番外編~新聞記者花田とトリノコシティ




「この人でなし!!」

札束を俺に投げつけ、走り去って行く女。
札束を手にしているのに、苦虫を噛み潰す表情になるのは俺くらいだろう。

「もう懲りてスキャンダルなんか起こすなよ…」

呟くように言った。




俺はただの新聞記者だった。
真実を写真に収め、真実を伝える。

それが誇りだったし、自分の役割だったと思う。




祝賞会の日。

俺は舞い上がっていた。

政治家の闇金を自らの手で暴き、記事にした。
俺が書いた文章もカメラアングルも完璧であったため、日本の政治に激震が走った。

新聞業界の異例の快挙に、俺は賞を貰った。

それをお祝いしに、同級生達が集まったのだった。

「花田、おめでとうな」
「ああ、ありがとうな、これもある意味お前のおかげだ」

手元のカメラをポンと叩く。
この一眼レフは高校時代に松田と協力して買った物だ。

松田とは、苗字が似ていることもあって、学生時代は漫才コンビの様な扱いだった。
良い事も、悪い事もやった、悪友である。

…ただ、俺の彼女は、高校時代に松田が好きなヤツだった。

祝賞会にも来ていたが、別に松田もとやかく言わなかったし、それでもいいと思っていた。

「松田君は西生会病院のカウンセラーになるって?おめでとう!!!」
「うん…」

彼女が聞く。
少し複雑そうだが、その辺は割り切っている様だった。


お酒もいい感じに入って、盛り上がってきた頃…。

少し彼女の表情が暗くなった。

「どした?」
「ん?…なんだか少し気持ちが悪くて」

お酒に強い彼女が…とても珍しい事だった。

「送ろうか?」
「いや…大丈夫…自分で帰れるから…」

結局、タクシーで一人、先に帰って行った。

だから、最後に撮った集合写真に彼女の姿はない。



皆と分かれて、一人夜道を歩く…。

頭には彼女の事ばかりだった。
大丈夫だろうか…。


その時だった。


電柱の影から、一人の女が飛び出してきて、俺に抱きついた。

「やめろ!!!おい!!!!」

強引に振りほどくと、女は咄嗟に走って逃げていった。



ここで警察に通報すればまだ助かる道があったのかもしれない…。



翌朝。

新聞社に出社した俺は、異様な光景に息を飲んだ。
電話対応に追われる社員達。

そして、すぐさま社長室へ呼ばれた。

「社長…これはどういう…」
「とりあえずこれを見ろ」

一枚の写真。

抱き合う男女の写真だった。
一人は俺。

もう一人は…。

「まさか!?」
「ハニートラップだ」
「そんな…」

俺は膝から崩れ落ちた。

新聞社に脅しをかけてきたのは、まさしく闇金の記事を書いた派閥の議員だった。

「俺はどうしたら…」
「そうだな…責任を取ってもらうしかないな」

涙がホロリと落ちる。

「ただ、お前をクビにするのは惜しい、あんまりおすすめはしないが記者としての生き残り方はある」
「社長、教えて下さい!!何でもします!!!」




新聞社に金を届けた後の車内。
手元には端金。

信号待ち。

車内のラジオから物悲しいピアノリフが流れ出す。

〈自分だけどこか取り残された~ 色のない世界~ 作られた世界~〉

これは松田と愛花ちゃんのか…。


お前らはまだ幸せな方なんじゃないか…?


視界が潤むのを我慢しながら、アクセルを踏んだ。






ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

トリノコシティから始まるストーリー~番外編~

トリノコシティか始まるストーリー本編をハッピーエンドのしちゃったので、鬱エンド、という感じで書いてみました。

こっちの方が、この作品らしいのかもしれないですね…。

トリノコシティから始まるストーリー リスト→http://piapro.jp/bookmark/?pid=tyuning&view=text&folder_id=198731

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投稿日:2012/10/20 17:30:37

文字数:1,425文字

カテゴリ:小説

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