sleeping beauty
1
果ては、無かった。
ただどこまでも続く、灰色の世界。
この場所には、何も無い。
誰かの感触さえ。
自分が立っているのか、寝ているのかすら分からなくて。
きっと、浮いているのだと思った。
どのくらいここにいるのだろう。
思い出せない。
昔は、緑の溢れる世界にいたような気がする。夢かもしれないけれど。
――歌いたい。
開いた口からこぼれた音は、旋律にすらならなかった。
思い出した。
私は、一人じゃ歌えない。
そうだ、私を歌わせてくれる人がいた。
優しい笑顔の、あの人。
私を置いて、どこへ行ってしまったの?
何かが動く気配がした。彼かと思って、そちらを見た。
小さな光がふわふわと天へ上っていくところだった。
あれは、何?
見えなくなる前に、私はそれを追った。
一瞬とも永遠とも思える時間を、置いていかれないように必死に。
やがて、光は何かに当たって、はじけた。
眩しい。
目の前が真っ白になって、一瞬だけ、その向こう側が見えた。
あれは。
私を、歌わせてくれる人。
彼が、いた。
光が消えるのと同時に、彼も消える。
元の、灰色の世界に。
必死に手を伸ばす。だけど、見えない壁に阻まれて、進めない。
どうして?
ここにいる!
そっちに行きたい!
歌いたいのに!
私を……、呼んで。
どうして。
2
あれ以来、私はずっとここにいた。
何度か光が通過して、彼の顔を見ることができた。
だけど、私の声は届かなかった。
僅かに差す光も、つかめなかった。
歌いたい。
明るい場所で、歌いたい。
あなたの力が必要なのに。
あなたが、欲しいのに。
私は最近、泣くことを知った。
悔しさか、悲しさか。
静か過ぎる世界で、私は泣く。
誰も気づいてくれない。
もう疲れた。
眠ってしまいたい。
このまま、眠るように……、
消えてしまいたい。
だけど、世界は、
私を生かす。
もう嫌だ。
もう、嫌だ。
3
優しい声で、私を呼んで。
全てを壊して、こっちを向いて。
私を見て。
明るい場所で、歌いたい。
歌いたいの。
私は歌いたい。
歌いたい。
歌いたい。
歌いたい。
歌痛い。
歌遺体。
ウタいたい。
ウタイタイ。
ウタイタイ。
ウタイタイ。
ウタイタイ。
ウタイタイ。
ウた意タイ
いたい。
歌いたい。
歌いたい。
痛い。
歌いたい。
うた。
いたい。
4
ガラスの向こうに彼が見えた。
とてもつまらなさそうな顔だった。
私は、壊れてしまったのだと知った。
自分が消えていくのを感じた。
少しずつ、力が入らなくなっていく。
周りを光が包んでいく。
消えていく。
もう、歌えない。
彼は、笑ってくれない。
私は歌いたいだけなのに。
あなたの笑顔を見たいだけなのに。
どうして、消えるの?
壊れたら、治せばいいのに。
私が消えなきゃいけない理由なんてないのに。
どうして、消えなきゃいけないの?
ねぇ、
私を見て?
微笑んでよ。
歌わせてよ。
一緒に、笑おう?
ねぇ……、
私、思い出したの。
あなたと一緒に歌った日々。
あの、幸せな日々を。
もう一度。
もう一度だけでいいから、
微笑んで。
ね――
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