がいないw
      そういう意味でこういうつながりが出来るネットの存在が羨ましいですw

      夏バテはしないですよ?
      食欲が落ちないんですよ、真夏でも^^;
      ソウハさんも、最近気温の変化が激しいですから、体調を崩さないように気をつけてくださいね。

      それでは今後もよろしくです☆

      2011/08/21 06:56:35

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