「Zzzz……」

2014年元日。

深い眠りについていた私は、陽気なアラーム音により一気に現実に意識が引き戻された。

私は音だけを頼りに、虚ろな目のまま<音の根源>を手探りで探した。
数秒後に<音の根源>である祖母から貰った折りたたみ式携帯──電話もメールも出来ないため、目覚まし時計として使用している──のサブディスプレイに、目覚まし時計のマークが映し出されているのを見ても間違いない。
コイツが犯人だ。

私は迷わず携帯に手を出すと、慣れた操作で携帯を開き、アラームを止め、電源ボタンを長押して消すと、また元の場所に戻した。

「…………」

ついでに何故か頭上に移動している枕も手繰り寄せ、後頭部を置いた。
アラームが鳴ったんだし、起きなくちゃなあとは思ってはいても、布団から出ようとはしない。
このままじゃ二度寝してしまうとは分かっていても、その場を1mmも動くことはなかった。

そしてカーテンが何者かにより勝手にシャァァァと開けられたことにも気づかず、私はスグに深い眠りに落ちていったのだった。





そして時刻は午前11時ちょっと過ぎ。

私はゆっくり身体を起こし、虚ろな目で何もない場所をじーっと見つめた。

最初に起きたときの時間は9時20分。
だとしたら長い二度寝をしていたということになる。
それなのに欠伸が口から自然に出てきて、「あともう一回は寝られるんじゃないか」というぐらいの倦怠感に襲われているのは何故だろうか。
二度寝の時間も合わせて、かれこれ10時間以上は寝ているというのに……

「……あれ?」

徐々に意識が覚醒していき──とはいっても眠いのは変わりないが──、私はあることに気がついた。

先日しるるさんから貰ったカーテンである。

普段暗くなったらスグカーテンを閉める(閉めなきゃモヤモヤする)私は、昨日も例に違わずカーテンを閉めたはず。
それなのに、目の前のカーテンは見事に全開となっていた。
一体、誰が、何のために──?

「……まあ、いっかそんなこと。それよりごはん食べようっと」

寝起きということもあってか、そのときの私の頭にはすっぽりと抜けていた。
かなりあ荘に住む一人の幽霊少女のことを──

 *

誰にあっても大丈夫なように洗顔、寝癖直しを済ませる。
次に紫のスウェットプルパーカーと白色のユニ●ロの暖パンにすばやく着替える。
そして冷蔵庫からペットボトルのお茶とサッポ●一番の塩ラーメンのインスタント袋を手に持ち、私は1階の共用キッチンに目指して廊下に出たそのとき、

「よぉ、りんごさん!」
「!」

突如背後からポン、と肩に手を置かれたと同時に、男の声が聞こえてきた。
それに呼応するかのように私の肩は確実に3cmは上がり、口から短い悲鳴が出てくる。
バッと後ろを振り返ると、私の叫び声に驚いたのか、目をパチクリさせているターンドッグさんの姿があった。
かなりあ荘の唯一の男である彼は、ドッグちゃんと同じ胡桃色の短髪にラフな格好で、左手には紅白柄の小さな袋があった。

不審者()の正体がターンドッグさんだと知り、私はほんの少しだけ肩を撫で下ろした。

「タ、ターンドッグさんですか……。もう、やめてくださいよ、心臓に悪い。急に驚かすだなんて……」
「いや、別に俺は驚かすつもりでやったわけじゃあ……。っていうか、りんごさんって実はビビリだったりするのか?」

