わたしの立てた作戦は、概ね成功したと言えるわ。リンちゃんも鏡音君も、遊園地に行くことをOKしてくれたし。クオは相変わらず「上手くいくわけないだろ」って態度だけど、それは教室の二人を見てないからよ。ちゃんと仲良くなってきてるんだから、後もうちょっとで、いい感じになれるわ。間違いない。
 リンちゃんの服を買うという名目で、わたしは久しぶりにリンちゃんとショッピングに出かけた。ミニスカートも薦めてみたけれど、残念ながらこれに関してはOKしてもらえなかった。うーん、残念。可愛いのに。
 日曜日、わたしは支度をして――髪は今回は全部結い上げた。機械とかに絡まったら危ないしね――リンちゃんたちが来るのを待った。ちなみに、リンちゃんにクオと鏡音君が一緒ということは話していない。だって、事前に話したら逃げられかねないもの。
 やってきたリンちゃんは、鏡音君とクオが一緒という事実にびっくりしていたけれど、混乱している間に、わたしはリンちゃんの手をつかんでさっさと車に乗り込んだ。鏡音君とクオも後からやってくる。さ、行くわよ。
 遊園地に着くと、わたしは予定どおり、ジェットコースターに乗ると言い出した。リンちゃんはおそらく嫌がるだろうから――あの手のものは苦手なのだ――そうしたら、クオにコースターに乗りたいと、強く主張してもらうことになっている。え? クオを悪役にするなって? だって、クオが言った方が威圧感が出ると思うのよね。わたしが言うよりは。
 でも、結局、クオが主張するまでもなかった。鏡音君の方が早々と、リンちゃんと一緒にいると言い出してくれたおかげで。……思ったよりも事態は進行しているみたい。いいことだわ。
 というわけで、首尾よくわたしたちは別行動をすることになった。……お二人さん、楽しんできてね。
「予想以上に上手くいったわ」
 コースターの列に並びながら、わたしはクオにそう言った。クオは面白くなさそうな表情をしている。ちょっと、作戦が成功したんだからもっと喜んでよね。
「……良かったじゃねえか」
 仏頂面のまんまでそう言うクオ。ねえ、わたしと一緒に喜んでくれる気はないの? まあいいわ。
「本当は一緒にコースターでも乗ってくれるともっといいんだけど、リンちゃん、絶叫系ダメなのよね。せめてお化け屋敷でも入ってくれないかしら」
 緊張で胸がドキドキするような体験をすると、恋が加速するって、前に読んだ本に書いてあったのよ。だから仲を進展させたいカップルは、絶叫系に乗るのがお薦めなんだって。でもリンちゃんは、さっきも言ったように絶叫系がダメ。となると、後、緊張でドキドキしそうなところって言ったら、お化け屋敷よね。鏡音君ホラー好きみたいだし、リンちゃんを連れてってくれないかしら。
 あれこれ考えていると、順番がやってきた。クオと並んで座席に座って、安全バーをセットする。いよいよだわ。作戦も上手くいったことだし、思い切り楽しみましょ。
「うーん、わくわくするわね」
 クオも楽しくなってきたみたいで、前より明るい表情になっている。
「とりあえず、コースターは全部乗るぞ」
「賛成!」
 ここ、コースターだけでもたくさんあるのよね。まずは順繰りにコースターに乗って行きましょ。それが済んだらフリーフォールがいいな。遊園地って本当、幾つになっても楽しいわよね。


