……
……
「冷たい?」
私が声をかけると、セグロは穏やかな声で答える。
「いいや、あぁ。心地良いぜ」
「ゆっくり、浸ってね」
「ふっ。やっぱり、少し、慣れないわ」
「そのうち、馴染んでくるよ」
静かなアパートの室内に、水音が響く。
誰も、二人を遮らなかった。
セグロさん、は、ふわふわと嬉しそうに、私から逃れて泳ぐ。
「しかし、昨日も味噌汁なら、俺は、ファースト味噌汁じゃないんじゃないか」
「今日のために、味噌汁に使わずにあなたをとっておいたの。確かめたらもったいなかったから」
「ははは、なるほど」
その小さな箱庭の中は、やがて、だんだん熱を帯び始めた……
『今日が、あなたが最初で最後』
朝、私はお守りを握りしめながら、にぼしの居なくなった部屋を見渡した。
あの日から、
味噌汁ににぼしを入れていない。
「わかってた、わかってたのに! あなたが居なくなるのは、私……」
にぼしは、もともと、お味噌汁にするつもりだった。
だけど同時に、食べても消えないんじゃないかって、そんな、矛盾したことを思う自分がいた。
そんなことはない。
あるはずがないのに。
一夜きりの逢瀬は、初恋の味と、涙の味がした。
―完―
運命の歯車2
続きです。ありがとうございました。
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