―――ねぇ、れん!
「なぁに、りん?」
―――あのね、りんはね、れんのことがね、だいすきだよ!!
「ほんとう?ほんとのほんとうにぼくのことがだいすき?」
―――うん!ほんとのほんとうにだいすきだよ!!
「そっかぁ~。うれしいな♪」
―――でも…、れんはりんのことすき?だいすき?
「うん!すきだし、だいすきだし、あいしてるよ!!」
―――やった~!りんもね、れんをあいしてるよ!!

―――――…いつの事かも忘れた子供の頃のたわいない会話ばかりを思い出す。夢に見るのは幸せだった二人寄り添い合ったあの頃。

自分の方が、自分の片割れをどれだけ大切に、どれだけ好きで大好きで…愛しているのかを比べては笑い合った日々。

幼すぎて自分達の【生きる意味】も知らずに二人でずっと一緒に居られると思ってた。

あの頃はいつも純粋な想いで、純粋に互いを慈しんだ。

なのに…、たった少しの幸せを望み、たった少しの幸せを永遠に続くと信じていただけ……、それだけなのに。


―――ねぇ……、神様って居ないのね。


たった少しの幸せですら、人間じゃないだけで奪い去るこの世界には平等も安心も《殺戮人形(わたしたち)》にはくださらなかったもの。

たった二人の血の繋がった家族を、自分の片割れを引き裂いたのだから。

でも気づいた。

普通の人間達の『たった少しの幸せ』は《殺戮人形(わたしたち)》には、『望み過ぎた、贅沢過ぎる願い』……、だと言う事にね。

基準が違うの、基準がね。

だからこそ、当然のように行き過ぎた願いを抱いた代償に、

―――私は・俺は大切な片割れを失ったの。


お互いの日常や幸せを守り合う為に、お互いを遠ざけた。
だけど自分達の存在のせいで、お互いを失った。

そして今はもう…この手は血に濡れすぎてしまった。
愛しい互いを抱きしめ合う事すら二度と叶わないくらいに汚れてしまった。



********************



「もう…逃れられないぜ。」

――――悪は全て排除する。俺のこの手で、消えろ、消えろ、悪全て!!

俺は俺の存在価値の為に、悪を絶対許さない………、いや、許せない。

だから、殺す。

「ヒィ……、ヤャ辞めテ、辞めてクれよォ……。」

悪が哀れっぽい声を出して嘆願する。

そんな様子が酷く面白い。
地に這いつくばって俺を見上げて、さも神様を拝むように両手を顔の前で合わせている。

―――あぁ……、コイツ…俺を神様とか天使と勘違いしてる。

血に濡れ染まった刀を持った奴が、悪や他の人間が想像する尊き者なわけがない。

そんな事は見れば分かる事だ。

だが目の前に這いつくばる悪は、痛みや恐怖心からかそんな事にすら気付けない。

ますます楽しくなって、俺は甘い優しい声音で囁いた。

「フゥン……、助けて欲しい?死にたくない?」

俺は悪にとろけるくらいの微笑みを浮かべ問い掛ける。

―――まぁ、本当は助ける気も、逃がす気も毛頭無いけどさ。
つまり……、ちょっとした余興だよ。

でも悪は素直に俺の言葉に頷く。
まるで本当に助けて貰えると思っているのか、首を必死に上下させている。

「なッ、なんでもする。アンタの為になんでもするよッッッ。本当だ。」

俺は予想通りの悪の言葉に、一層笑みを深く甘くする。

そしてそのまま、さも当たり前のように悪に言った。

「そうか……、なんでもしてくれるんだよね?それなら、もちろん俺の為に死んでだってくれるんだよね?」

固まった。
一瞬にして悪の表情が固まる。

まるで俺の言った事が、心底有り得ない、常識外れであるかのように。

―――フフ…、俺の方がまだ常識があ…る……。ううん、違うな。コイツは悪だけど人間だったっけ?
じゃあ人間の常識はコイツの方がある筈だよな……。


震える悪を後目に、素早く俺は次の言葉を紡ぎ出す。

「自分で死ぬ?あぁ…、でも俺に命乞いするくらいだもんね。怖くて怖くて自分では死ねない?なら……、」

――――やっぱり俺が殺してあげるね♪

そしてそのまま、まずは悪の合わせている両手を持っている刀で切り落とす。

研ぎ澄まされた自分の刀の切れ味に、いつもながら惚れ惚れする。
繊維質な筋肉も硬い骨も容易く断ち切れる。

まぁ…、刀のおかげだけじゃなく《殺戮人形》の本能的な武器類全般を扱う技術やセンスもあるんだけどね。

だって、下手に斬れば筋肉はグチャグチャになるし、骨だけが肩の先あった物の残骸として残る羽目にもなる。

でも…、そんなのは駄目なんだよね。
美しくないし、見てて愉しくない。

それに悪はそれまであった自分の肩の先が全くなくなると、不安で不安で仕方ないって表情するんだ。

その顔は何より俺の興奮を誘う。


――――ザシュッ……

何度も何度も執拗に、皮膚を裂いて肉と骨の中間くらいまでの深さで止める。

「ヒィッッッツ…止めテくれヨォ、痛い、イタイ、イタッッ……。」


――――今まで人を苦しめた悪が簡単に死なせて貰えると思うの?

