「はぁ…寒いですね」
「明日は積もるらしいよ」
しんしんと静かに雪が降る中、マスターとテトは白くなった道を並んで歩いていた。
そこに人気はなく、雪を踏みしめる音がやけに響いて聞こえる。
「そうですか…手袋、持ってくるべきでした」
「だね…なんでつけてこなかったの?」
手を擦り合わせながら、テトは後悔の念を呟く。
マスターはマスターで、しっかりとその手に手袋を着用していた。
「こんなに長引くとは思ってなかったので…マスターの優柔不断さを、少し甘くみてました」
「う…。いや、どれも美味しそうだったからさ」
リンとレンを家で待たせているため、マスター自身もさっさと決めるつもりではあった。
しかしいざ店に入れば彩りのある沢山のケーキに目移りしてしまい、選ぶのに予定以上の時間を費やしてしまったのである。
「悩むだけ悩んで、結局ショートケーキですか」
「これなら、皆で食べられるでしょ?」
悩み抜いた末にマスターが選んだのは、ありきたりな答えであった。
だが全員の好みを考えれば、無難な判断ともいえる。
「皆で…ですか」
「どうかした?」
白い息を吐きながら、テトは小さく呟くように言った。
その様子に違和感を覚えたマスターは、テトに顔を向けて尋ねる。
「別に、どうもしないですよ」
「何で怒ってるのさ」
怒り―というより不機嫌そうな彼女に、マスターは疑問を投げ掛ける。
それに対してテトは歩みを止め、少しの間をおいて口を開いた。
「………マスター」
「…なに?」
「私、結構嫉妬深いんですよ」
僅かにこちらを見上げなが、そう言う彼女の言葉を反芻させる。
そうして何かを察したマスターは、自分の不謹慎さに後悔を覚えた。
「あー………ごめん」
「…もういいですよ。マスターは、優しい人ですから」
テトもまた同じように、自身の感情に嫌気を感じていた。
あの双子にさえ嫉妬してしまう己の独占欲に、呆れる程に。
「…手、貸して」
「?…どうぞ」
テトがそんな思考を巡らしていると、不意にマスターから声を掛けられる。
普段の彼女なら用件を聞く所だが、油断していた為に躊躇なく手を差し出した。
「はい、手袋」
「…片手だけですか、ブカブカですし」
差し出されたテトの手に、マスターが自分の手袋を着ける。
少しばかりマスターの手が大きいために、先の方までは指は届いていなかった。
「俺も寒いからね。だから…」
そう言ってマスターは手袋を外した方の手で、テトのもう片方の手を握った。
触れた指先から伝わる冷たさを感じながら、そのまま自らのポケットの中へと招き入れる。
「こうすれば、暖かいでしょ?」
「…マスターの手、大きいですね」
自分よりも大きな手に包まれ、そこから温もりがじんわりと広がっていく。
寒さから守られた空間の中でテトが指を絡めて握り返せば、それに応えるようにマスターも指に力を込めた。
「そうかな?平均的な大きさだと思うけど」
「………」
マスターが笑いかけるが、テトからの返事はなかった。
急に押し黙るテトに、マスターは疑問を色を見せる。
「…どうかした?」
「いえ、その…」
いつになく歯切れの悪いテトに、表情に浮かぶ疑問の色は濃くなる。
暫くしてテトは、口ごもらせながら静かに言った。
「…は、恥ずかしくて…死にそうです………」
「…そっか、それは重畳」
テトは頬を染めながら、視線をマスターから逸らす。そんなテトに、マスターは満足せうな笑みを浮かべた。
「マスター…私をからかってませんか?」
「別に、そういうつもりはないんだどね」
ムッとした顔でテトが睨むが、マスターは涼しげな顔それを受け流す。
たじろぎもせずに、マスターはテトを見つめ返しながら言った。
「普段じゃ見られない反応を、楽しむのも一興かな…と」
「………」
マスターはテトに微笑みながら、そう言葉を続けた。
頬の赤みは更に増して、テトはまた口を閉ざしてしまう。
「………怒った?」
「…い、家に………」
探るように尋ねるマスターの言葉には答えず、テトが小さく口を開く。
視線は未だに逸らしたままで、僅かに俯きながら言葉を続ける。
「家に着くまで…ですからね」
「…かしこまりました♪」
耳まで赤くなったテトを見て、マスターは先程よりも満足そうな顔する。
そしてマスターがテトの手を引くように、歩みを再開させた。
(君のその表情が、なによりのプレゼントです)
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