パワードスーツの硬質な足が金属の床を叩く音が響く。血管のように張り巡らされた鉄色のパイプと申し訳程度の光量の足元灯が延々と続く無機質な廊下を僕は駆け抜けていた。施設突入の際にありったけ用意した銃火器やハンドグレネード、その他各種の制圧兵器は全てこれまでの道程で使い切り、打ち捨ててきた。自分以外の精鋭30名も同様だ。
生き残ったのは僕だけ。だけどこの最後のミッションはたとえ僕一人になっても遂行しなければいけない。
ドクター・ミスティーヒルの暴走に端を発した今世紀最大にして世界規模のテロ活動は、国同士の境を取り払った統一機構によっていまやほぼ完全に鎮圧されていた。首謀者のミスティーヒルは追い詰められて自害、散発的に抵抗する残党たちが一掃されるのも時間の問題だろう。
しかし。
世界中が安堵に包まれる中、突如行われた宣誓。ドクター・ミスティーヒル配下の実働部隊隊長ハインシュルツは僅かに残った手勢を山奥の研究施設に集め、世界に向けてこう宣言した。
『俺たちは汚れきった世界を破壊する。ついさきほど研究所の縮退炉を暴走させた。あと3時間足らずでこの星の十分の一が消滅するだろう。交渉の余地は微塵もない。愚鈍な人類よ、恐怖と後悔に溺れて死ね』
暴走した縮退炉は臨界を突破したら最後。大規模な擬似ブラックホールが発生し、黒い牙は世界を容赦なく飲み込む。質量を大幅に削られた惑星は自転が狂い、大規模な環境変化と自然災害の多発によって地表に生けるものを駆逐していくだろう。
唯一残った武装、高強靭にして切れ味抜群の高周波ブレードの柄を握り締める。幾多の戦闘を共にした相棒の存在を確かめて、昂ぶった気持ちを落ち着けた。
行く手を阻む敵もトラップもない。縮退炉のある施設の中心まではもう目と鼻の先だ。ハインシュルツも準備を整えて待ち受けているに違いない。
決戦を前に、意識が深層に沈み込む。
いつからこんなに大きな、思い出せない記憶があったか。どうにも覚えてないのを、だけど確かに覚えている。ぽっかりと空いた胸の穴を埋めようと何回も記憶を探って、ようやく思い出すのはあなたの顔。
込み上げてくる自嘲的な感情。もう何万回も思い浮かべているのに、おかしいよね? それでもあなたのことをなんだか、上手く思い出せないままでいるんだ。優しいはずの思い出の欠片が心に刺さって、どうしようもなくなる。笑おうとしても、どうにも上手くいかない。
廊下の先に光が見えてきた。
ふと、あなたにはもう永遠に会えないんだな。そう思えた。何故かそんな気がしたんだ。
深く身を沈め、感傷を振り払うように加速した。
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