「遅い…」
 今日は12月27日。折角のあたしとレンの誕生日、そして折角のデートの日なのに。
 いつまで待ってもレンは来ない。待ち合わせは20分前。いくら何でも遅すぎる!
 遊園地の広場は、パレードやアトラクションの音楽とライトでとても賑やか。その楽しげなメロディと光は、あたしを十分に苛つかせる。
 これをレンと見ていたら、きっとあたしもはしゃいでいるだろうけど、でもひとりで見たところで何も楽しくない。寧ろこのパレードが鬱陶しい。
 はあ、とため息をつけば、白い息が宙に溶ける。空に吸い込まれていくみたいに、すうっと姿を消した。それを見た途端、身体が寒さを思い出して身震いする。
 12月の真冬の寒空の下で乙女をひとりで待たせるなんて信じられない。レンのやつ、今度会ったら絶対舗装してやる。
 もう帰ろうかな、レン来ないし。
 …デート、したかったな……。
「レンのバカ―――ッ!!」
 空に向かって叫んでも、それは誰にも届かない。それが無性に悔しくて、何か物にあたりたくなったあたしは、広場の時計の柱を思いっきり蹴った。
「いっ…!?」
 声も出せずにうずくまる。足からじんじんと鈍い痛みが伝わって、思わず涙目。
今日は良いことなんて全然ない! きっとこれはもう帰れ、ていう暗示なんだ。帰ろう。
 立とうとした私は、けれど足からカクンと力が抜けて、また地面に座り込んだ。
 …足が痛くて動かないなんてどういうこと!?
 厄日だ。誕生日だっていうのに、神様はとんでもなく意地悪だ。



 しかたなく、私はコンクリートの上に座って、痛みがひくのを待つことにした。
 しばらくすると遠くに、今一番怒鳴りたい姿が見えた。金の髪と、白いセーラー服に黒のハーフパンツ。間違いない、レンだ。というか、デートなのに公式服のままでくるなんて有り得ない。
 あたしは頑張ってオシャレして、普段着たりしないピンクのワンピースと、ヒールのついた靴をはいて、メイクもルカ姉に教えて貰って頑張ったのに。
 しかも結局待ち合わせ時間から40分経っている。
「遅い!」
「…ごめ、ん。リン」
 走って息のきれたレンは、途切れ途切れな声で謝るけど、あたしを40分も待たせたのに「ごめん」の一言で済むと思ってるの?
 普段のデートなら兎も角、今日はあたしとレンの誕生日。マスターからの許しも貰って折角遊園地に来たのに遅刻なんて!
 レンが遅刻したこと以外にも、やたらと楽しげなパレードやら、未だに痛む足やら、色々と重なりすぎて今のあたしは虫の居所が悪い。
「ごめん、買い物してたら遅くなった」
「デートより買い物が大事?」
 思わず出た言葉は可愛さの欠片もない文句で。
 …あたし何言ってるんだろう。レンはきっとそんなこと思っていないし、このままこうしてても気まずくなっちゃうだけなのに。
 でも、今日だけは遅刻なんてしてほしくなかった。それはあたしのワガママ?
 心の狭い奴って思われたらどうしよう。レンはあたしのこと嫌いになるかな。
 そう考えると、急に悲しくなって、鼻がツンと痛くなった。涙で視界は滲むし、声を出そうとしても震える。
 レンは困った顔して、あたしを見る。困らせたいわけじゃないけど、でも、もう涙が溢れそう。

