少年があの浜辺についたのは夜でした。そこには誰一人いませんでした。
少年は次の日の夜まで待つつもりでした。そして少女が現れなかったら、いさぎよく帰るつもりでもありました。
岩に腰掛けて海を眺めていた少年は無意識に人魚の歌を口ずさんでいました。ちょうど一曲歌い終わった頃、誰かの足音がしました。
あの少女でした。
少女は王宮の自分の部屋から海を眺めていたとき、少年の歌を聞きました。そしてどうにか歌い終わるまでに間に合うよう、全力疾走してきたのです。
突然現れた少女に少年は焦ってしまい、海に飛び込もうとしました。
「待って!!」
少女の一言でどうにか思いとどまったものの、少女に向き合う勇気はまだありませんでした。
少女は勢いで止めてしまったので、その後どうするかは考えていませんでした。けれど、少年の近くに寄って腰を下ろすと自然と落ち着いてきて、言いたいことが頭に浮かんできました。
「あの嵐の日に私を浜辺まで運んで、歌を歌って人を呼んでくれたのはあなただったんだね。ずっとお礼が言いたかったの。本当にありがとう。それとね、王宮で一緒に暮らしてたときも本当に楽しかっ……」
急に言葉が止まったので少年は気になって振りかえると、少女は泣いていました。
「ふぇっ……やだよぉ……いっちゃやだぁ……一緒にいたいよ……」
目を覚まして少年がいなくなったことを知ったとき、少女はもう少年には会えないことを悟りました。それから涙が枯れるまで泣き、食事もあまりのどを通りませんでした。
次第に衰弱していく少女を見ていられなくなった国王は声をかけました。
「あの子は自分の意志で海に帰っていったんだよ。本当にあの子のことが好きならそれを尊重してあげなくちゃいけないよ。それにもし戻ってくると信じるなら、涙で迎えるわけにはいかないよ」
そういわれた少女はその日から泣くことをやめ、きちんと食事もとり、少年が戻ってくることを信じて待ち続けていました。そして少年に会っても泣くもんかと心に決めていました。しかし、実際少年を目の前にすると涙を抑えることができなくなったのです。
泣き続ける少女を見て少年はどうしていいのか分からなくなりました。なので以前少女がしてくれたように、少年は少女を抱きしめて言いました。
「ごめん。俺、臆病者だったんだ。俺に勇気があれば、寂しい思いをさせることはなかったのに」
少女は少年の背中に手を回し、応えました。
「そんなことないよ。今すっごく幸せだもの。これからもずっと一緒にいてくれる…?」
少年はさらに強く少女を抱きしめ頷きました。
「とっても感動しましたぁー!」
そんな大声を張り上げて岩影から飛び出してきたのは、手のひらタコでした。その後ろから少年の姉と、国王もでてきました。
手のひらタコは飛び跳ねながら近づき、少年の頭の上にのっかりました。そして二人に祝福として、何か願いを一つだけ叶えてあげたいと申し出ました。
少年はなにも望みませんでした。少女の願いを叶えてあげたかったからです。しかしどうやら少女も同じことを考えていたようです。二人は苦笑しました。
少年が手のひらタコの申し出を断ろうかと思ったとき、少女が少年を人間にしてほしいと手のひらタコに頼みました。少年が驚いて少女を見ると、「その方がずっと一緒にいられるでしょ?」と少女は笑って答えました。
手のひらタコは大きく頷くと、少年の頭からいそいそと降りはじめました。そして地面についた瞬間、手のひらタコの体が光りだし、瞬く間に大きくなってとても美しい人間の姿になりました。
そこで声を上げたのが国王でした。そのタコ、もとい魔女が対の歌を教えてくれたお姉さんにそっくりだったからです。
その声に振り返った魔女は言いました。
「あらぼうや、お久しぶり。言ったことをちゃんと守ってくれたようね。礼を言っておくわ」
その魔女こそがあの対の歌を流した張本人だったのです。
魔女は人間と人魚が仲良くなれるよう願っていました。けれどもいくら魔女の魔法でも、心まで変えることは出来なかったのです。だから魔女は歌を流したのでした。
人間の姿になった魔女は少年を人間にしました。人間になった少年は少女と一緒に王宮に住み、町中に真実の人魚の話をしてまわりました。それを聞いた町の人々も、国を救ってくれた少年の言葉を信じて人魚をおそれることはなくなりました。
そしてそのことを人魚たちに伝えたのは少年の姉で、人魚たちも人間を恐れることなく浜辺に上がってくるようになりました。
それ以来その国は、人魚の歌声が響くにぎやかな国になりました。めでたしめでたし。
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はじめまして冷牙といいます。
すごくいいお話でした。
これからも頑張って下さいね。
2009/12/28 15:54:25
月月月
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服部様、紅翼様、ご感想ありがとうございます。
これを励みに次もまた何か書いてみます!
2009/05/15 17:09:06