おんなじ(リンレン小説)

投稿日:2011/01/17 20:32:17 | 文字数:1,941文字 | 閲覧数:984 | カテゴリ:小説

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ほのぼの。
ちなみにレンを怒らせたのは他のボカロやマスターではないです。
特に誰ってことも決めてないですが。

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TEXT
 

それは、とても良く晴れた日のこと。





降り注ぐ陽の光そのままに、黄色い髪を
後頭部でちょこんと結んだしっぽが歩く度にぴょこぴょこ揺れている。
その様子だけを見ていると、何とも陽気な図である。

しかしリンは知っていた。
目の前を歩くしっぽの持ち主はひどく怒っていることを。
ぴょこぴょこ揺れているのは、本人が怒りに任せて
勢いよく歩いているせいなのだ。

生まれたときから隣にいるこの片割れはどうにも怒りっぽい。
些細なことですぐに苛立っている。
今日だって、こんなに天気が良いというのに。
どうして怒る必要があるのだろうか。

「ねー、レンってばー」

もう何度目になるかわからない呼びかけ。
リンの声にもレンは答えず、どんどん歩いていってしまう。

「どこ行くのー?何に怒ってんの?」

レンの大きな歩幅に併せるため、リンは小走りにならざるをえない。
それが少し悔しかった。

「ついてくんなってば!」

ようやく答えたと思えばこれだ。
リンの方を向きもしない。
荒げた声はとても悲しい響きをしていた。
リンもレンも歌うために生まれた存在だ。
その声は、人の心を揺らす歌のためにある。
こんな怒りに任せた怒鳴り声をあげるためじゃない。




もちろん、レンにもそれはわかっている。
それでも自分の中に沸き立つ衝動が抑えられなかった。
せめて1人にしてくれれば、この感情をなんとか宥められただろうに。
どうしてこいつはくっついてくるんだろう。
スタジオを飛び出してしまった手前、立ち止まることもできない。
飛び出したのは、本当に勢いだけだった。
少し外を歩いて、気分が落ち着いたら戻れば良い、そう思った。
こいつがついてくるって、どうして予想できなかったんだろう。
レンは足を速めながらも後悔していた。

腹を立てた理由は大したことじゃなかった。
本当に些細で、どうでも良いようなこと。
だからこそその理由を、リンには言えなかった。

「あ!」

背中から大きな声が聞こえた。
思わず足が止まる。
レンが振り向く前にリンの声が続いた。

「レン!上!!見て!!!」

「上?」

レンが顔をしかめながら、上を見上げると
憎らしいほどにまぶしい太陽。
真っ白に自分を主張する雲。

そこに浮かぶ場違いなものに目が留まった。

くしゃくしゃの体を風に預けてふわふわと漂う。
スーパーでもらうようなビニール袋だ。
風に煽られたのか、電線よりも高所をふらふら浮いていた。
その姿は何とも頼りなく、滑稽だった。
そうまるで、水にゆれる


「「くらげみたい」」


二つの声が重なった。
リンの声と、レンの声。
同じものを見て、同じことを思い、同じ言葉を口にした。
それだけのこと。

「おんなじだね。」

と言って、リンが笑う。
レンは思わずリンの方に振り向いた。
リンはまだ空を見上げて笑っている。

おんなじ。

それがレンの心を少しほぐす。
自分とリンは「同じ」だった。
時にそれを窮屈に感じることもあったけれど、
レンにとって多くは喜びだった。
同じであることは嬉しいことであったのだ。

そこに投げ込まれた何気ない言葉。
言った本人もきっと何か考えのあったことじゃない。
スタジオの中で飛び交う世間話のうちだ。
正直、もう誰が言ったのかもよくわからない。
スタッフの誰かだったのだと思う。
それでも、レンは許せなかった。
リンの笑顔を見ながらも、どうしてもあの言葉を思い出してしまう。


「レンとリンは、どっちの方が歌うまいかね」


その言葉を聴いて、レンは自分の体温が上がるのを感じた。
自分とリンとの間に優劣などない。
同じだ。同じでありたいんだ。
どちらかがどちらかの前や後ろにいるのではなく、
絶えず隣同士で居続ける、それこそが自分たちの形なのだ。
その願いを踏み潰されたような気がして、レンはスタジオを飛び出した。



その先に聞いたリンの言葉。

「おんなじだね」



「同じことを言ったね」でもなく
「同じこと考えてたね」でもなく

「おんなじだね」



レンのぐるぐると煮えていた頭が緩む。
悔しいけれど、どうやっても勝てないと悟った。
この片割れにはきっと一生絶対に勝てないのだ。


「…帰る」

レンは耳を赤く染めて、くるりと道を戻り始めた。
それを見たリンは慌てて追いかける。


「帰るの?いいの?」

「いい!」

「もう、レン、全ッ然わかんない!!」



追いついたリンが、レンの手をしっかりと握る。
繋いだ体温は同じ温度。同じ鼓動。
今は歩幅も速度も同じ。



降り注ぐ陽光の中、結んだ髪と白いリボンとが揺れていた。


カイメイ大好き。メイコさん大好き。まわりくどい小話を書いては喜んでいます。

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