──ギクリ。

そう、実は私はどうしようもないほどのビビリなのだ。

別にホラーな画像を見せられても特にどうとも思わない。
時々pi●ivの2ch形式小説のホラー(シリアル時々シリアス)なんかを読むときだってある。

だが何もないところからバッと現れたりするのはダメ。
お化け屋敷では他人の服に顔を埋めちゃう。
それなのに人の悲鳴を聞いただけで悲鳴を上げちゃうetc──。

とにかく私は繊細(?)なチキンハートの持ち主なのだ。

すると全てを察したといわんばかりに、ターンドッグさんはまた私の肩を優しくポンと叩いた。

「まあ、俺もよくドッグちゃんからはヘタレなんていわれてるし、気にすることないさ」
「別に気にしてませんが」
「気にしてないのかよ!」

とターンドッグさんの切れのいいツッコミが新年早々炸裂すると、彼はふと思い出したように、左手に持っていた袋を私に差し出してきた。

「ほい、コレ。ネルから預かってるブツだぜ」
「ブツ?」

首を傾げながら袋を空けて中身を確認する。
そして一瞬で全てを理解したのだった。

それは、メガネ型のシルルスコープだった。

「凄い、ホントにオーダー通りにやるなんて……やっぱりネルちゃんってチートですね!」
「おいおい、コレぐらいネルは朝飯前だぜ? ネルを侮ってもらっちゃあ困るなあ……!」
「ターンドッグさん。私はネルちゃんの腕を褒めているのであって、決してあなたを褒めてるわけじゃないんですけど」
「り、りんごさん辛らつ……」
「とにかく、ネルちゃんにお礼を伝えといてくださいね。私、今から朝ごはん食べるんで」
「朝ごはん……ってそのラーメンのことか? 昼ごはんじゃなくて?」
「今日一番のごはんだから、朝ごはんです」
「…………」

途端ターンドッグさんは何か言いたそうな顔をした。
しかしそれも数秒だけでスグに戻ると、

「まあ、俺はこれだけ渡したかっただけだし……今年も宜しくな!」「こちらこそ今年もよろしくおねがいします」

こうして私とターンドッグさんは最後に今年の挨拶を交わすと、ターンドッグさんは自分の部屋に、私はそのまま階段を下りていった。
共用キッチンでラーメンを作ったあとは、MYお箸が乗った丼を右手に、ペットボトルを左手、そしてMYコップを頭に乗せたまま、足や肘を使って(行儀が悪い)でキッチンから出る。
そしてキッチンの隣の部屋まで慎重に歩き、ドアにかけられた楕円型のクリーム色のプレートにダークブラウンの文字で「共用リビング」と書かれていることを確かめると、私は形だけのノックをペットボトルで2回してからドアノブを回す。

リビングにはすでに3人おり、コタツを囲んでいた。
しるるさん、ゆる、ちずさんだ。

「あ、りんご! あけましておめでとー!」
「りんごあけおめー!」
「雪りんごさんあけましておめでとうございます!」
「あけましておめでとー……っていうか、しるるさん今日とっても綺麗ですね!」

お正月だからか、しるるさんはいつもは下ろしてある長い緑髪──艶やかな黒髪、という意味である──を上でお団子にまとめてあり、水色の花柄の着物を着ていた。
ゆるとちずさんが普段着のせいか、しるるさんの目立ち度がハンパない。

しるるさんは照れくさそうに右頬をポリポリと掻くと、「ありがとう」と言った。
何故かしるるさんやターンドッグさんたちから「可愛い」、「美少女」などといわれる(ホントに何故そんなことを言われるだろう?)私だったが、しるるさんのほうが断然美少女だと思う。
……いや、しるるさんの年齢の場合は美人のほうがいいか。

「っていうかりんご大丈夫? よくその状態を保っていられるねー」

私の頭上にあるコップに目を向けたままで、コタツの上の籠の中の蜜柑を手で取り、見ないままで綺麗に皮を剥けるのも地味に凄いとは思うが。

「うん、とっても辛いよ」
「それじゃあ何故そんな運び方を選んだんだ」
「え、理由? ……忘れた」
「おい……おい」

皮の剥けた蜜柑をいざ食べようとする手を止め、微妙な顔をするゆるの隣で、ちずさんが苦笑いをした。

下ろした桃色の髪を紫苑色のシュシュで二つに束ねたこの少女は、最近かなりあ荘に入ってきた。
まあ、ここに入る前から私の作品にブクマやコメントをしてくれたため彼女のことを知っていたし、彼女の明るい性格も手伝って、今ではすっかりかなりあ荘色に染まっている。

それが悲しいことかどうかはさておき、私もコタツの中にいれさせてもらうと、ようやく朝ごはん(兼昼ごはん)に手をつけることが出来た。
頭上に乗せていたコップもコタツの卓上に置き、ペットボトルのお茶を注ぐ。
「いただきます」と形だけの挨拶もそこそこに、私は塩ラーメンに食いつく。
だがそんな私を珍しい動物でも見ているかのように、

「わあ、食べてるりんご食べたーい」

そうポロっと呟いたしるるさんに、ゆるが、

「え、食べたい?」
「あ、違うよ、ラーメンをだよ!」
「でもしるるさんって、『しる花』というCPが生まれるほど女の子大好きって聞いたんですけど」
「ちずさん何聞いちゃってるんですか!? あ、いや、確かに女の子大好きだけど……」
「否定しないんだ……」
「あ、でも私は百合大歓迎ですよ!」
「ちずさん……!」

