解説編
わざわざここまでお読み下さり、ありがとうございます。
さて、早速解説に入りましょう。
●物語構造
これはもうわかっていることだとは思います。
「イチオシ独立戦争」→「アイマイ独立宣言」
という続きかと思わせておいて……
→「イチオシ独立戦争」
→「アイマイ独立宣言」
という同時進行だった、という流れですね。
「イチオシ独立戦争」の9,10話と、「アイマイ独立宣言」の12,13話が同じ時間軸になっています。
最後は同じシーンをカル目線とグミ目線で書いているのでわかりやすいですね。
ちなみに、カルとグミを“一見同一人物風”に見せるために「アイマイ独立宣言」一話冒頭で
「あの頃の……子ども兵だった頃の名前を捨てた。」
と書いています。
一話の説明文で「主人公が変わるに当たって、無茶な対処をしてしまいました、かなり……苦肉の策ですね(苦笑)」と書いているのも引っかけの一つだったり(笑)
テロ組織の名前を「イチオシ独立戦争」では“東ソルコタ神聖解放戦線”と書き、「アイマイ独立宣言」ではその英語となるESSLF……Eastern-Solcota Sacred Liberation Frontと表記したのもその一環です。両者が同じ名前だと記したのが11話になります。
「アイマイ独立宣言」の2話の国連演説の中で
「リクルーターたちは子どもを誘導します。彼らはまだ幼い子どもたちを巧みに騙し、兵士へと仕立てあげてしまうのです。
私も……そうやって騙された一人です。」
と書いています。
ここで「おや?」と思った方はかなり鋭い。
カルはESSLFに保護され、復讐のために自ら志願しています。カルとグミの差異を出しているのは、おそらくここが最初です。
これの次は……9話で首都アラダナにたどり着いたときですね。
街並みの描写を“まるで初めて来たみたいに”書くことで、違和感がうっすら出てこないかな、と思い。
●カルの罪
「アイマイ独立宣言」16話と最終話でカルがグミに「言わなきゃいけないことがある」と言っていますね。自らの罪についてでした。
「アイマイ独立宣言」最終話、
「言わなくていい。きっと赦してくれるわ。私の母も……あの子、リディアもね」
「……っ!」
ゾワッと総毛立った。
というのが、それに対するグミの回答でした。つまり、カルがその二人を殺している、ということです。
“リディアを殺したのがカルである”というのは「イチオシ独立戦争」の9話後半ではっきり書いていますが(リディア自身は、「アイマイ独立宣言」12話でエリックの死に動揺して逃げ出した後)、その文面にある通り、実はグミの義母ケイト・カフスザイを殺したのもカルです。
「イチオシ独立戦争」の4話ですね。
軍用トラックの中に、一人の中年女性がいたからだ。
「やめて、お願い。殺さないで……」
「手を上げろ。ゆっくりだ。そうだ。……よし。出てこい」
カンガと呼ばれる極彩色の大きな生地を身にまとった姿は、ソルコタではよく見る伝統衣装だ。
青と橙色のギザギザ模様だ。それにどんな意味があるのかは知らない。
この女性がケイト・カフスザイです。
言動がグミと会話していたときとはかなり違っていて修正すべきか悩みましたが、状況が状況だけに毅然とした態度はとれていないだろうと考え、こうなりました。
ちなみに、カンガの柄は「アイマイ独立宣言」の1話で書いていますね。
そのカンガの右半分は緑と黄色の波打つ模様――コダーラ族の伝統模様――で、左半分は青と橙色のギザギザ模様――カタ族の伝統模様――だった。
“わざわざカタ族の伝統模様のカンガを身に付けている女性”という点が一つ。
また「アイマイ独立宣言」の6話。
「……ソルコタ政府からの事務連絡の追伸として記載されていました。UNMISOLと赤十字の合同チームによる物資輸送部隊が襲撃を受け、部隊は非戦闘員も含め全滅。非戦闘員は赤十字社所属の医師二名と、現地案内要員としてケイトが同行していた、と……」
「赤十字との合同チームなら、輸送していたのは武器じゃないわね?」
ソフィーはうつむいたままだったが、それでもかろうじてうなずいて見せる。
「ついさっき確認が取れたばかりです。子どものための予防接種と、教育のためにと作成された絵本の輸送だったそうです」
「イチオシ独立戦争」で襲撃したトラックの積み荷とも一致している点。
ちなみにこの絵本、「イチオシ独立戦争」の6話でオコエとリディアが読んでいたものです。
「カル?」
リディアに返事もできないまま、無言で表紙に手を伸ばし、ページをめくる。
『じゅうをてにとるひつようはありません』
『みなさんはしあわせになれます』
『てをとりあいましょう』
『たたかわなくていいんです』
『みんなのこころがひとつになれば、かなしみをおわらせられます』
『かなしみをいかりにしない』
『ゆるす、ということ』
『ゆるしあうことが、へいわへのだいいっぽ』
『へいわを!』
ページをめくる手が止まらなかった。
はたとページを繰る手を止める。
ページの中央では、女の子が手を広げていた。
『つよいいしをもとう!』
『つよいゆうきをもとう!』
『ぶきなんていらない!』
『べんきょうがしたい!』
『そう、おとなにいえるゆうきをもとう!』
「――悪魔の書だ」
僕は本を閉じて足でおしやる。その本が近くにあって欲しくなかった。
改めて読むと分かるかと思います。
絵本の内容は「アイマイ独立宣言」2話のグミの国連演説そのままですね。「ページの中央では、女の子が手を広げていた」というのはもちろん、グミの姿を描いたイラストなわけです。
絵本の内容と「アイマイ独立宣言」での当時の政府と国連(UNMISOL)の関係の冷え込みにもかかわらず、UNMISOLの部隊にわざわざ参加する現地人であり、4話で「現地で働きたい」と言っていた人物であるケイト・カフスザイ。
