せまく暗い、閉じた部屋にうずくまって、浅い息をくりかえした。
体中が、貫かれるように激しく痛む。残された時間がわずかであることが、手に取るように分かった。
千切れた紙飛行機のかけらを、握りしめる。
あの子の姿が、浮かんでくる。風に舞い上がる白いワンピース。きらきらと輝く髪。
あの子に、会わなきゃ
だって、もう最後なのに
空を映したような瞳。花のように色づく頬。
部屋の扉が開く。
「なんだ、まだ生きているのか」
そう呟いた看守の声は、耳に届かなかった。
頭の中は溢れる想いで渦巻いて、衝動に突き動かされるまま、彼を突き飛ばし、部屋の外へ飛び出していた。
あの子のところへ
『いつかきっと、出られるからね』
ウソだったはずの、君の言葉がホントウに変わる
どこにいるのかも知らない。
どうやっていくのかも知らない。
でも神様、最後だけは、僕に力を貸してください。
あの子のところへ――
* * *
息が苦しい。歯を食いしばっていないと叫びだしてしまいそうな激痛に、顔が歪む。それでも走り続ける。周りの景色は、目に入らない。
いつの間にか、壁も床も、白くなっていた。でも、何故こんな場所に向かっているのかわからない。
だってあの子は、遠くへ行くと言ったのに
真っ白な階段を、幾つも幾つも、駆け上がって。
ついに、足が止まった。
白いドアに書かれた文字が、ぼやけた視界に浮き上がる。
鏡音 リン
白い部屋に、飛び込んだ。
部屋のまっすぐ、奥に、懐かしい君が横たわっていた。
君の小さな体に、幾つもの管が、鎖のようにつながっている。いつも微笑みをくれた口許を、透明な緑の覆いが隠していた。
ああどうして
一歩一歩歩みよると、君は、青い瞳だけで僕を見た。
みひらいた目から、ぽろぽろと、涙が零れる。
強く握れば砕け散ってしまいそうな、小さな右手に、左手を重ねた。
君に笑ってほしくて、笑みの残骸のようなものを顔に浮かべる。
「リン、君に会いたかったよ。
僕の名前は、レンというんです」
神様、どうして、リンに幸せをくれなかったのですか
僕は、リンに会えただけで、十分すぎるほど幸せだったのに
* * *
会いたい、会いたい、会いたいよ……
左手の下の紙飛行機を、握ることすらもうできない。
ねえ、あなたは、今もどこかで笑っているよね?
お願い、もう一度だけ
暖かいはずの、けれど冷え切った部屋の中で、願いは、祈りにも似て。
冷たくなってしまったのは、この部屋ではなく、私の心。
部屋の扉が、開いた。
ああ、これは幻でしょうか
それとも小さな夢でしょうか
神様が最後に、私にくれた
握り返すことはできないけれど、あなたの左手の温かさを感じる。
ほんものの、温かさ。
「リン、君に会いたかったよ。
僕の名前は、レンというんです」
その響きを、声にすることはできない。
私もレンに会いたかったよ
言葉の代わりに、涙が止まらない。
やめてよ、もっとレンの顔を見せて。
私は、レンが、レンが、レンが――
「リンが、好きです」
涙が、あとからあとから、とまらない。
言いたい言葉は出せなくて、ただ、少し口が動いただけ。
ねえ、もうこれで最後なの
私の想い、伝わりますか
この、口枷を取って
レンの瞳が、迷うように揺れる
最後くらいは、レンと同じ場所で生きていたいの。
レンの右手が、私を自由にする。
汚れた白い紙きれが、頬に掛かった。
息がどんどん苦しくなるけれど、気にならない。
ようやく、レンと同じ世界を見られた気がするの
右手でそっと、私の頭を包み込む。
あったかいね
動かせない私の唇の上に、優しい口づけを落とした。
甘い甘い、永遠の刹那。
滲んで歪んだ視界が、くるくると暗転してゆく。
もう、微笑みを贈るのにも、レンの名前を呼ぶのにも、左手を右手で握り返すのも、レンを抱きしめるのも、手遅れだけど。
いつだってレンが光をくれるから、私は幸せだったんだよ。
この声は、レンに届いていますか
レンが、好きです
* * *
脱走した少年を探しまわる彼の耳に、同僚が駆け寄ってきて、囁いた。
「君の娘が」
彼は真っ蒼な顔で、病室に向かって走り去った。
「リンっ!」
叫んで飛び込んだ部屋の中で、彼が見たものは――
瞳を閉じた少女と、守るように少女を包み込んだ、少年。
冷たくなった顔に、優しい笑みを浮かべて。
明日
それは、君に会える日を指す言葉。
下の二曲を聴いた当時にうわああああっとなって、とにかくふたりに最後に笑ってほしくて書いたものです。
【鏡音レン】囚人 オリジナル 【コラボPV.ver】 前後史曲リンク有 http://www.nicovideo.jp/watch/sm5117285
【鏡音リン】 紙飛行機 【コラボPV】もう一つの囚人 http://www.nicovideo.jp/watch/sm6165498
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