東京・原宿で人気の玩具店「キディディ・ランド」。
ここの店長は、ちょっとそそっかし屋だけども明るい、カイくんが務めている。
毎日子供からお年寄りまで、いろんなお客が、欲しいものを探しにやってくる。忙しい毎日だ。
ある日。カイくんのお店に女性のお客さんがやってきた。
背が高い女性で、髪を一つに束ねて後ろに垂らしている。
服装もさっぱりしているが、どことなくエキゾチックだ。
彼女は、店の中の玩具の売場を、興味深そうにながめている。
カイくんと目が合ったので、彼は
「いらっしゃいませ」と、さりげなく声をかけた。
彼女は黙ったまま、会釈を返す。そして、パーティー・グッズの前に立って、いろんな変装グッズをながめている。
カイくんは、そばに近寄っていった。
「いまこの着ぐるみが、人気があるんですよ」
彼女はまたしゃべらず、にこにこしている。
(「外人さんかもしれないな」)彼は考えた。
彼女は変装用の忍者グッズを見ている。そして、大きな玩具の手裏剣を手に取った。
「コレ、手裏剣?」
聞きとりにくい声で言う。カイくんは答えた。
「そうです。シュリケン。イッツ・ア・ニンジャ・スター!」
彼女はにっこり笑うと、
「コレ、ください」と言う。
「かしこまりました」
●ソーリー?
数日が経って。
本屋さんで立ち読みをしていたカイくんは、ふとあの手裏剣を買った女の人を思い出した。
たぶん、外人さんなのだろう。何故か気にかかる。
僕、英語を勉強しないとダメかな。
彼はそう思って、英語の参考書やテキストのあるコーナーへ行ってみた。
いろんな本がある。でも、結局その日は、英語の本は買わなかった。
その3日後、カイくんの勤めるキディディ・ランドにまた彼女がやってきた。
あ、あの人だ。カイくんは思った。
彼女は、ニコニコ笑いながら近づいてくる。
「いらっしゃいませ」
「あー」
彼女は聞きとりにくい声で言う。
カイくんは思わず聞き返した。
「ソーリー?」
「あら、ごめんなさい」
彼女はおほんと咳払いした。
「この間は、ごめんなさい。私、のどの具合が悪くて」
あれ、日本語しゃべれるんだ。もろ日本人だ。
「東京へ出てきたの、久しぶりで。すっかり変っちゃってて、気押されちゃって」
「あ、ああ、そうでしたか」
「黙ったまんまで、悪いなと思ってたの」
彼女は黒い髪を揺らして、ほほ笑んだ。
「この間の忍者グッズ。可愛かったから、壁にかざっているわ。どうも、ありがとう。また、来るわね」
そう言うと、笑って立ち去った。
●誰でも、日本語でオッケー、だよ
「お兄ちゃん」
売場のカウンターの脇のスタッフドアの陰から、カイくんの妹のミクちゃんが出てきた。
高校生の彼女は、学校が休みの日や授業が終わった後などに、店のバイトに入ることがある。
「今、あの人のこと、外人さんだと思ったでしょ」
「うん、実はそうだ」
彼は苦笑いした。
「そうね。ちょっと変わった人だものね。でも素敵な人。だけど、お兄ちゃん」
彼女は口をとがらせた。
「もし、外人さんだったとしても、やたらと英語で声をかけない方がいいよ。誰にでも日本語でオッケーだよ」
ミクちゃんはつづけた。
「それと、さっきみたく聞き返すときは、“ソーリー?”じゃなくて“パードゥン?”だよ。ダメだなあ」
僕、まだまだ勉強が必要かな<(_ _)>
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