こんにちは!前嶋拳人です。
冷え切った空気が肺の奥まで染み入る窓辺で私はただひたすら白い息を見つめている。世界中の音がすべて雪の下に閉じ込められてしまったかのように静まり返った部屋。時計の針が進む音さえも遠くの海鳴りのようにぼんやりとしか聞こえない。このような時間になるといつも私は自分の内側にある透明な何かが少しずつ形を失っていくような感覚に囚われる。形あるものはいつか必ず崩れ去るという当たり前の事実が妙に鮮やかに胸の痛みを伴って浮き彫りになるのだ。
私たちは日々何かを求めて手を伸ばしそしてつかみ取ったつもりのものをすぐに零れ落としてしまう。指の隙間からサラサラと逃げていく砂のように確かな手応えなんてものは最初から存在しなかったのではないかと疑いたくなる。それでもなお私たちは表現することをやめない。言葉にならない澱のような感情や誰にも見せられない心の傷跡を何かの形に置き換えなければ息をしていくことすらできないからだ。音の波に身を委ねたり紙の白さを塗りつぶしたりするその行為自体が生きている証拠なのだろう。
冷たい水に指先を浸したときのような痺れるような感覚が全身を駆け巡る。誰にも邪魔されないこの孤独な空間で私はただ自分の鼓動だけを頼りに思考の海を深く潜っていく。そこには誰も見たことのない風景が広がっていて光の届かない海底でひそやかに光る貝殻のように誰にも知られない物語が静かに息づいている。その小さな光を言葉という網ですくい上げて誰かに届くかどうかも分からないままそっと世界に向けて放り投げる。それがどれほど無意味で滑稽なことだったとしても私にとってはそれ以外の生き方を知らないのだ。
窓の外の景色が徐々に朝の鈍い光に染まり始めて世界が再び動き出す気配を感じる。夜のあいだに見ていた夢の残骸は太陽の光にさらされて跡形もなく消え去ってしまうだろう。それでも私の手元にはあの深海で拾い集めた小さな温度だけが確かな重みとして残されている。それを頼りにまた今日という一日を始めていく。冷えたコーヒーを一口飲み干して私は静かにペンを走らせる。
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