冷たい風がカーテンを揺らす部屋で静かに爪先を丸めて佇んでいます。
記憶の隙間に埋もれた声を拾い集めて形にする時間を過ごしてきた私の手のひらにはいつも名前のない感情が残されています。
部屋の片隅に置かれた木製の箱からは回すたびに溢れ出す小さな金属の音が響いていました。
その音色は空に浮かぶ細い三日月を少しずつ溶かして出来た冷たい雫を吸い上げて奏でられているようでした。
曲を作る人や色彩を生み出す人たちが深い思考の底へ潜り込む作業もこの溶けた光をひとしずくずつ飲み込んでいく感覚によく似ていると感じることがあります。
世の中には眩しいほどの言葉や分かりやすい感情の答えがあふれていますが表面を飾るだけでは胸の奥の不器用な歪みに届くことはありません。
どれほど綺麗な音を重ねてもその裏側に隠された寂しさや声にならない叫びを抱きしめなければ本当の意味で誰かの孤独を溶かすことはできないのです。
そこで必要になるのは誰も触れようとしない冷たい影の中にそっと手を伸ばすことです。
溢れ落ちた涙の破片やどこにも行けない想いをひとつずつ集めて静かに音の箱の中へ沈めていきます。
冷ややかな光を含んだ旋律がひそやかに部屋の中に広がり始めた瞬間止まっていた影が小さな波紋を描いてゆらゆらと揺れ始めます。
生み出された欠片は誰かが一人で抱え込んでいた静かな時間に寄り添いその寂しさを優しく包み込んでいきます。
作るということは美しい答えを示すことではなく遠い場所で震えている誰かの呼吸にそっと重なることなのだと気づかされます。
私たちは誰もが言葉にできない想いを抱えながら自分だけの冷たい光を紡いでいます。
街の灯りがひとつずつ消えていく時間にふと自分が残してきた音色の深さを確かめたくなります。
今日あなたが影の中から拾い上げたその欠片はどんな色彩となって誰かの孤独に寄り添っているでしょうか。
消え入るような余韻に耳を澄ませながらそっと息を吐き出します。
明日もまた誰も触れたことのない深さへ潜り新しい感情の音を探し求めていくのでしょう。
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