ノートPCを片手に自動扉を開けると、案の定、思っていた通りの光景が目に入った。
「ミクぅ~~~!今日凄かったねぇアレ!!あのビリビリッてヤツ!!」
「黒奏刀のことか?今日はちょっと本気を出してみたんだ。」
少佐の報告が終わった後、ワラは部屋に戻るなりミクに飛びつき、一人用の狭いベッドに引きずり込んだ。
で、今もこうしてじゃれ合っている。
この部屋には、昔のようにテレビもコンピュータもないから、結局こういう遊びを開始したらしい。
シクは、小さな机の上で、馬鹿みたいに大きな拳銃のクリーニングをしている。
彼女はいつもクリーニングキットを持ち歩いているらしく、外したスライドにオイルのようなものを塗りこんでいる。
みんなそれぞれ、憩いの時間を過ごしている。
狭くもなければ広くもない、私達が今夜、夜を明かすこの部屋で。
「ねぇ・・・・・・ヤミさん。」
不意に、シクが横から話しかけて来た。
振り向くと、手入れが終わったようで、外したスライドを元に組み立てていた。
「何?」
「ミクさんとワラさんって、とっても仲がいいのね・・・・・・。昔、ここで知りあったの?」
シクはうっすらと笑いながら、三十センチもありそうな拳銃を、人差し指でくるくると回した。
「そうだよ・・・・・・ぼく達はもともと陸軍のアンドロイドだったけど、突然、ある任務を境に、ここに配属されるようになった。それから、ぼく達はミクと出会って、一緒に任務をこなすようになった。」
ぼくはシクに近いベッドに腰掛けた。
「それで、ああなっちゃったんだ。」
シクがベッドの上でプロレスまがいのことをことをしているミクとワラを見て、にやりと笑った。
彼女は、初対面のぼくに対しても人見知りせず、変な例えだけど、自分から他人と親しくなろうとする、そんな感じだ。
だから、初めて会話するときも、好感が持てる。
それにしても、二人ともすごい格好・・・・・・。
ワラは戦闘服の上下を脱ぎ捨ててしまって、昔と変わらず下着姿。それについては、もはや何もいう気はないけど。
ミクは例のコンバットスーツを脱ぎ、多分保護スーツの類だろうけど、薄い膜のような黒いスーツ一枚で、ほとんど裸だ。
そんな姿で子猫のように遊んでいる二人がおかしくて、ついついぼくまで笑ってしまう。
「どうしてか、までは知らないけどね・・・・・・。」
そういえばそうだ。
ワラはいつから、ミクと仲が良くなったんだろう。
最も、いろいろなことがあったからかもしれない。
一緒に戦って、一緒笑い、一緒に泣いた。
たった一ヶ月程度のことだったけれど、その間に、二人の間に友情を超えた感情が芽生えたのかもしれない。
それに、二人とも友好的な感じだから、お互い仲が良くなることに、時間は掛からなかったかもしれない。
まあ、別にぼくは構わない。そんなことは。
仲がいいに越したことはないし。
「ヤミさんは、ああやって遊ぶのは好きじゃない?」
シクが微笑んだまま訊いてくる。
いくら仲が良くても、あんな格好で抱き合うのは、ちょっとした変態・・・・・・。
「そんな趣味はないよ。」
言葉だけで答えて、ぼくはノートPCのディスプレイを開け、電源を入れた。
情報編集に特化した軍用のオペレーティングシステムが起動すると、まず最初に、今日の任務中の無線通信ログや、衛星からの映像を映し出させた。
・・・・・・少し、気になることがある。
ブリーフィングの直後、今日の任務中に記録した全てのデータを、地下駐車場の通信車両かの機材から、このPCに移した。
任務中に、少し気がかりなことがあったから、それを今、再確認しようと。
本当なら、今目の前で騒いでいる二人に少しでも注意するはずだけど、折角再会したのだから、二人には精一杯遊ばせてあげよう。
通信車両でしようとは思ったけど、出来るだけ、みんなの傍にいようと思ったし。
ぼくはPCのモニターに視線を戻し、イヤホンをPCの端子に接続して、耳にはめ込む。
そして、衛星が録画した動画を再生する。
ここだ・・・・・・。
モニターには、デル、ミク、ワラ、網走博士が、技術研究所の通信連屋上のヘリポートで、テロリスト達の機械歩兵に銃口を向けられ、空中には多数のヘリと、まさに絶体絶命と言う場面。