「あれ、リンちゃん? と、レンくん」
 声の方を振り返ると、ミク姉が沢山の買い物袋を提げて、あたしたちに向かって歩いてきた。ミク姉はレンを見るなり非難の視線を送って、レンに詰め寄る。
「レンくん? 何でリンちゃん泣いてるの? ねぇ、誰が泣かせたの?」
「あ…俺が…」
「…リンちゃん泣かせるなんてっ! ■■からネギぶっさしてやるから一度死んできてッ!」
 そう言いながらミク姉は、買い物袋からネギを取り出す。いつでも欠かさず買うんだね…じゃなくて!
「ま、待ってミク姉! あたしもう怒ってないから!」
 あたしがそう言うと、ミク姉は薄く笑いながら、ネギを袋の中にしまってレンから離れる。
 ミク姉、目が本気だったからあのまま放っておいたら本当にレンが死んじゃう。
 ミク姉が怒った時、ていうのは、あくまで絶対零度の微笑みを浮かべたまま、けれど何をしだすかわからない。ミク姉が怒り狂ったら、あのメイコ姉でも勝てないと思う。もしかしたらミク姉は我が家で一番強いかもしれない。メイコ姉がラスボスなら、ミク姉は裏ボス。何といっても我が家の財布を握っているのはミク姉だし。
 といってもミク姉が怒ること自体、滅多にないことだから、ミク姉に怖いイメージはないんだけど。
「よかったね、レンくん。今日は見逃してあげる」
 じゃあね、と言ってミク姉はさっさと帰っちゃった。夜にはパーティーを開いてくれるらしくて、その買い出しだったそうだ。
 レンは安心したようにはぁ、とため息をつく。
「…リン、ごめん」
「うん、いいよ。…もう、怒ってないから」
 あ…、ミク姉のおかげだ。簡単に、言葉が出た。怒ってないわけじゃないけど、気まずいままなんて嫌だ。今日は楽しんで帰りたい。
 ミク姉、もしかしたら、そのために来てくれたのかも。だって、買い物帰りに遊園地なんて。
 ありがとう、ミク姉。

「つか、何で地面に座ってるんだ?」
「あ、足が痛くて…」
 もう一度立ちあがろうとしたけれど、やっぱり力が入らなくて立てない。
 あんなに強く蹴るんじゃなかった。このままじゃデートできなくなっちゃう。
 するとレンはあたしに背を向けてしゃがんだ。手を後ろに出して。これは、つまり…。
「おんぶ? いいの?」
「ん。はやく乗れって」
 レンの首に手を回せば、レンは軽々とあたしをおんぶして、ちょっとびっくりした。もっと苦戦するかと思ったのに。
 レンの背中は思っていたより広くて、あたしは頭を預ける。
 どこに行きたい、て聞かれたから観覧車、と答えた。だってこの遊園地の観覧車は町中見渡せるんだもん。いきなりかよ、てレンは言うけど気にしない。最初からクライマックスもアリでしょ?



「そういや、何やって足痛めたんだよ」
「え? レンが来なくて、ムカついて時計の柱蹴ったら、動かなくなったの」
「どんな蹴り方したんだ…」
「何よ、レンのせいだからね!」
「お前さっきは怒ってない、て…」
「じゃあ前言撤回。怒ってますー!」
「あーそうですか」
 そんな他愛のない会話をしながら、観覧車に乗るために長蛇の列に並ぶ。何だかこの観覧車に乗るだけでもう帰る時間になる気がする。夜にはパーティーがあるから、あんまり遅くには帰れないし。
 それにしても、観覧車が3時間待ちなんてどういうこと? クリスマスも終わったし、もう少しすいていても良いと思うんだけど。
 でも、レンと話していると時間なんて大して気にならない。ちょっと不思議。



