ソファーの上で寝そべりながら、ちびクオは携帯ゲーム機のボタンを叩いていた。
彼一人しかいない広いリビングに、ゲーム機から発せられる音が鳴り響いている。
真剣な面持ちで画面を見ながら、指を駆使して操作する。
その様子から、かなり悪戦苦闘しているようだった。
「えぇっ!?今の当たるの!!?早く回復しないと…ちょ、こっち来るな!あぁっ!!もう一匹来た!?」
叫び声のような声でちびクオが怒鳴って暫く、ゲーム機からはゲームオーバーを告げる音楽が流れた。
少年は深く溜め息を吐いて、枕代わりに使っていたクッションに顔を伏せる。
「二匹とか一人で倒せるかよ…。兄ちゃん、早く帰って来ないかなぁ………」
そう静かに呟いたと同時に、玄関からドアを開く音がした。
足音が段々と近づいて、その音の主がリビングへと入ってくる。
「お帰り、兄ちゃん!あのさ、手伝って欲しいクエスト…」
ミクオが現れて即座に声を掛けるが、彼はそれに反応を示さずソファーに座り込んだ。
そんな様子の兄にちびクオは言葉を止め、身体を起こす。
「疲れてるの?」
「ああ、疲れてる。だから少し休ませろ」
そう言ったミクオは首を背もたれに預け、視線を天井に向ける。
「帰って来たら、遊ぶって言ったくせに…」
出掛ける前に交わした約束の話を引っ張り出し、ちびクオは不満をぶつける。
そんな弟に溜め息をついて、ミクオは面倒そうに言った。
「だから、少しだけ休ませろって。別に、遊ばないなんて言ってないだろ」
「………」
頬を膨らませて不満そうにこちらを睨む弟に、ミクオから先程より大きい溜め息がこぼれる。
ここで無視するのも一つの手ではあるが、後々まで根に持たれかねない。
ミクオは少し考えて、自分の頭をちびクオの膝に乗せてソファーに寝転がった。
突然の兄の行動に、ちびクオはただ驚きの顔を浮かべる。
「…十分」
「…え?」
「十分だけ寝かせろ。起きたら、いくらでも付き合ってやるから」
そう静かに呟くミクオに、ちびクオは「わかった」と一言答えた。
手にあるゲーム機の電源を切ると、部屋には静寂が満ちる。
「起きたら、クエスト手伝ってよ?」
「分かってるって。何のクエスト?」
「○ィガ二頭の討伐クエスト」
「まだクリア出来てなかったのかよ…」
「あいつら強すぎだって、一頭でも苦労するのに」
「お前の立ち回りが悪いんだよ。突進が来た後は…」
静寂の包む部屋に、兄弟の他愛ない会話が広がる。
その中で時間はゆっくりと流れ、刻々と日は沈んでいった。
*
ミクオが目を覚まして時計を確認すると、時刻は既に七時を過ぎていた。
(…少し、寝過ぎたか)
物静かな空間に聞こえるのは、規則的に時を刻む秒針の音。
そして目の前で寝ている、弟の寝息だけだった。
「なんでお前まで寝てるんだよ…」
話をしていて気が付いたら寝たため、どちらが先に眠りについたかも分からない。
ただ途中で起こされなかった事を考えると、恐らくちびクオが先に寝たのだろうとミクオは思った。
起きるのが億劫ではあったが、涎の一つでも溢されたら敵わないと、ミクオは身体を静かに起こす。
「ちょっと寒いな…」
部屋の肌寒さに、ミクオは身体を震わせた。
弟を一瞥して、物置から厚めのタオルケットを引っ張り出す。
それを一度脇において、ちびクオを起こさない様に抱き抱えた。
「む、意外と重い…のか?」
弟の世代の体重がよく分からなかったミクオは、つい語尾が疑問文になる。
久々に感じる弟の重みに、どこか不思議な感覚をミクオは覚えた。
「ん~ぅ………」
「っと。今降ろすから、大人しくしてろ」
身動ぎをするちびクオを宥めつつ、ゆっくりとソファーに寝かせた。
その上から、先ほど取り出したタオルケットをかけてやる。
「まあ、これで風邪は引かないだろ」
本当は部屋に連れていくべきなのだろうが、彼らの部屋は二階にある。
ミクオはそれが面倒なため、今の現状を選択したのだった。
「○ィガぁ…」
「夢の中でもゲームかよ」
ちびクオの寝言に、つい呆れた声を漏らす。
「起きたら、一緒にやろうな」
弟が起きていたら、絶対に言わないであろう優しい言葉を口にする。
軽く頭を撫でて、立ち上がって台所へと足を進めた。
(夕飯、何にすっかなぁ…)
そう考えながら、ミクオは冷蔵庫の中身を確認しに台所へと向かうのだった。
(寝てる時くらいは素直に)
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