「しかし、凄い町だな」


私がロシアンさんの話を聞き終えると、神威さんがぽつりと呟いた。


「え?けっこう普通だと思いますけど…」
「いや考えてみろよ。一日にこんなに事件が起きる町普通じゃないだろ」
「確かにそうですけど…」
「ま、こんな世界の町だからね…って、いいところなかったの?」
「事件とかそっちの印象が強すぎるんだよ」


確かにいいところもあったけど、それよりも事件(いっぱい)のほうが思い出しやすいよね。
両手に包丁とか、変なニセモノ親衛隊とか、多すぎる銀行強盗とか。

…変にインパクトある町だな。


「いいところもちゃんとあるからね!?」
『変な印象を与えたのはルカ、お前だろう』
「えー!?私のせいなの!?」


ごめんなさいルカさん。否定できません。
だって普通の刑事さんは鞭持たないし、骨折とか全くさせず本当に最小限の怪我しかさせないし。
同じルカですけど、私には無理ですよ。あなたを庇うのは。


「…あのー」
「ん?どうかしたのルカちゃん」
「あの、銃とかは…」
「あー普通の刑事は持ってるわよ?ただ私とは相性が悪いの」
「ソウデスカ…」


あれだけ鞭を使いこなしていたら、そりゃ銃よりも向いているよね。
かなり怖い人だけど。

あのときの表情はまるで、民を跪かせる某国の王女のようだった。
何気ない笑顔の中に残酷さを灯した、あの動きはとても恐ろしく、逆らうことなどできなかった。
神威さんは目を背けなかったみたいだけど、私はひたすら白衣に顔をうずめて視線を逸らしていた。
見てしまえば、地獄を間の当たりにしていただろうから。


「ルカ。ルカ」


神威さんの声に我に返れば、視界がにじんでいた。
あのときの光景は、私の心を恐怖に突き落とした。
だからこうやって思い出しただけでも、涙が出てくるのだろう。


「おい、涙目だけど大丈夫か」
「だいじょうぶ、です」
「そうか…ま、無理はするなよ」


そう言うと私の頭をポンポンと軽く叩くように撫で、神威さんは少し離れて歩き出した。
相変わらず鋭いよね…。


「…だいぶ怖い思いさせちゃったみたいね」


気まずそうな顔でこちらを見てくるルカさん。
わざとじゃないにしろ、『あれ』は私たちの世界ではまず見ない。
それに、もう少しで人を殺すところだったのだ。
しかも私たちは『大切なお客人』らしい。
さすがにこうなるよね。


「このままじゃ申し訳ないし、せっかくだからいろいろな店紹介するわよ!」
「店?ここにも普通の店はあるのか?」
「当たり前でしょ。先生はここをなんだと思っているのよ」
「いや、ネルの店とハクの店の印象が強すぎてな…」
「…なんかごめんなさいね」


やはり、いろいろすごい町である。


「どこでも連れてってあげるわよ! どこがいいかしら?」
「そうですね。皆にお土産を買ってあげたいので、お土産屋さんはありますか?」
「あるわよ。私のオススメ店ツアーを開催してあげるから、二人ともいらっしゃい!!」
『おい、我輩は無視か』


いきいきとした笑顔で先を行くルカさん。
お互いに顔を見合わせて笑い、歩き出す私と神威さん。
そして苦笑しながらルカさんの横に追いつくロシアンさん。
ヴォカロ町には、どんなお店があるのだろう?


まず最初に立ち寄ったのは、ヴォカロ町で一番大きいというお土産屋。
地元の食材を使ったお菓子などの食品や、地元をアピールしたグッズが沢山売られている。
名産のものをアピールした商品も多かったが、やはりヴォカロ町はボカロの町だからか、ボカロ関連グッズも多々あった。
そしてお菓子のところをよく見ると、ここが元・京都であるからか、再現された八○橋も置いてあった。美味しいよね。
ヴォカロ町限定の○ツ橋と他のお菓子をいくつか買って店を出た。
…実はとあるストラップを二つ内緒で買ったのだが、これは後でプレゼントすることにしよう。


「へえ、あなた達の世界ではそんなに有名なの?八ツ○」
「あ、そうなんですよ。京都を代表する和菓子の一つでして、京都に行ったらお土産は必ずこれだ!というほど買いますよ」
「生地だけのものや、餡を包んだものが代表だな。中に何かを包んだものは他にも抹茶、黒ごま、いちご、チョコ、栗などいろいろあるぞ」
「へー! そんなにいっぱいあるのね! 食べてみたいわ」
『食欲が出てくるな…食べてみたい気もするぞ』


京都に旅行に行けば必ず買う、そんな定番のお土産である。
すごく美味しいから皆さんも是非食べてみてくださいね!


