ライブはその後も順調に進んでいった。現在はアンコールがあって、次辺りが最後だろう。そう雅彦が考えていると、バンドの音を含め、全ての音と演出が止まった。ミクもデフォルトの衣装に戻っている。
 「…今からみなさんに、聞いていただきたいことがあります」
 ミクが今までとは一転、静かに語り出した。
 「今日、ここに来られているみなさん、そして配信で見ていらっしゃる多くのみなさんの中には、先月、私の恋人である雅彦さんの身に何があったかご存知の方も多いと思います」
 いったん言葉を切るミク。
 「実は、雅彦さんの搬送先の病院で、錯乱してしまった私は、雅彦さんの主治医の先生に、暴言を吐いてしまいました。でも、MEIKO姉さんに注意されて、何とか落ち着いた私は、病院から家に戻って、それから一晩中ずっと考えていました。考えていたのは、今日のライブをどうするかでした」
 言葉を続けるミク。
 「その時に考えたのは、今の精神状態で練習を続けて、今日のライブに臨んだ時に、みなさんが満足できるクオリティーを出せるかということでした。あの時、ライブを中止か、そうで無くとも延期するという選択肢もありました。ですが、今日のためにボーカロイドのみんなや、ライブの運営をして下さるみなさんを初めとした多くの方が今日のために頑張ってらっしゃるのに、私一人の都合だけでライブを止めたり延期する訳にはいかないと考え、さらに、雅彦さんのことで受けた悲しみは、時間が癒やしてくれると思って、そうなれば練習にも打ち込めて、ライブでも問題無いクオリティーが出せると考えて、ライブはやり遂げようと考えました」
 固唾を飲んで見守る観客席。
 「…でも、いくら練習に打ち込んでも、雅彦さんのことは頭から離れませんでした。心配してくれたボーカロイドのみんなや雅彦さんには、何とかやり遂げると決意したけど、練習が終わって、家に帰って、一人で自分の部屋に戻ると、雅彦さんとの色んな思い出が浮かんできて…、いつもだったら、側に雅彦さんがいて、支えてくれるけれど、今はいない。毎日そんなことを思って、ずっと泣いていました」
 告白を終えたミク。静まり返る会場。
 「ミク、頑張れ」
 観客席から、そんな言葉が聞こえてきた。
 「ミク、頑張れ」
 「ミク、頑張れ」
 その言葉は、徐々に観客席に広がっていった。
 『ミーク、ミーク、ミーク…』
 いつの間にか、会場はミクを応援する大合唱になっていた。
 「…みなさん、ありがとうございます。これから、最後の歌を歌います」
 そういうと、バンドが演奏を再会した。最後の曲は、先程までのミクの言葉を受けてか、穏やかで、優しい曲だった。

 会場を包む暖かい拍手の中、ミクはステージから退いて行った。しばらくの間、その拍手は止むことはなかった。
 (ミク…、やっぱり、大丈夫じゃなかったんだ…)
 ステージから退いて行ったミクを見て、最初にそう思った雅彦。ミクは決して弱くはない。それはボーカロイドと一緒に住み始めて、ミクとの距離が一層近くなって、よりはっきりしたことだった。自分がこんなことになってしまい、間違い無くミクには何らかの悪い影響が出ていることを確信していた雅彦だったが、雅彦の前でライブを必ず成功させるといったミクの言葉もまた、信じていた。ミク自身がそういったのだから、きっと雅彦のこととライブのことは、どこかでしっかりと折り合いはついている、そう思っていた。しかし、先程のライブの告白を聞いていると、それは完璧ではなかったようだ。
 (ミクのことに気が付なかった僕は、ミクの恋人失格なのかな?)
 そんなことを思う雅彦。もし、雅彦が気がついていれば、何らかの手立ては打てたのではないかという思いもある。
 (…僕は、どうやってミクを出迎えようか?)
 そして、恐らく明日にでもここに来るであろうミクをどう迎えるかについて、雅彦が考え出した。

 ステージを去り、楽屋へ向かうミク。
 「ミク…」
 楽屋の前にはミク以外の5人がいた。
 「MEIKO姉さん、ごめんなさい。さっき、ステージ上でいったことは、本当は、ずっと、ずっと心の奥に閉まっておこうと思ったけど、どうしても誰かにこの気持ちを知って欲しくて…」
 謝罪の言葉を話すミク。その言葉には、ボーカロイド全員で行うライブを、自分が私物化してしまったという罪悪感があった。
 「…ミクには、いう権利があるわ」
 優しくいうMEIKO。
 「ミク、そうだよ、良く、今まで我慢できたね」
 同じく優しくいうKAITO。そしてMEIKOがミクに楽屋に入るようにうながした。

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初音ミクとパラダイムシフト2 2章23節

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投稿日:2017/02/23 22:32:20

文字数:1,916文字

カテゴリ:小説

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