リンの手を引いて母さんのほうへ向かうと、母さんは赤いグロスで艶めく唇で俺たちに微笑んで見せた。
 そして、周りの人の輪から抜け出て俺たちのほうへ美しい無駄のない動きで歩み寄ってくる。

 リンが俺の手を少し強く握った。

 「あら、レン。…そちらの女の子は…もしかして彼女さんかしら?」

 ヤメロ、オマエハオレノハハオヤジャナイ。オレノナマエヲヨブナ。

 ――――なんとも形容しがたい気持ちがあふれそうなのをこらえて、俺は笑顔で母さんに挨拶をする。

 「母さん。久しぶり。彼女は鏡音リンさん。俺の彼女だよ。」

 俺は作り笑いで母さんにリンを紹介する。

 リンは緊張しているのか、かすかに頬を赤く染めて母さんにお辞儀する。

 「へえ…」

 母さんはリンのことをじろりと眺めまわす。

 「リンさん…あなたが着ているそのドレスはどこで手に入れたものかしら?」

 「こ、これはレン君が私のために用意してくれたものです。」

 「そう、とても似合っているわ。まるで、あなたのためだけに作られたドレスのよう。
  ねえ、レンもそう思うわよね?このドレスはあの女が着ていたものじゃなくて、あなたがリンさんのためにオーダーしたものでしょう?」

 やばい。見透かされてる。このドレスが俺の本当の母さんのものだったこと。

 俺は思わず黙り込んだ。

 「あら、レン黙り込んでどうしたの? リンさんのためにオーダーしたものなら何も後ろめたいことなんてないわよねぇ?
  ふふっ。あの女のものは全部、私が勇馬さんと結婚した日に全部処理するようにあのメイド長に命令したはずですもん。」

 継母の目つきが鋭くなる。
 まあ、無理もない。今リンが着ているドレスは本当はもう捨てられているはずのものなのだから。
 このドレスは、本当の母と一番仲の良かったメイド長が俺とテトとテッド以外に秘密で倉庫に隠したものだ。
 メイド長は「いつかレン様の惚れた女性がこのドレスを着てくれれば良いのですが。」と笑っていた。

 ずっと黙り込んでいる俺に不安になったリンが、握っている手に軽く力を込める。

 「まあ、もしもこれがあの女のドレスだったとしても、リンさんをレンとお付き合いさせるわけにはいかないから関係ないけれどねぇ。」

 「!? 母さん、約束と違うじゃありませんか!! 今日、このパーティーで俺が自分で決めた婚約者を連れてくると…」

 「『婚約者を連れてくる』と『自分の好きな女性と結婚できる』というのは同じ意味というわけではないのよ。
  それに、見たかぎりでは、リンさんはこの家にふさわしくないわ。まったく、どうやってレンをたぶらかしたのかしら。この薄汚い小娘が―――」


 パンっ。


 会場中に乾いた音が鳴り響く。

 周りの人たちのざわめき。

 リンの泣きそうな顔。


 俺は継母の顔に一発ビンタをした。そして、継母に掴みかかってもう一度殴ろうとした。
 
 手が止まらなかった。大切なリンの悪口なんて聞きたくなかった。


 「お前に…お前にっ!!リンの何がわかる!?お前のほうが最低なクズだ!!お前が…父さんをたぶらかしたんだろうが!!!お前は俺の母親なんかじゃない!!」


 頭に血が上って、口をついて出た俺の本音。

 何人かの使用人がその場に倒れこんだ継母を助け起こし、俺を抑え込む。


 「もうっ…もういいよ、レン…。もうそれ以上、言っちゃダメ。」


 リンが泣きながら俺に手を伸ばす。


 その手を遮るかのように、凛とした声が響き渡る。



 「すみません。私の妻と息子がお騒がせしました。後の片づけは私に任せて、皆様は料理とダンスをお楽しみください。
  本当に申し訳ありませんでした。」



 使用人に抑え込まれた俺と、助け起こされた継母の前に父が立っていた。
 腰をきっちり90度にまげてお辞儀をした父に周りのざわめきが消えていく。

 父は客人たちから俺たちのほうへ向きなおり、使用人に指示を出す。

 「レンの頭を冷やすために今日はもう帰らせろ。車を出して、レンのアパートまで送るように。
  ミズキは怪我をしているからちゃんと手当をして休ませろ。いいな?」

 使用人たちは父の指示に従って、俺と継母を会場の外へ連れ出す。


 パーティー会場の中で最後に見たものは、リンの泣き顔だった―――
















ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

彼らの恋の結末は14,レン視点

一応忘れそうなんでメモ↓
・レンの父→勇馬(VY2)
・レンの母→アン(Sweet ANN)
・レンの継母→ミズキ(VY1)

なかなか投稿できなくてすみません!!

閲覧数:440

投稿日:2012/03/31 21:28:40

文字数:1,848文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    レン…あなたは勇敢でいい子ね…!
    チミー感激!((

    リンをバカにする奴は私も許さんぞ!
    でもミズキと知ってちと躊躇ww

    この後どうなるのか…!
    続き楽しみ♪

    そういやpixivブログ終わっちゃったけど、他のところでブログやったりしないの?

    2012/04/07 13:14:50

    • 紅華116@たまに活動。

      紅華116@たまに活動。

      コメントありがと^^

      レンは複雑な環境で育ったのにグレてないよねww
      感激したのかww

      分かる!!
      リンもミズキも大切だから…

      続きはもうちょい待ってね!!展開は考えてるからww

      ブログかぁ…最近はちょっと忙しいからまだ考えてない←
      やりたいけど長く続かないからなぁww

      2012/04/07 19:24:14

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