小さな頃から夢を見ていた。多くを望んでた訳じゃない。ただ、誰かに此処に居ても良いと言って欲しかった。私が必要だと言って欲しかった。たった一人で良いから…私は…。
「浬音!」
「あ、は、はい!」
「ぼけっとしてないで!さっさと朝御飯作りなさい!全く役立たずなんだから…!」
「ご、ごめんなさい!お母様…!」
「そのダラダラ長い髪も切りなさい!鬱陶しいわね!あの女にそっくり!」
「ごめんなさい…。」
私には『両親』と呼べる人が居ない。母は私が2歳の時に出て行った。父は暫くは私を大切にしてくれていたが、私が父の娘では無いと判り、父は私を憎む様になった。自分に少しも似ていない私を見ると苛立ちが収まらないらしく、手近にある物を投げ付けて来る。最近では父の顔を殆ど見ない。
「浬音、浬音おいで。」
「お兄ちゃん…。」
「その傷…また母さんに?」
「ううん!これ、さっき廊下で転んじゃったの。それで壁にゴチーンって。」
お兄ちゃんは心配そうに私の頬に触れた。父の再婚相手の連れ子であるお兄ちゃんとは、確かに血は繋がっていないけど、いつも優しくしてくれる。お兄ちゃんだけ…私にとっての『家族』はお兄ちゃんだけ…。
「お兄ちゃん…。」
「ほら、明日は浬音の誕生日だろ?2人でお祝いしよう?」
「うん…!ありがとう、お兄ちゃん。」
父も、母も居なくても、お兄ちゃんが居てくれればそれで良かった。ずっと優しくて、私に色んな事を教えてくれて、私をいつも守ってくれる。それだけで充分だった。
「…あ…0時になった!」
「誕生日おめでとう、浬音。」
「うん!18歳になりました!」
「ああ、もう子供じゃないな、浬音も…。」
「そーだよぉ、お酒とかはまだダメだけど、私も充分おと…!」
振り返るとほぼ同時に、お兄ちゃんは私の腕を掴んだ。いつもの優しい笑顔じゃなくて、見た事の無い恐い顔で。
「お兄ちゃん…?」
「浬音…俺…俺、お前が…!」
いきなりベッドに乱暴に押し倒されて、途端に全身が総毛立った。
「浬音…。」
「や…嫌…!嫌――――――ッ!!!」
「浬音?!」
これは誰?お兄ちゃん?目の前のこの人は誰…?お兄ちゃんは何処…?優しいお兄ちゃんは何処へ行ったの…?私の『家族』は何処…?お父さんは…?お母さんは何処?!何処なの?!こんなの嫌…こんなのもう嫌!もう嫌!もう嫌!もう…1秒だって居たくない…!
「浬音…っ!!」
スローモーションみたいに世界がゆっくりと動いた。お兄ちゃんが手を伸ばしていたけど、その手を取ろうとも思わなかった。
「…い!…おい大丈夫か…!おい…!しっかりしろ…!」
「救急車!何やってる!早く救急車!」
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