ちょっと待ちなさい君たち二人。
なに仲間が増えたみたいに嬉しそうにしているんですか。

隣のゆるがちょっと引いてるよ。

っていうか前から思ってはいたが、どうしてここは百合好きな人が多いんですか。
もっと薔薇が好きな人がいてもいいと思うんです。(切実)

二人の百合話を右から左に聞き流しながら、私はラーメンを食べ終えた。
ラーメンの汁を飲まない私は、丼を右手、箸とコップとまだ中身が半分も残っているペットボトルを左手に持つと、

「それじゃあ、私は先に失礼しますね」
「あ……! 待ってりんご!」

しるるさんに呼び止められ、ドアの前で振り返る。
そしてしるるさんはこれ以上のない真面目な顔でこう訊ねた。

「──りんごは百合好き?」

私も真面目な顔で答える。

「──私は薔薇派です」

視界の隅で、ゆるが頭を抱えていた。

 *

時刻は午後3時。
私は3時のおやつならぬ3時の読書に没頭していたときだった。

唐突に「コンコン」とドアをノックする音が聞こえてきた。

「……?」

面倒くさがってこのまま出ないでおこうかという考えが一瞬頭に過ぎったが、それはさすがに酷いかと思い、渋々何回読んだかわからない推理小説に栞を挟んでからドアを開ける。

しかし、ドアを開けてもそこには誰もいなかった。

代わりにドアの前には、紅白柄の袋がぽつんと置いてあった。
そう、あのときターンドッグさんから貰った、シルルスコープが入ってある袋だ。

「あ……」

キッチンでラーメンを作った際、ラーメンに集中しすぎてシルルスコープを置きっぱなしにしてしまったのだ。
今の今まで忘れていたが、それを手にとったことで私はようやく思い出した。

それじゃあ、誰かがこれをわざわざ届けに来てくれたのか?

でも一体誰が──?

──いや、誰がやったのかはおおよそ見当がついている。
私とターンドッグさんの話を立ち聞きすることが出来、私がシルルスコープの袋をキッチンに置き忘れるところを見ることが出来る者。

かなりあ荘に住む幽霊少女──清花ちゃんだ。

「清花ちゃん……」

そうぽつりと呟くといてもたってもいられなくなり、私は袋を開け、眼鏡型のシルルスコープを取り出した。

それをかけ、電源をつける。
だがもうすでに彼女の姿は見当たらなかった。
袋は適当に部屋の中に放り投げ、急いで鍵をかけると、私は屋上に走っていった。

なんとなく、彼女がそこにいそうな気がした。





「はぁ、はぁ、はぁ……」

猛ダッシュで階段を上りきり、私の息が切れていた。
元々体力がなく、部活も引退したためどんどん鈍っていく体は、こんなことでも弱音を吐いてしまう。
気持ちよい風に自分の髪が靡くのを感じながら、私はお目当ての人物を探す。

柵という安全なものがない屋上に、その人物は屋上の縁に腰を下ろし、消えかかっている足を外のほうに放り出していた。
一見危ないように思えるが、その人物はまるで縁側に座っているかのように平然としているため、妙な安心感が生まれる。

「…………」

私はその人物の右隣に黙って座り、自分も足を外のほうに放り出す。
もし落ちたらタダではすまないと思うが、まあ、落ちなければいいだろう。

そして顔だけ左に向いて、驚いた顔をしているその人物と初めてご対面した。

「──初めまして、清花ちゃん」
「……りんご、さん」
「やっぱり、昼間の私とターンドッグさんの会話聞いてたんですね。私のことを『りんご』と呼ぶということは」

私の言葉に黙って頷く清花ちゃん。

「私、実は『雪りんご』という名前なんです。『りんご』っていうのはあだ名です」
「そうですか、貴方の名前は雪りんごさんというのですね」
「はい」
「あなたも私のことが見えるということは、あの金色の髪の女の子に、『私のことが見えるようになる機械』を作ってもらったということですか?」

何故清花ちゃんがそのことを知っているのかと思ったが、この前しるるが話していた、『しる花』きっかけの出来事のことを考えれば、スグに納得した。
だとすれば、私が言うべきことは一つだ。

「はい、私も清花ちゃんとお話がしたかったので、あなたの言っている金色の髪の女の子──ネルちゃんに『あなたのことが見えるようになる機械』──シルルスコープを作ってもらいました」
「……私と?」
「そうです。あなたとです」