こうしてみると、結構気づくための材料が揃っているのではないでしょうか。
ちなみに、カルが自分が殺した女性がグミの母親だと気づいたのは難民キャンプ中のことですが、リディアを殺したことは会談でオコエの独白を聞かされるまではほとんど忘れていました。
「アイマイ独立宣言」18話から抜粋。
「――こいつのせいでリディアは死んだんだぞ!」
オコエが泣きながら叫ぶ。
「こいつがあのとき、キャンプから連れだしたからリディアは殺されたんだ!」
「……!」
「オコエ……リディア……ま、さか」
カルがなにかにハッとする。が、それがなにか私にはわからない。
「あいつが連れていかなかったら、リディアはまだ生きてた。俺と一緒にいたはずなんだよ!」
「でも、だ、だからって……」
拳銃を突きつけたまま、口ごもるカル。
カルがオコエに拳銃を撃てなかったのは、オコエに対する罪に気づき、罪悪感を覚えたからですね。
●カルの性別
ミステリでたまにあるものですね。
「主人公(もしくは登場人物)が、当然そうだと思っていた性別と違っている」というものをやってみた、という。
流れとしては「子ども兵」という単語のイメージからまずは男性と思わせ、「イチオシ独立戦争」6話冒頭の「ベッドというのは寝るためではなく、その……大人との勤めを済ませる場所だから」と、「アイマイ独立宣言」でグミ視点になってから女性だったと思わせ、最終的にグミ視点で「少年兵」と示すことで最終的に男性だと判明する、という流れになっています。
できるからやってみた、というのはありますが、もともとミステリでそのトリックがあっても「これって意味ある?」と思ってたのもあり、やる価値があったのかというか……やらなければならないトリックという感じはしなかったですね(苦笑)
●カフラン・ラザルスキ副大統領/大統領臨時代理
「イチオシ独立戦争」を読み返した方は気づいたのではないでしょうか。
「イチオシ独立戦争」5話冒頭、積み荷の確認をした導師の発言。
「……カフランめ。くだらん情報などを寄越しおって……」
つまり、“ESSLF、東ソルコタ神聖解放戦線に情報を漏らしていたスパイは、カフラン・ラザルスキである”ということです。
“カフラン”という単語と“ラザルスキ”という単語が一致しないよう、カフラン・ラザルスキと繋げて書いたのは数回です。また上記の「……カフランめ。くだらん情報などを寄越しおって……」という発言を忘れさせるために、普段あまり出さない人名を沢山出しました(笑)
「イチオシ独立戦争」で、そのとき限りのキャラクターの名前が多く出ているのは、基本的にそのためです。
さて、「カフラン・ラザルスキがESSLFに情報を漏らしていたスパイ」と仮定すると、色々腑に落ちる文章が沢山出てくると思います。
「アイマイ独立宣言」7話、ケイトの手紙にて。
ラザルスキ副大統領は、ウブク大統領に反抗するためなら手段を選ばないような男だという印象を受けました。そしてそれは……間違いではないでしょう。彼はなにかにつけてウブク大統領に反発し、リーダーシップに抵抗し、政策を遅らせています。些細なミスを見つけては鬼の首をとったかのように声高に叫び、ウブク大統領の失脚を狙っていることを隠そうともしません。
また、11話でリディアについてグミが話をした直後。
「どこまで知っているのか……確かめねば。私が直接聞く。ここにその子を連れてくるのだ!」
「なにをそこまで――」
「――いいから、連れてこいと言っている!」
「私も同席するのであれば……いいでしょう」
「ダメだ。私一人で聞かなければならん」
「……子どもを尋問なさるのですか? 大統領臨時代理ともあろうお方が?」
「それは……ええい。そういう問題ではないのだ。私の――」
不意に口をつぐむ大統領臨時代理。
なにかはわからないが、無表情を装っていてもなにかを“言い過ぎた”ということだけは伝わった。
「――?」
「な、なんでもない」
「はぁ……」
リディアを問い詰めようとしたのは「情報を漏らした自分のことがどこまで知られているか」を確認したかったのであり、“言い過ぎた”のはもちろん、自分が情報を漏らしていたことに言及しそうになったということです。
また、その直後のやりとり。
「すでに壊滅しているか……迂回されているのでしょう」
「なぜそんなことになる!」
「それは私にも……考えられるとするなら、こちらの内部情報が向こう側に漏れて――」
「――そんなはずなかろう! 誰が好き好んでそんなことをするというのだ! 情報を漏らしてESSLFの攻撃が始まれば、自分の死を招いているようなものではないか」
「それはそうですが……」
“本人であればこそ、指摘された際には必死に否定する”という典型を書いたつもりです。
そして、ESSLFに情報を漏らしたからこそ、大統領を失脚させ、自らが大統領(臨時代理)に上り詰めたものの、それが故にアラダナ陥落を招き、自らもムヴェイの自爆特攻に巻き込まれて死んでしまう、という、皮肉にまで気づいてもらえたらいいな、と思います。
ちなみに「アイマイ独立宣言」の9話及び10話でのカフラン・ラザルスキの呼称は混在していますが、グミ・カフスザイはきっちりしたいので「大統領臨時代理」と呼び、ダニエル・ハーヴェイ将軍は面倒臭がって「大統領代理」と(ただし「大統領」とは呼びたくない)、ラザルスキ本人は見栄から「大統領」とそれぞれ呼び分けている、というものがあります。
それぞれの立場がわかる呼称かな、と思います。
と、解説しなきゃ、という内容はこんなところでしょうか。
こんなところまでお読みくださり、ありがとうございます
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