次に来たのは雑貨屋。
どこに行っても雑貨屋を見に行くのは私の趣味である。
ロシアンさんと神威さんは見ないとのことなので、申し訳ないので店の外で待機してもらっている。
ルカさんと一緒に小物を見て、にこにこしながら店内を歩く。
そしてなぜか布などといったものまで売っていた。


「この布可愛いですね。…そうだ」
「おっ、何かいいこと思いついたのかしら? ルカちゃんのことだし、多分可愛いことよね」
「え、それどういう意味ですか?」
「ふふ、何も気にしなくていいわよ? ただちょっと羨ましいなって思っただけよ」


ルカさん曰く、『ヴォカロ町の頼れるお巡りさん』として動くことが多いため、普通の巡音ルカのような可愛い行動ができないという。
…ルカさん、ところどころ可愛いと思うんだけどな。


そして他にもいくつかお店を回り。


「あの、お腹がすいたのでどこか食べ物屋さんがいいです」
「そういえばもう日が傾いてきているからな」
「あら本当、もうこんな時間なんだ。ごめんなさいね、ずっと動きっぱなしだろうから、ここから一番近いところでいいかしら」


そしてやって来たのはとある小さなラーメン屋さん。
ここはヴォカロ町で数少ない三ツ星ラーメン屋さんの一つで、大将とは知り合いらしい。
数年前、味はとてもいいのに客があまり入らなくて閉店寸前のところにミクさんがバイトで入り、そのミクさんの提案でネギラーメンを出し始めたらそれが大好評、それからずっとネギラーメンが店の看板になっているらしい。
店を救ってくれたミクさんを称え、ネギを中心としたメニューが数多くメニュー表に並ぶこの店の目玉は、もちろん刻んだネギがたっぷり入ったネギラーメン。
このラーメンの特徴として、ネギは少し焦がしてあり、スープの脂っこさを油通ししたネギがいい感じに消して、さっぱりとした味が楽しめる点が挙げられる。
大変美味しゅうございました。


「確かに美味いラーメンだった。客足が絶えないのもわかる」
「でもいいんですか?ご馳走になってしまって…」
「いいのいいの、私がそうしたかったんだから! そのお金は別のところに取っておきなさいな」


結局おごってもらうことになり、少し申し訳ない…が、しょうがないか。


「もう日が暮れちゃったわね。このまま帰ってもらうわけにもいかないし、どうせだからうちに泊まっていきなさいな!!」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんよ。それに、うちの家族も会いたがってるわ。遠慮なんてしなくていいから!」
「じゃあ…お言葉に甘えて、一晩世話になるよ」
『久々に我輩も泊まってよいか? こやつらの世界の話に興味があるのだ』
「いいわよ。って、ロシアンはけっこううちに泊まってるわよ?」
『む、そうであったか? あそこは居心地が良いのでな、我輩の心も休まる』



というわけで。


「「おっ邪魔っしまーす!」」


ボカロマンションの皆さんのお部屋に泊めていただくことになりました。




「…へー、そっちの世界ではそんなのがあるんだー」


シャワーを借りた後、リビングに全員集合。
みかんを頬張りながら、目をキラキラさせて話を聞いてくれるリンさん。
ちなみにみかんを一個わけてくれました。手作りらしいよ。美味しいね。
レンさんは、リンさんにツッコミを入れながらも楽しそうな顔をしていた。


「やっ。今日は一日災難だったわね、先生?」
「あぁ…なんか驚きの連続で疲れたよ…」
「あっはは。疲れてるとこ申し訳ないんだけど、一杯付き合ってもらえる?」
「別に構わないが。…おっ、芋焼酎か。久しぶりだな」
「あまり飲まないの?」
「酒自体、滅多に飲まないな。厳密にはアルコールは喉を痛めるから」
「職業柄ね…仕方ないから一杯だけにしてあげるわ」
「ありがたいね」


