KAITO+リン

+++


「ちょっと、動かないでよにぃ!」


ぎゅ、と動くカイト兄の手を掴んで睨んだ。
あたしの声に困ったような笑顔でごめん、と首を傾げる。


「凄くはみ出たね、これ」
「うるさい」


今度は力を込めてカイト兄の手を握ってやる。
だから集中しなきゃもっとはみ出ちゃうじゃないの。
青色の筆をそっと、カイト兄の爪に乗せる。
かれこれこれで八回目なのに、色を載せた筆は綺麗に滑ってくれない。
何度か修正を心掛けた左手と右手の親指から中指の爪は綺麗にまだらだった。
最初は多すぎて、次は少なすぎて、次は上手く行ったと思ったらはみ出して。
二度塗りしたせいでぼこぼこになったり、綺麗にしようとすればするほどそれが目立って逆に汚くなるばかり、で八回目のリベンジも綺麗なまだらが出来上がった。


「……」


なんだかもう嫌になってきた。
ボトルに筆を戻して、残り一つのキャンバスをじっと見る。
カイト兄の手はレンと違って硬くて大きい。
大きい分マニュキュアも塗り易いと思っていたのに。


「リン?」
「全然上手くいかない」


何これ、とあたしは残り一つのキャンバスから手を離した。
そのまま床に寝転ぶ。


「あと一つ残ってるよ?」


ほら、と右手をひらりひらり振るカイト兄を見て、あたしは自分の爪を見た。
ぴしっと綺麗に塗られたオレンジのマニュキュア。
それはカイト兄の作品だ。
あたし達は皆カイト兄にマニュキュアを塗ってもらってる。一番綺麗に塗れるからだ。
めー姉はそんな所ばかり器用でもしょうがない、なんて言っていたけれど。


「それ全部除光液で消してにぃが一人で塗った方が綺麗になるもん」
「塗ってくれるって言ってくれたのに……」
「だって、格好悪いじゃん、そんな爪」


あたしだったらヤダ。そんな爪でライブで歌ってマイク握るなんてダサい。
完全に上手くいかない事の憤りでカイト兄に当たってるのは解っていた。
そんな風に考える自分が嫌。凄く嫌。
むすっとした顔になっているのは解っていたけれど、あたしはそれを隠しもせずに眼を瞑る。


「リン」


ふわっと、カイト兄の優しい声があたしの耳元で囁く。
視線をそちらに向けると、いつもの優しい笑顔であたしに青色のボトルを渡す。


「可愛い妹が塗ってくれたんだってマスターに自慢するんだから、最後までやってくれなきゃ困るよ」
「自慢になんかなんないよ、そんな汚い爪」
「汚くないよ。ほら、どんどん上手になってる。リンの頑張りが俺の爪で全部解るよ?」


リンは上達が早いから今度から俺の爪で練習する? なんて笑うカイト兄。
……何さ、見え透いたお世辞言っちゃって。
にぃがそんな事言う人じゃないのは知ってるけれど、そう悪態吐いた。
それでも、あたしは起き上がってボトルに手を伸ばす。


「笑われたってあたし知らないかんね」


ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ネイル 【KAITO&鏡音リン 小説】

マニュキュア塗りあいっことか、可愛いよなぁって思って。

閲覧数:537

投稿日:2008/12/17 21:51:22

文字数:1,208文字

カテゴリ:小説

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  • 成海

    成海

    ご意見・ご感想

    > 時給310円様

    うあああああああ、今更気付きました!!!orz
    ご感想有難う御座います!!!
    小粋な台詞になっていましたでしょうか。
    初めて書いた時「どんどん上手になってる」がどう頑張っても自分が汚れてるせいかエルォく聞こえてたので、安心致しました。

    お返事遅くなって本当にすみませんでしたっ!!!orz

    2009/04/07 20:07:07

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    > 「ほら、どんどん上手になってる。リンの頑張りが俺の爪で全部解るよ?」

    んん、なんて小粋なセリフ。
    こんなセリフが書けるようになりたいものです。

    2008/12/19 23:50:09

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