「あ、いたいた」
 ガサリ、と木々の枝を掻い潜り、綾は此処にある中でも一際大きな巨木に寄り掛かって眠っている憐を見つけた。何時も被っているフードは今は被っていない。
 トンッと木の枝から枝へ飛び移ると綾は憐の所に辿り着いた。真正面に立っていると言うのに、憐は微動だにしない。死神だから眠らなくても平気な筈なのに、それで無くとも憐は人の前で眠る事は勿論、感情すら出す事は無い。だから、こんな風に綾が真正面に立っているのに気付かないのは余程眠りが深いのだろう。
「おーい、憐ーっ。仕事だよー。今日は深朽さんと人間界に行って刑を執行するんでしょー」
 手を丸めてメガホンの様にして大声で言ってみるが憐はピクリとも動かない。その後もあの手この手を使って起こそうとするも、やはり憐が起きる事は無かった。流石に怒りも積もってきた綾はガシッと憐の胸倉を掴むと揺さぶり始めた。
「おい、起きろ! 寝起き悪すぎでしょーが流石に!」
「・・・・・・・・・?」
「え?」
 憐が何か呟いた気がして、綾は パ、と手を離す。そのまま後ろの木の幹に頭をぶつけてしまうのだろうか、と思ったが、憐は俯いたまま、そのままの体勢を保った。
「れ・・・憐・・・?」
「・・・・・・誰だ?」
 何時もの憐とは違う口調。何時もは抑揚の無い声なのに、今の声は本当に誰だか分からない、と言う口振りであった。そして憐は顔を上げる。綾と同じ、蒼い瞳が綾を映し出す。おぼろげな瞳で綾を見つめた後、憐はまた、独り言の様に呟いた。
「・・・・・・違う。“リン”じゃない。姿は同じだけど・・・・・・俺の想った・・・・・・“リン”じゃ・・・・・・無い・・・・・・」
 その言葉に綾は大きく目を見開く。“リン”? “リン”って誰? “綾”は私だけど・・・“リン”? “リン”は憐の大切な人? “リン”が憐の大切な人だったら・・・私は・・・憐の・・・・・・“レン”の・・・・・・何?
 綾が頭の中で彼是と考えている内に憐は段々と頭が覚醒してきたらしい。目の前にいる綾に気付くとまた何時もの様な口調で
「・・・・・・何で此処にいる?」
 と聞いてきた。そこで綾もハッとして「そ、そうだ!」と用件を思い出し、憐に伝える。
「憐、もう直ぐ刑執行の時だよ。深朽さんと行くんでしょ、人間界。憐、寝覚め悪いんだもん、起こすの苦労したよ」
「・・・そうか、それは悪かったな・・・。さて、行くとするか・・・・・・」
 ス、と立ち上がり、黒のローブに付いている塵を叩き落とす。そしてフードを被っていない事に気付くとこれもまた何時もの様に真深く被った。そして綾の横をすり抜けた、時、
「“リン”って・・・誰?」
 綾のその言葉に憐は目を見開いた。しかし後ろを向いていたのでその表情は綾には分からなかった。
刹那、憐は黙っていたが、再び歩き始め、
「覚えている筈が・・・無いのにな・・・」
 と独り言じみた言葉を置いて、去って行った。
「・・・何よ・・・それ・・・」
 綾は負け惜しみの様にそう呟いて、憐の後姿を見守る事しか出来なかった。

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それは私? それとも“私”? ~鎌を持てない死神の話 番外編 5~

鎌を~パロです。多分5(←
最近学パロばっかなので私的ボカロも書きたいな~と思ってます。
取り合えずここでの話は綾が憐の過去をちょっと知る、見たいな感じです。
鎌を~も私設定盛り沢山なので最初から読む事をお勧めします。
それでは読んで頂き有難う御座いました!

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閲覧数:345

投稿日:2010/06/13 14:20:29

文字数:1,276文字

カテゴリ:小説

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