神威さんとメイコさんはお酒を片手に話し出した。

その間、他のメンバーで集まっておしゃべり。
ちなみに私はホットミルクを飲んでました。



「ねぇルカちゃん。さっきから気になってたんだけど…何縫ってるの?」


ルカさんは私の手元を見て、クエスチョンマークを浮かべていた。
皆で楽しく喋りながら、私はひたすら裁縫をしている。
裁縫セットはミクさんに借りた。


「うふふ、内緒です。雑貨屋で言ってたことに関係しますけどね」
「あら、気になるわね。…彼にあげるのかしら?」
「そ、それは別に買ってありますから。これは別ですよ」


そしておしゃべりを続けているうちに縫い終わり、気づけばもう夜十時半である。


「もうこんな時間か。時が経つのは早いな」
「じゃあこっちの部屋に。布団敷いておいたから」
「何から何まですみません」
「いいのいいの。せっかくの(新婚)旅行なんだから」


…なんか小声で聞こえたけど気にしないでおこう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町へ遊びに行こう 7【コラボ・ゆ】

遅くなりましたごめんなさい。
こんばんはゆるりーですどうもどうも。

今回は全体的にほのぼのとしております。
せっかくの旅行だからね、くつろがなきゃね。
オススメ店ツアーは私が勝手に書きました。とくにお土産のくだり。
私の地域では、「京都に行ったらお土産は八○橋」が定番なのですが、皆さんはどうでしょう?

今回のお話について。
がっくんが芋焼酎飲んでますが、我が家のボカロはお酒を飲む描写が少ないんですね。
がっくんはチューハイの一回、ルカさんは梅酒を一回、めーちゃんが日本酒とワイン合わせて三回、兄さんがワイン一回…だったかな。初期のミク誕あたりでお酒飲んでたような。
というわけで割とレアな光景でした。

第6話:http://piapro.jp/t/1Ns4
next第8話:http://piapro.jp/t/LN_4

閲覧数:187

投稿日:2014/04/29 18:53:21

文字数:3,892文字

カテゴリ:小説

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    ちょっと待ったゆるりーさん。
    あんた味★子読んでんのか。
    盟友ー!めいゆー!(落ち着け
    なんか味●子っぽいけど読んでない可能性の方が高そうだから言い出すのは自重した俺が馬鹿みてぇじゃねいかい盟友!(落ち着けよ

    2014/04/22 23:52:30

    • ゆるりー

      ゆるりー

      数冊しかありませんが読んでますよ。大好きです。
      ちなみに将◯の寿司、クッキング☆パ、美△しんぼも読んでますよ←

      2014/04/26 00:18:07

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    八◎橋よりも茶団子派なTurndogです。親が出張に行く時はいつも16個入り×3箱買ってきてもらいます。全部自分で喰います←
    どうでもいいけど今『やつはし』変換したら『奴は死』って出たんですがこのパソコン何を考えているのでしょう。

    実はルカさん拳銃の扱いも超一流って設定があるんですよ。
    にも拘らず使わないのはきっと超一流であるが故に無意識に頭とか延髄とか心臓とか急所ばっかり撃ち込んじゃうからなんでしょうね←
    待ってルカちゃん泣かないで! ルカさん怖くないよ!
    割と簡単に人殴るけど怖くないよ!(え?

    そしてネギラーメンがさりげなくおいしいタイプの!
    ラーメンとネギの相性は国際憲法で約束されていると思うんですよ←

    そう言えばうちのめーちゃんなんも考えずにバリバリ呑みますねぇ。
    そりゃバイオメカだから喉に対するダメージなんてないのかもしれんがw

    今少しずつ書いてますがほのぼのした空気があんまりなくて逆に嗤えます。なぜだ。

    2014/04/21 13:20:53

    • ゆるりー

      ゆるりー

      新しい伏字ですね!w
      け、けっこう食べますね。
      恐ろしい思考回路をお持ちのパソコンですね。我が家のがっくんと馬が合いそうな。

      えっ最強刑事じゃないですか!
      てっきり力を込めすぎて拳銃握りつぶしちゃうのかと←
      割と簡単に人殴るのは十分怖いですよ!w

      美味しくしてみました!ミスター味○子参照。
      美味しいですな←

      焼酎20本くらい開けるんでしたっけ?
      メカなのにそんなに酒飲んで大丈夫なんでしょうか。

      そりゃあの条件ならほのぼのしてなくて当たり前ですよw

      2014/04/22 21:53:51

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