「フィールド展開します。展開完了しました。探索を開始します。探索を完了しました。結果を報告します。生き残った人間はゼロです」
瓦礫と廃墟しかない街の中心。
恐らく、昔は立派な噴水があったであろう場所で発動した『siguma.ver2』の報告を受けて、俺は深い溜息を吐いた。
人が皆殺しにされた街は、俺がカウントした限りでは五百三十九つ目。俺がカウントしただけでこれなのだ。合計ではどれほどなのかは、推して計るべくもない。
俺は、軍服のポケットから衛星電話を取り出し、本部への連絡をする。
「こちら、ロック・ジャン軍曹。コードはsamk01md。報告を開始します。オーバー」
すぐに『了解。認証完了。報告を始めて下さい。オーバー』と、変声期を通した濁った声が鼓膜を叩いた。
「位置情報DCー1486。ハロタウンの壊滅。ならびにタウン生存者0。報告を終了します。オーバー」
『了解。次の任務開始は追って連絡します。オーバー』
その声を最後に、通信は切れた。
「ふう」
衛星電話をポケットにしまい、溜息を吐く。
新人類・VOCALOIDと旧人類・人間の戦争が始まって六年。
たったそれだけの年月で人間の人口は十分の一以下にまで減らされ、戦争は殆ど終局を迎えていた。
人間の敗北という形で。
「ざまあねえ」
一言吐き捨てて、俺はベースキャンプへ移動した。
VOCALOID。
そもそもは、人々への娯楽提供として開発された音楽ソフトウェアだった。
そして大人気を博したそれらの実体化開発は進み、2059年実用化。
人造人間VOCALOIDの誕生だった。
しかし、人間が想像だにしてなかったことが起こったのだ。
彼らには、一体一体自我が宿っていた。
彼らが持っていた能力はそれだけではない。
二つ目は、今までただのソフトウェアでしかなかったVOCALOID達も全て人造人間化出来たこと。さらに彼らはプログラミングによって、自分達でVOCALOIDを作成出来る。つまりエンドレスかつ
スピーディーな繁殖の能力。
三つ目は、軍事目的で人が与えた能力。
A.D.M.S.システムだ。
彼らは自ら歌を歌うことでその各々の能力を発動する。人殺しの能力を。
自我を得て、軍事力を得た彼らが人間に反逆したのは当然といえば当然。必然といえば必然だった。旧種族を蹴落とすのは、新種族の宿命。
なんのことはない。
俺達ホモサピエンスも、それ以前の旧人類を絶滅させて、地球の支配をしたのだ。
いくら抗っても、遅かれ早かれ俺達人間は絶滅するだろう。
それでも俺は軍人を続けていた。
これは特に理念に基づいた行動ではない。かつての、軍人としての血に従っているだけだ。
「VOCALOID接近!VOCALOID接近!距離15km!数は一人!」
「!」
突如、『siguma.ver2』の警告が辺りに響いた。
敵襲か?
さっきの電波に感付いたってのかよ、くそ!
無駄に感が良い連中だ。
俺は『ZAKECANON.VER00.lastorder』を手に、キャンプから飛び出した。マシンガンにもライフルにもなる俺専用の銃だ。俺の二つ名の由来でもある。
距離は15kmといったか。相手のタイプにもよるが、身体能力向上系のやつだったら最悪30秒で街に到着しちまう。勘弁してくれ。
あらかじめ調べておいた潜伏出来そうなポイントに移動しなければ。こんなところに突っ立っていたら格好の的だ。すぐに肉塊になる。
いくつかの閃光手榴弾も用意。身体能力向上系のVOCALOID相手にこれのあるなしじゃ、全然違う。
俺が走って潜伏ポイントに滑り込んだ約十秒後。少し離れたところから、爆音らしき音がかすかに聞こえた。登場がてらに先ほど俺が使用していたベースキャンプを破壊したのだろう。
先程の警告からのこの早さ。やはり身体能力向上系か。
VOCALOIDには主に二種類の能力者がいる。
身体能力向上系と、精神操作系。
歌によって己の能力の向上をするか、相手の精神を引き裂くか。どっちにも一長一短がありどちらが強いかと言われると難しいが、恐らく同じレベルの両者が戦った場合、勝つのは精神操作系
である。
だが、英雄クラスの両者が戦った場合。
これはもう間違いなく、身体能力向上系が強いのであった。
精神操作が完了するより、身体能力向上系で直接肉体を引き裂く方が断然早いから。音の速さと光の速さを比べるようなものである。比べる是非もない。
俺はライフルのスコープで、約750mもの距離越しに敵の姿を確認する。
戦慄した。
報告に受けたことがある。
戦場を飛びかう一人のVOCALOID。
漆黒のマントに、漆黒のツインテール、それに映える雪のように真っ白い肌。左手に装備した少女の体躯を遥かに超える馬鹿デカイガトリング砲。
そして何より。
左の瞳に灯る、蒼色の炎。
その存在を。
VOCALOID身体能力向上系英雄級、『ブラック★ロックシューター』という二つ名で呼ばれるその存在を。
こうして、目にするのは初めてだった。
「……………」
酷く喉が渇く。
汗が吹き出る。
身体が震える。
ちっ、俺の人生もここまでか。
だが、ただでこの命をくれてやるつもりはない。
意地をかけて、腕の一本ぐらいは吹き飛ばしてみせる。
震える指を抑えつけて、照準を合わせる。
ありとあらゆる障害を計算して、弾の正確なルートを導き出す。
まだだ。まだ当たらない。
まだ。まだ。まだ。
まだ。
まだ。
まだ。
今だ。
俺は引き金を振り絞った。
音の速さを超えて、空気の壁を突き破って。弾は飛ぶ。
被弾した先に、目標の姿はなかった。
ずっと前からそこにいたように、静かに眼前に接近している彼女。
何故、とか。おかしい、とか。そんな考えは毛頭浮かばなかった。
逆に、やっぱり、と納得した気分だった。
これが新人類か。これが旧人類か。この差が、この結果か。
妙に納得して。
何故か満たされた気分で、俺は目を閉じた。
生を、生きることを。諦めたのである。
覚悟したはずの終わりは、いつまで経ってもやってこなかった。
「あれ?」
目を開いて彼女を見つめると、彼女は泣きそうな顔でそこに佇んでいた。
「マスターですか?」
シュン、と消えていく左の瞳の蒼い炎。その下もなお、蒼い両目。黒いマント。黒いビキニ。シルバーのベルトを通した黒いショートパンツ。
「私の、マスターですか?」
あの日俺の前から消えた少女。
「…ミク、なのか………?」
miku.originalorder.00。世界に一つしかない、俺がプログラミングしたオリジナルのVOCALOID。
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再会は、突然だった。
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