なんて思いながら、刀を振るう腕の動きは止めない、いや、むしろ早く正確に人間の急所すれすれを切り裂く動きが止まらなくなってきている。


「あれ?」

そう呟く頃には悪の悲鳴や呼吸する音は消え、悶え死にしていた。

その場に残っているのは俺の上がった息づかいと深く甘美な鉄錆の匂い、刀身に宿る悪を殺した証の色。


だけど俺は別段驚きもせずに、いつものように海翔上官に任務終了の事後報告の電話を入れる。

――――嗚呼…、血の匂いが馨しい。それにどんな大罪を犯した悪も綺麗な人間も血の匂いだけは一緒だからこそ、終わったあとの高揚感が心地いい♪

考え事をしているその間にも、俺の電話と海翔上官の電話が通じる。

――――プルルルルルッ…プルルルルルッ…プルルッッガチャッッッ!!

『はい、もしもし。こちら海翔です。』

海翔上官の凛と張った声が電話越しに俺の鼓膜を震わせる。

「お忙しい所お許しください。こちら蓮ですが、任務を無事に遂行致しました事をご報告の為、お電話致しました。」

決まりきった他人行儀の口上を一息で言い切った。

『そうかい、もう終わったのかぁ……流石は蓮だね。仕事が早くて助かるよ。でも…ね、―――まだまだ【悪】は蔓延っているから。だから蓮には、もっともっとこれからも頑張って貰うよ。その為にも今以上の努力をして強くなってもらわなきゃだから覚悟して置いてね!!』

――――『まだまだ』、『もっともっと』、『頑張って』、『強くなって』……、そんな期待を掛けるような言葉は大嫌い。だって生まれ持った力以上は、俺達【殺戮人形】は手に入れれないから、努力しても力は変わらない。強くも弱くもなれない。

だからこそそんな言葉を無機質に聞こえる電話口で、大好きな海翔上官に言われると余計に俺は悲しくなる。

――――大好きなのに、期待にも向けてくれる好意にも応えられない。

それに気がつくだけ絶望に似た焦燥感、孤独感、何より諦めに繋がる。

「―――……めん…さい…。」

自分の口が勝手に動く。しかも誰にも…、特に海翔上官には知られたくなかった罪悪感を胸の内から追い出し始める。

『蓮?蓮どうしたんだい?』

優しげな声音で囁くように、俺を気遣ってくれる海翔上官の言葉を聞いて俺の感情の堤防は崩壊した。
汚く自己保守的な心が、淀んだ水ばかりを溢れさせる。

罪悪感に自分が押し潰されないように、早い内に蓄積させずに吐き出す。

「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ……」

モヤモヤしたもの全て吐き出してもスッキリしない。逆に海翔上官を困らせていると思うと更に深い後悔が押し寄せる。

そして案の定俺を心配した海翔上官は、焦って俺の名を強く呼ぶ。その次には慰め宥めてくれる。

『蓮!?どうしたの?何も蓮は悪い事はしてないだろう?なのに何故謝るの?』

「違っ違うんです。違うんです、海翔上官。」

海翔上官の気遣いの言葉が痛い。俺のただの自己嫌悪なのに、海翔上官は自分の心を裂いて俺に気を掛けてくれる。

――――痛い。痛いんですよ……、その俺に掛けてくださる情全てが突き刺さってくる。今までに殺した人間の返り血よりも鋭く的確に急所を狙って。

『蓮、大丈夫だからね?蓮は人間だから、蓮は良い子だからね。』

――――違う。違うんですよ、俺は人間じゃないし、良い子でもないんですッッ!

俺は一言も発する事が出来ずに黙り込んでいると、海翔上官が後に俺がいくら了承した事を後悔しても足りない程の提案をした。

『………ねぇ、蓮?君に最期の任務を頼みたいのだけど……、いいかな?』

俺は『最期の任務』と言う単語を海翔上官の口が紡いだと思うと、喜びともけれど悲しみとも言えない気持ちで俺の心は占拠された。


*続く?*

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

殺戮人形~2~

前回の続きになります(^-^)

続きを待っていてくださった方がいらっしゃれば嬉しいです!!

感想は引き続きお待ちしております(*^_^*)

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閲覧数:456

投稿日:2011/07/22 01:01:46

文字数:3,690文字

カテゴリ:小説

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