 ずっと放っておきっぱなしというのも良くないので、クオと相談の末、お昼だけは合流して一緒に食べることにした。午後の予定を訊かれたら、午後も絶叫系に乗る予定だと答えるつもり。多分、これで鏡音君は、リンちゃんと午後も一緒にいるだろう。
 リンちゃんは何だか落ち着かない様子だったけど、鏡音君と揉めたりとか、そういうのではないみたい。なんでも、演劇部のカップルに遭遇しちゃったんだそうだ。もしかしたらわたしたちも会うかもね。
 話は予定どおりに運び、午後も二手に分かれて行動することになった。わたしとクオは二人で、遊園地をたっぷり楽しんだ。うーん、この作戦は大当たりだわ。ずっと絶叫系に乗っていたけど、さすがにちょっと疲れたので、最後は観覧車にした。
「今日は楽しかったわね」
 観覧車の中で、わたしはクオにそう言った。クオがにっと笑う。
「……だな」
 なんだかんだで、クオも今日は楽しんだみたい。
「クオは、絶叫系だったらどれが好き?」
「やっぱ、ジェットコースターだな」
 絶叫系の王様って言ったら、やっぱりあれよね。
「ミクは?」
「わたしもジェットコースター」
 観覧車はどんどん登っていく。じきに日が暮れるから、空の色も変わってきている。
「あ、そろそろ一番高い位置に来るわよ」
 わたしは、窓から下を見下ろした。クオが隣に来る。
「おー、みんな点にしか見えないな」
 そんなことを言うクオ。もうちょっと色気のある台詞、無いの? 正直不満だけど、ここは我慢してあげるわ。
 観覧車が下に下りるまで、わたしとクオは黙って外を眺めていた。外に出ると、名残惜しいけれど、待ち合わせ場所のゲート前に向かう。
 リンちゃんと鏡音君はもう来ていて、わたしたちを待っていた。……あら? なんだか、雰囲気がおかしいわね。並んで立っているけれど、二人とも全然視線をあわそうとしない。かといって、険悪ってわけじゃない。何というか……上手く説明できないわ。
 帰りの車の中でも、二人は全然喋ろうとしなかった。ますますもって気になるわ。これは追求の必要があるわね。
 家に帰ると、わたしはリンちゃんと一緒に家の中に入った。リンちゃんの家からのお迎えが来るまでは、まだ少し時間がある。
「ミクちゃん、今日はごめんね。折角誘ってくれたのに、一緒に回らなくて」
 リンちゃんはそんなことを言っている。それは別にいいのよ。作戦どおりなんだから。
「わたしの方も絶叫マシンに夢中になりすぎちゃったから、お互い様よ」
 まずはこう言っておく。さてと、何があったのか聞き出さなくちゃ。
「ねえ……ところでリンちゃん、今日、何かあったの?」
「……何かって?」
「さっきから様子が変だから」
 こういう時は、すぱっと訊くに限る。リンちゃんは、わたしの目の前で悩み始めた。
「鏡音君に、迷惑かけちゃったから……」
 俯き気味に、リンちゃんはそう言った。迷惑ねえ。
「迷惑って、今日リンちゃんにつきあったこと? あれは鏡音君の方から言い出したんだから、リンちゃんが気にすることないわよ」
 はっきりきっぱりそう宣言する。リンちゃんは、まだ困った表情のままだ。
「いえ、それじゃなくて……」
 そうよね。それだと、鏡音君の方の様子がおかしいことの説明がつかない。リンちゃん、何かやっちゃったのかしら。えーと、服は汚れてなかったから、転んでジュースかけちゃったとかじゃなさそうね。喧嘩したとも思えないし。うーん、何だろう。
「ねえ、リンちゃん。まさかとは思うけど……」
「何?」
「お化け屋敷とかで、びっくりして抱きつきでもしたの?」
 わたしの前で、リンちゃんが固まった。え? そうなの?
「え……今の、正解? うわーっ……びっくり……」
 リンちゃんは真っ赤になって下を向いている。まさか本当にそうなるとは……。って、ものすごく美味しいシチュエーションじゃないの!
「それなら全然迷惑じゃないって!」
「え……だって……いきなり抱きつかれたら……その……」
「リンちゃん、わかってないなあ」
 クオも前に言ってたものね。「きゃーっ怖いって抱きつかれたら、どんな男だって悪い気はしないっ!」って。
「それは絶対、向こうは迷惑だとは思ってないって。驚きはしただろうけど、迷惑じゃないことだけは確かだから」
 リンちゃんみたいな可愛い子に抱きついてもらえるなんて、むしろ喜ぶべき状況だものね。肝心の本人はわかってないみたいだけど。
 とにかく、作戦は上手くいきすぎるぐらい上手くいってるわけだわ。これから祝杯――未成年だからジュースだけどね――あげようっと。


 リンちゃんが帰宅した後、わたしは自分の部屋にジュースを瓶ごと持ち込んで、祝杯をあげることにした。ジュースってのがちょっと締まらないけど、まあ、仕方がないわ。
 わたしがジュースを飲んでいると、クオがやってきた。わたしを見て、驚いた表情になる。何?
「……どうしたんだお前。ついに壊れたのか?」
 はあ……相変わらず失礼ねえ。どこが壊れたのよ。まあいいわ。今はとても機嫌がいいから、見逃してあげる。
「あ、クオ! 作戦大成功を祝ってるところなの。クオも飲む?」
 クオは理解できないという表情になったけれど、自分の分のコップを取りに行った。コップを取って戻って来たので、ジュースを注ぐ。
「かんぱ~いっ!」
 わたしがそう言ってコップを掲げると、クオもコップをあわせてくれた。そしてジュースを一口飲むと、クオはこんなことを訊いてきた。
「なあ、おい。何が大成功なんだ」
「今日の作戦」
 クオの質問に答えるわたし。クオがむすっとした表情になる。
「おい、あれのどこが大成功だ。二人とも帰りの車の中で、一言も喋らなかったぞ」
 あら……こんなことを訊いてくるってことは、クオの方は、鏡音君に全然情報をもらってないのね。ダメじゃないの。
「それがねえ……クオ、聞いたら驚くわよ」
「もったいつけてないでさっさと喋れよ」
 こういう時はノリとか余韻とか、大事なものがあるのに……クオったら、せっかちなんだから。
「もう……いい話なのに。まあいいわ。あのねえ……リンちゃん、お化け屋敷で鏡音君に抱きついちゃったんですって」
 クオが唖然とした表情になる。まあねえ。ここまでの大成功は、わたしとしても予測してなかったし。あ、そうだわ。クオに釘刺しとかないと。
「あ、この話、鏡音君にしちゃダメよ」
「なんでだよ」
「クオは鏡音君から何も聞いてないんでしょう? 自分が喋ってないことが知られている、っていうのは、気持ちのいいものじゃないの。最悪信頼関係が壊れるし、今後の作戦に支障が出るわ」
 喋ってない事情が駄々漏れなんてバレたら、色々とややこしいことになっちゃう。
「まだ続ける気か!?」
「当然でしょ。二人がちゃーんと名実と共にカップルになるまでやりますからね」
「なあ、ミク。余計なお節介って言葉、知ってるか?」
「何言ってんの。これは余計なお節介なんかじゃないわ。わたしの使命よ」
 クオはわたしの前で大きなため息なんかを、これ見よがしについている。……悪いけど、これだけは譲れないのよ。絶対にね。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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アナザー:ロミオとシンデレラ 第二十二話【遊園地でのミク】

 ミクの認識が微妙にズレてますが「抱きついた」のは事実なので、その辺りはいいのです。

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投稿日:2011/10/20 19:03:45

文字数:4,352文字

カテゴリ:小説

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