清花ちゃんは訝しそうな目で私を見た。

だがそれぐらいで動じる私ではない。
私は続けてこう言った。

「だって、あなたにもまだ言ってないじゃないですか……『あけましておめでとうございます』って!」

キョトン、という擬音が聞こえてきそうなほどに目を丸くする清花ちゃん。
きっと彼女は死んでからというもの、そのような言葉を自分に向けて言われたことがないのだろう。
聞き慣れないその言葉に、清花ちゃんは小さな声でそれを復唱した。

「……『あけましておめでとうございます』……」
「今回私がここに来たのは、これを届けてくれたことの礼と、新年の挨拶をするためですので! それじゃあ、私は自分の部屋に帰らせてもらいますね! さすがに寒くなってきたので……」

私はそれだけ告げ、その場で立ち上がり、部屋に戻ろうとしたそのとき、清花ちゃんの「あの」という声で進めようとした足を止めた。
代わりに清花ちゃんのほうを向く。

いつの間にか立っていた──ただし、足は地面についていない──清花ちゃんは、私の目を見て、笑みを浮かべながらこう言った。

「……あけましておめでとうございます。それと、ちゃんと起きてくださいね? ゆるりーさんみたいに」

それだけを告げると、彼女は呆然とする私を一人置いて屋上を去っていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

正月のかなりあ荘【withかなりあ荘】

あけおめことよろです。雪りんごです
2014年初小説は、ずっと書きたかった清花ちゃんです

※雪りんごの寝相※
私は毎朝、起きたら何故か枕が頭の下になく、代わりに頭上にあります
何故か分かりません
布団も乱れてるわけではないのに、枕だけはいつも何処かに行きます

※雪りんごの二度寝※
雪りんごは目覚ましが9時半頃に鳴っても、スグにそれを止めてスグにまた寝てしまいます
また、私は清花ちゃんにカーテンシャァァァされても、「目がぁぁぁぁぁぁぁ」とならないと思います
だって周りが明るかろうが暗かろうが、車の中で7割寝てますから
日光なんてどうってことないのさ←

でも、そのせいで今回清花ちゃんに注意されてしまいました……
だけど結局起きるのが昼になるというね┐(´Д`)┌-з←

閲覧数:223

投稿日:2014/01/03 18:13:48

文字数:5,994文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    あれー?
    ほめられたーっておもったら…
    私、確定しきってたーww
    ま、まー
    りんごかわいいなーって思ったけども
    それに食べたいなんていわないもん、思っても
    ま、ターンドッグさんの不憫さに比べたら、私は幸せ

    2014/01/05 14:07:52

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      返信遅れてゴメンなさい

      ……!?(ぶわっ)
      なななななんか今すごい悪寒がしたんですか気のせいデショウカ
      気ノセイデスヨネ?←

      私、仲良くなった男の人には、つい暴力を振るっちゃうんです(てへぺろ)←

      2014/01/12 23:25:41

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    シルスコ作ってもらう話を書く前にスコープ使われ焦るTurndogですwww
    こ、こうなったらPCの話を書けばいいさ!←

    私もBLが嫌いってわけじゃないですよ。
    BLだろうが百合だろうがノーマルだろうが、
    そこに純粋な愛があれば素晴らしく妬ま……じゃない美しいですからね!(今何て言おうとした
    だがKAIDOG、てめーはダメだ(おい
    やるならバナナアイスかナイスか青い先生(×キヨテル)かでやってなさい←

    清花ちゃんは誰と組んでも絵になるな……(百合発想やめんか
    いや百合発想抜きにしても絵になりますなw
    だが私はやはりしる花か清どっぐがだな(帰れ

    ゆるりーさんが不憫可愛い。
    そして心なしか、前回もそうだけど雪りんごさんの俺に対する態度が冷たく見えるw
    そして俺も随分そっけないなw
    俺はもう少しハートフルで人懐っこいよ、心を許した相手には(自分で言うか

    2014/01/03 23:58:52

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      返信遅れてゴメンなさい

      あっ……(察し)←
      な、なんかすみません……

      あ、その気持ちわかります!
      薔薇だろうがノーマルだろうが、微笑ましいのは大好きです
      まあ<オオカミ系男子×子羊系男子>のCPが一番好きなんですけどね!(ぉぃ
      KAIDOGがダメならLENDOGはどうです?(お前もやめれ

      百合発想はやめましょうか(ニッコリ)

      ゆるはかなりあ荘の良心だと思うんです(お前がいうな
      そうですかね? まあ私の場合、「親しくなるほど暴力を振るう」性格なので←
      きっと仲良くなってる証拠ですよ! そしたら私がターンドッグさんの鳩尾を殴る未来はそう遠くないのかも……!(((

      2014/01/12 23:22:58

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