あの時、ぼくは二つの軍事衛星で、その光景を立体的に捉えていた。
最新鋭の超望遠レンズが、あのときヘリポートに居合わせた人達全員をその表情まで鮮明に映し出している。
動画をある程度早送りすると、ヘリの一機からへリポートに向けて一人の少年が飛び降りた。
ミクオ・・・・・・。
彼のことはよく覚えている。
水面基地事件を起こし、ぼく達の運命を狂わせた張本人。
それにミクオは、かつてタイトさんを殺そうとしたことを知っている。
ワラほどではないけど、ぼくも、こののミクオのことに対して、恨みを捨てきることが出来ない。
そのミクオは機械歩兵とテロリスト幹部、そしてデル達の前に立ちはだかり、幹部達に向けて、なにやら話を持ちかけている様子だ。
ぼくはそのミクオと、網走博士に寄り添っているミクに注意した。
ミクオが、幹部達と話をしている・・・・・・。
ミクオが振り返る・・・・・・。
「ここだ・・・・・・。」
ミクオが振り返った瞬間、彼の右目が、デル達に向かってウィンクする。
そのとき、デルと機械歩兵の間に手榴弾が投げ込まれ、彼らが煙幕の中に消えた。
そう。まさにこの瞬間。
ミクオがウィンクする直前、ミクが腰から手榴弾を取り出しているのが、はっきりと映像には映っている。
そして、ミクオがウィンクするのと全く同じタイミングで、それは投げ込まれた。ミクの手から。
・・・・・・やっぱり何度見ても、ミクはミクオが合図するのを見計らって、手榴弾を投げた。そうとしか考えられない。
ということは、ミクとミクオの間には何らかの繋がりがある、としか、思い当たらない。
一度は、なぜなのかと思った。
でも、今回のミクには謎が多すぎる。どうして今日の任務で、あの技術開発研究所に潜入できたのか。それも、空軍無人機のカプセルで。
謎が多いからこそ、あのテロリストの幹部の一人、ミクオとの関連性も、否定することは出来ない・・・・・・。
ぼくはもう一度、ベッドの上でワラとじゃれ合っているミクを見た。
昔と変わらない、純粋な赤い瞳。
ワラに体のどこかをくすぐられるたび、ミクがくすくすと笑う。それはまるで、花が咲くように綺麗。
でも・・・・・・それでも・・・・・・。
ミク・・・・・・あなたは・・・・・・。
「ヤーミー!」
突然、ワラがぼくに向かって飛びついた。
正面から抱きつかれて、ぼくは息が止まるほどびっくりしてあわててPCのモニターを閉じた。
「もう・・・・・・驚かさないで・・・・・・。」
「仕事熱心なのはいいケド、今日はせっかく再会したんだよ?だから、ホラ、ヤミもぉ・・・・・・!!」
耳元でそう囁きながら、ワラがぼくに抱きついてくる。
今のワラに付き合えば何をされるか分からないけど、一応、突き当て見るのもいいかな。
「分かった。分かったよ。」
PCをベッドの上に置くなり、ワラの手がぼくの陸軍制服のスカートを掴んだ。
「えいっ!」
「きゃぁっ!!」
ワラが突然ぼくのスカートをめくり上げたせいで、悲鳴のような声が出てしまった。
「おーおー今日はベージュなんだー♪」
「な・・・・・・何なの?!」
ぼくが訴えると、ワラはにやりと笑ってぼくをベッドに引きずり込んだ。
「さぁ~て、今夜は眠らせないよ?」
「ちょ、何ッ?!やぁッッ!!」
「ハーイまずはボディチェックからいきましょうね~~~。」
ワラが看護婦を真似たような口調で言うと、ぼくの制服の中に手を入れて、直接いろんなところをいじくり繰り回した。
くすぐったい・・・・・・え、そんなところまで?!
でも、なんか楽しくて、気分が安らいだりもする。
こうしてみんなといて、一緒にじゃれあうのも、悪くないと思う。
「うふっ・・・・・・あはは・・・・・・!!!」
「お、もう乗り気かな?」
思わず笑出だしてしまうと、それを見ているミクも、シクも、一緒に笑い出した。
でも、ミク・・・・・・。
ぼくは、君に訊きたいことがある。
ぼく達に隠している、何かを。
ちゃんとその答えを訊くまで、ぼくは・・・・・・。
いろんな疑惑が頭の中に渦巻いたけど、その笑顔だけは本物なのだと、ぼくは信じるしかない・・・・・・。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想