「……本当に、いいのね?」





「ああ、覚悟のうちだ」





「ほんっと変なとこで真面目だよね……あたしそんなの気にしないのに……」





「一応、お前らとの絆の証だからな。こいつらは……」





「……まったく……でも、Turndogのそういうとこ、ホント大好き」





「こないだも言ったろ……そういうこと、下手に口に出すなっての」





「ふふ……じゃ、行くよ!!　運悪く死にかけたら……すぐに助けてあげるから!!!!」










「おう、来いやぁ――――――――――グミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」










「……で、その証拠品がこれですか……」


呆れ返った表情のネルが、即席カウンターに座って刀を弄んでいる。

虹色に輝く、がくぽの愛刀『楽刀』―――――のレプリカ。その刀身には、赤黒い血がべっとりとこびりついていた。


「まさかまさかとは思ったけど……ホントに罪滅ぼしとして、グミに楽刀のレプリカで自分を斬らせるとは思わなかったわ……」


俺の右肩から左脇腹にかけて、ざっくりと刻まれた大きな刀傷。それは、グミとがくぽへの贖罪の証だ。


「清花ちゃんのためとはいえ、グミのゴーグルと楽刀のレプリカ……即ちあの二人への想いの品を捧げるわけだからな。ホントならこんなもんじゃ足りねえよ、グミの時は悪いことに誕生日間違えてたぐらいだし……」

「だからって無茶すんじゃないわよ、このバカ……!!」


足元でどっぐちゃんが目を真っ赤に腫らしている。バーストモードゆるりーさんに見つかったら360度包囲型零式チョークアタックを喰らいそうだな、俺……。


「……ただ、偶然とはいえ結果としてはいい方向に進みそうね」

「……そりゃどういうこった?」

「幽霊可視化スコープの類はね……相手を想う気持ちが込められてないとダメなの。幽霊のことはもちろん、誰かを強く想う心が込められてないと、スコープは使い手と幽霊を繋ぎあわせてくれない。偶然にも、あんたは幽霊を可視化するのに最適なもんをそろえたってわけ」

「へぇー……」


偶然ってすげー。


「……さて、それじゃ材料まとめて……と!　10分ぐらいラーメンでも食べて待っててー!」


そう言ってネルは時空転移用PCへと飛び込んでいった。

10分か……毎度のことながら大した腕だ。

しかも材料がハチャメチャなのにどうやって作っているのか。なぜユリの花やドストエフスキーの『罪と罰』から幽霊可視化スコープができるんだろう。

ネルが本気出したら世界征服とか楽勝じゃねえのかな?


そんなことをどっぐちゃんと話しているうちに5分が過ぎて―――――





「はい完成したよー!!」

『早ぇ！』





10分とか言ったくせに半分の時間で完成してんじゃねぇか!!


抱えていた紙袋を渡され、中をのぞいてみると……頭部装着型のウェアラブルコンピュータのようなものが入っていた。


「こいつを頭に装着して、右目側にある小型透明スクリーンをセットすれば、幽霊を可視化できる仕組みよ。もしも何も映らないようなら、あたしにいってね。一瞬で直したげるから」

「ありがとよ、ネル」


例の言葉を聞いたネルは嬉しそうに笑い、時空転移用PCの中に消えていった。


「……なぁどっぐちゃん」

「何?」

「清花ちゃんは……まだ寂しがっているか?」

「……まぁ、ね」

「……そっか」


永い彼女の孤独の時間を、どっぐちゃんが突き破った。

でもそれだけじゃ足りない。

次の壁を突き破ってやるよ。


俺が……この手で。










Turndog、シルルスコープ取得。