馬鹿。ばか。何やってんだ、俺。
家路を急ぎながら、自己嫌悪。そうだ。当たり前だ。芸能人だから、俺の知らない相手だから、リンと付き合っているとか、男とか、ぶっ飛んだ発想をしたのは、多分、俺自身が俺の知らないリンを、それを知っている誰かを敵と思っているからだ。
攻撃対象。
それにしても、女相手に嫉妬とは。
リンの対人関係を崩す気か、俺は。別に、リンが誰といようと関係ない。俺とリンは双子でも違う人間なのだから、これからいくらでも俺の知らない誰かと知り合う機会はあるだろう。それにいちいち反応するつもりか? 過保護だ。過保護。そう、過保護。
俺はリンの保護者でもなければボディーガードでもないし、俺は俺で、リンはリンで、別々なのだ。違う。俺たちは同じじゃない。
同じじゃないんだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は家の扉を開いていた。
俺が家に帰ってから、一時間ほど後に、リンが買い物から帰ってきた。GUMIとは途中で分かれたらしい、一人で帰ってきて、すぐに部屋に戻って行って、出てこない。
飲み物を持っていくくらいなら、自然かな。のどか沸いてない、とか聞いては言ってみれば、いつものように話せるだろうか。
そんなことを考えているうち、リンの部屋のドアが開く音がした。ドアに小さな鈴がシールで貼り付けてあるので、リンの部屋のドアを開くと、チリンチリンと可愛らしい音が鳴る。リンはばたばたと階段を降りていって、それから静かに階段を上って戻ってきて、再びドアが開き、しまる音がした。
飲み物でも取りにいったな。じゃあ、飲み物を餌にはできないか。お菓子でも持っていこうか。いや、お菓子なんかどうしたの、と聞かれたら答えられない。
ベッドの上にうずくまって寝転がり、猫のぬいぐるみを抱えて、考えていた。いつからこうなってしまったのか、と。
元々、おれたちが一緒にいたのは小学校の高学年までずっとで、友達も半ばそれが当たり前のようになっていたので、少し茶化しても、それまでだったっけ。
けれど、リンが中学校に入って、芸能界に興味があるといったときには、正直と惑った。やっていけるはずもないと思ったのだ。俺がリンのことに関して予想が外れたのは、後にも先にもこのときだけで、リンのデビュー曲は記録的なヒットを飛ばした。それが、更に俺をリンから遠ざけることになった。
別にリンが何かをしたわけではない。俺が勝手に遠ざかっているだけだ。俺が勝手に違和感を、疎外感を覚え、勝手に蚊帳の外にいるような気になって、勝手に悲しんでいるだけだ。分かっている。そんなことは。
だが、俺にとってリンは、いつまで経っても姉らしくない姉で、俺だけと手をつなぎ、俺だけと笑いあうと思っていた。
子供の幻想は、時に残酷なまでに無常にその心を引きちぎる。
俺は男でリンは女で、でも双子の兄弟で、一番近いはずなのに、誰もが越えられるはずの壁が越えられない。
「どうして男だったんだろ」
俺が女だったら、リンが男だったら、双子じゃなくてただの兄弟だったら、何かが変っていたのだろうか…。
朝、俺が起きてくると、リンは既にいなかった。まだ朝の九時。勿論休日なので、ゆっくり起きてきたとはいえ、リンがおきて活動を始めるにはまだ三時間はあると思っていたのだが…。
ふと携帯電話に目をやると、着信がある。留守電だ。再生すると、リンの声が聞こえた。
「――レン…早く…公園…きて…。信じてる…」
何だ、何だこれ。
俺の頭の中はすっかり混乱してしまっている。兎に角、リンの所に行かなければ。俺は急いで服を着て、家に一番近い公園へと急いだ。
公園に着くと、リンの姿を見つける。
「リン!!」
俺が呼ぶと、リンはこちらを見て、嬉しそうに手を振った。いつものように。
「レン。遅いよ。もう、一時間も待っちゃった」
「は…?」
ぽかんとしている俺の手を握って、リンは笑った。
「この間のデートの続きがしたかったの」
あ。
気がついた。リンの服、この間GUMIと一緒に見ていた服だ。まさか、俺と遊びに出るためにわざわざ、新しい服を買った? リンが? 何故。理解できない俺の手を引いて、リンは歩き始めた。
遊園地。動物園。水族館。映画館。
服屋を見た。本屋を見た。俺の見たいもの、リンの見たいもの、二人の見たいものをすべてみて、互いに満足して、笑った。自然に、笑っていた。この数日間の、妙な距離感は一気にゼロに変っていた。
家に戻ってくると、リンは満足げに笑っていた。
「楽しかった?」
俺が聞くと、リンは青い綺麗な、吸い込まれてしまいそうな瞳で俺を見上げ、
「レンはどうだった?」
と問い返した。
「楽しかった」
再び満足げにワラって、リンはソファに転がった。
「私も楽しかった。レンのこと好きだし。好きな人とデートできて、幸せな一日だったよぉ」
リンが何気なく行った言葉が、おrの胸にぐさりと突き刺さった。悪意はない。だが、だからこそ、傷は大きい。
「リン、デートってのはさ、本当に好きな人と行くもんだよ」
「だから、私はレンガ好きだからいったの。いいでしょ?」
ふてくされたようにリンが反論した。俺はリンが何も考えていなくて子供の言い訳のように言っているのを分かっていながら、リンを睨みつけた。
「リンの『好き』は俺の『好き』とは違うだろ!!」
言葉の勢いは強かった。リンが戸惑いながら、俺を見ていた。
「何、それ…」
どうにか絞り出したらしい声が、震えていた。今にも泣き出しそうな声、表情で俺を見ていた。はっとして、ごめん、といいかけた俺に、リンはさっきの俺より強い語勢で、
「何それ! わかんないよ! 私の好きとレンの好き、何が違うの? 私がレンを好きって言っちゃいけないの?」
「違…」
今度は俺が戸惑う番だった。リンは畳み掛けるように、
「レン、このごろ変! リンのこと避けて、リンのこと嫌いになったの? 不安で、怖くて、どうにかデートに誘っても聞けなくて、好きっていったら怒られて、もうワケわかんないよ! リンはレンのこと、ずっとずっと好きなのに…っ!」
何かが爆発したように、リンは泣きながら俺に訴えかけていた。
俺の中の何かが、音を立てて壊れていくような気がした。
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ご意見・ご感想
日枝学
ご意見・ご感想
読了! なんというか同じなのに違うような違うのに同じような、上手く言い表せないですけれど、二人のそういう微妙なズレが表出してきましたね
これは良い盛り上がり! GJです!
2011/07/05 12:45:48
リオン
双子って言っても二卵性双生児ですしね。男女だから。
小さいころは女のこの方が大きいのに、気付いたら男のこの方が大きくなってるのって可愛いです。
これからもお付き合いくださいませ^^
2011/07/05 18:00:53