最終回~約束




「ちょっと、何抱きついてんのよ」
「お前・・・なんで帰ってこなかったんだよ、心配したんだぞ!!」

涙が止まらない・・・。

アキバをうろつくオタクたちが「リア充死ね」と軽蔑の視線を送る。

「ここじゃあれだから、スタジオ行こう」

そうやって三久は俺の手を取って俺を引っ張る。
俺は涙を拭いながら着いていく。

これはまるで出会った日の様だった。
でもつなぐ手はなんだか優しい・・・。



アキバのすぐ近くにスタジオはあった。

「ここがあたしのスタジオ」
「小さいな・・・」
「うっさい」

スタジオは小さなビルの二階にあり、俺と三久はエレベーターで二階に上がっていく。

三久が一室のドアを開けると、防音室独特の音がした。
中は非常に狭く、録音機器が部屋のほとんどを占めていた。

部屋の真ん中にあのJ45Mが置いてある。

「あ、見て見てジェーくん、弦変えたの!!」
「へぇ~」

別に弦を変えることぐらい普通だろ。

「ちょっとは演奏、上手くなったか?」
「うん」

三久は聴いて欲しそうに、俺の顔を見た。

「よし、最後のギター練習だ。一緒に弾こう!!」
「やったー」

俺はギターを取り出し、三久もギターを構えた。

「「1・2・3・4」」

リズムを合わせて前奏を始める。
俺はリード、三久はコード伴奏を弾く。

練習したリード演奏・・・。

三久はちょっと驚いた顔をしながらも、演奏を続けた。
三久が歌いだす。

〈いたいけなモーション~、振り切れるテンション~〉

お、Fもうまく弾けてる。

〈意外~意外~いけるものね~〉

歌も上手い・・・。

〈繰り返す問答~答えなら無用~〉
〈嫌い~嫌い~縛らないで~〉

思い出が溢れ出す・・・。
そして涙も溢れ出す・・・。



「上手くなったな、ギター」
「練習したし、お父さんに教えてもらったし・・・」

少し悔しい・・・。
そしてここで一つ、疑問符が浮かぶ。

「でも、なぜ最初から父親にギター教えて貰わなかったんだ?フォークソングの重鎮だろ?」
「それは・・・」

三久は下を向く。

「それは・・・高校に入学した時に、お父さんに歌手デビューを勧めれれて、それを拒絶した。ただのボカロ好きでよかったの。そしてあの街へ逃げて、普通の女子高生として暮らした・・・。でも、ある日1925を歌うアンタを見て・・・」

三久は上を向いて俺を見た。
俺は息を呑む。またメイコちゃんみたいな展開なのか?

「・・・あまりに歌が下手でぶっ殺したくなった」

おいおいおいおい、相変わらずひでぇ・・・。

「もう悔しかった・・・なんであんたみたいなのがって・・・それでギター買ったの」

もう言い返す言葉もない。

「でも、あの時に素直にギター教えてもらって良かったと思う」
「方法は素直じゃなかったけどな・・・」

俺はジト目で三久を見た。

「でも良かったよ?ヤル気がでた!!Fコードのコツも一生懸命教えてくれたんだね!!わからなくてゴメンね」

三久は太陽のような笑顔になった。
相変わらず可愛いじゃねーか!!

「・・・三久・・・俺たち付き合おう!!」

俺は唐突に叫んだ。

「はぁ?」

三久は驚きと疑問で声を上げた。
俺はさらに続ける。

「なんかこう・・・女の子と暮らすのって本当いいなって思った。それにお前が可愛すぎるし・・・料理も上手いし・・・好きになっちまった」

三久は口をパクパクさせている。

一時の沈黙が走る。

そして三久は決心して答えた。

「・・・うん、いいよ。でもしばらくは地方巡業だから遠距離になるケド・・・」
「約束だぜ?」
「・・・うん」

俺は心でガッツポーズをしながら言った。

「明日、ストリートしよう!!」
「えっ?」



東京の雑踏。

俺と三久は息を合わせてギターを弾く・・・。

〈いたいけなモーション~、振り切れるテンション~〉

誰も立ち止まらない路上で俺たちは出会った。
1925という曲はすごいな・・・。



夕方の東京駅。

「じゃあ、またね・・・」
「おう、またな!!」

俺はギターを背負い新幹線に乗ろうとする。

「・・・ちょっと待って!!」

俺は振り返る。
その瞬間頬に柔らかい感触が当たった。

「ちょっ、おい」
「なによ、恋人同士なんだからいいでしょこれくらい」

三久が小悪魔みたいな笑顔になった。



俺たちは1925の歌の力で、近くて遠い恋人になったのさ・・・!!



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

1925から始まるストーリー~その6~

本当にここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!!

これで一応最終回です。
GW中に全部書いてもうたorz

番外編も一応考えておりますのでお楽しみに!!
今度はまた鬱展開小説に戻るつもりです。


1925から始まるストーリー
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投稿日:2013/03/10 09:44:33

文字数:1,873文字

カテゴリ:小説

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