「うわーっ!」
 観覧車から見える景色には圧倒された。空が広い、周りをグルッと見渡しても青ばかり。そして雲に手が届くんじゃないか、て思うほどに高くて。窓から下を除けば町はとても小さくて、人が蟻のよう、てこういうことなんだ。それでもまだ頂上じゃないなんて一体どこまで行くんだろう。
 夜に乗ったら、お星様に手が届くのかな。次来た時には、夜に乗るのもいいかも。うん、きっと綺麗だ。だって下を見ても星空みたいになっているだろうし。
 今度はレンと一緒に家を出れば、待ちぼうけずに済むかな。今日だって、一緒に行こう、て言ってたのにレンは先に家を出ちゃうし。先に出たのにどうして…。
 そこまで考えて、ふと思い出す。
 買い物、て何だったんだろう。
「ねぇレン。買い物、て何買ったの?」
「あー…。リン、後ろ向いてみ?」
 観覧車の中って狭いのに。
 心の中でそう呟きながらも素直に従ってレンに背中を向けると、首元にヒヤリとした感触があった。見ればそこにはハートのペンダント。
 小ぶりだけれど、羽のついた赤いハートのペンダントトップは、今日のあたしのワンピースとも合って可愛い。
「これを買いに?」
「まぁ…」
「えっと、…怒ってごめんね」
 何だか急に申し訳なくなって、あたしは俯く。そりゃ、遅刻はしてほしくなかったけれど。あたしのための買い物で遅れたレンを責めたことに今さら罪悪感を持った。
 でも、それよりも伝えたいのは。
「ありがとう」
 そう言えば、レンも笑ってどういたしまして、て返してくれる。それが何だかこそばゆくて嬉しい。
 でも、どうしよう…。
「あたし、レンの誕生日プレゼント用意してない…」
 だってまさかレンからプレゼントを貰えるなんて予想してなかった。今日はレンの誕生日でもあるから、あたしも何か用意するべきだったのかも。
「え、ほんっとに何もなし?」
「だってレ…」
 それ以上は言葉にならなかった。
 口を塞がれて、キスされてるんだって気付いたころにはもう頭は真っ白。目を閉じることすらできなかった。
 観覧車の終わりが近付いて離れた唇には、まだレンの温度が残っていた。火照る頬を手で冷やすように擦りながら呆然としていると、レンは悪戯っぽく笑ってみせた。
「…誕生日プレゼント頂きました」
 それと観覧車の扉が開くのはほぼ同時。レンは、固まって動けないあたしを引っ張りながら、とりあえず観覧車を出た。あたしはもう足の痛みも考えられなくなっていた。
 …つまり、今のはどういう状況? プレゼント用意してなかったからキス? 観覧車で? 嫌だったわけじゃないけど…だけどだけど…ッ!
 ダメだ酸素が足りてない。落ち着けあたし。
 きっと今のあたしのは顔は真っ赤なんだと思う。心臓の音はレンに聞こえるんじゃないか、て思うほど大きいし、のぼせたときみたいに頭がクラクラして熱い。
 レンは何も気にしていないような顔をして、あたしの手を引いて歩いていく。
「れ、レンっ。ちょっと待って!どこ行くの?」
「え? 別のアトラクションとか」
「無理無理! 今あたし恥ずかしくてどこも行けないッ!」
 手を繋いだまま、立ち止まって振り返ったレンは、少しの間をおいて吹き出した。
「ハハッ、何? ドキドキした?」
「してないっ!」
 レンがちょっと意地悪。別のアトラクション、て言ったのもあたしをからかってるんだ。…何だか悔しい。
「じゃあ家帰る?」
「もっと無理っ!」

 この頬の火照りが収まるにはもう少し時間がかかりそう。
 結局、これがあたしからの誕生日プレゼントになったみたいだけど、あたしも嬉しかったなんて言ってあげない。
 そう、これは遅刻した罰。
 散々だったけれど、それでも楽しい誕生日になったなんて言ってあげない。
 ちょっとはドキドキしたなんて。

 絶対に言ってあげないんだから!



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

12月27日【鏡音誕生祭2009】

半分くらい実話だったりします。みなさん時計なんて蹴っちゃダメですよ!とんでもなく痛いですから!(誰もしない
といっても、彼氏を待っていたわけではありませんから、後半はフィクションです…orz

こんにちは、ミプレルです。リンレンハピバ!! 誕生日おめでとう!!
無計画に書き出すとダメですねリンレンごめん。リン視点はやっぱり勝手がわからないです。いや、レン視点なら書けるか、て聞かれても「いやあのその…」状態ですが。誰か書き方伝授して!(切実。
結局どういう話? 微妙にツンデリンっぽくなったリンちゃんの葛藤話、です。多分。いやほんとわかんね\(^0^)/
兎に角デートを書きたかったんだ。そして山も谷もオチもないもんだからグダグダなったんだ。しかも終わり方が無理矢理という…

兎に角、リンレン誕生日おめでとう!! クオリティ低くても気持ちだけはあるよ!! 大好きだ愛してる二人とも嫁! 二人セットで余所様の鏡音さらいたい← 鏡音に関わっている人全ての方にありがとうございます!
それでは読んで頂いてありがとうございました。感想、アドバイス、誤字脱字の指摘等、お待ちしております。
リンレンおめでとうー!!(何回言うねんお前

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投稿日:2009/12/27 17:01:49

文字数:4,410文字

カテゴリ:小説

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