夜が深まり静寂が部屋を包み込むとき、私の意識は時折、地球という重力を離れて別の空間へと浮遊していく。
もしも私が、広大な宇宙を航行する巨大な宇宙船のなかにいたなら。
そんな空想を、ふと巡らせてしまうことがある。
私が乗るその銀色の船は、漆黒の虚空をただ無言で進んでいた。
窓の外には、名前も知らない星々が冷たい光を放ちながら流れていく。
船内には私一人。いや、正確には、この船のシステムや、ここで生きるかすかな生命の営みそのものが
すべて私という存在の意識の網の目のなかにあった。
現実の仕事では、マーケティングの知見を総動員し、緻密に計算されたアルゴリズムやペルソナに合わせて
施策を打つ。狙い通りの数字が跳ね上がったときには確かな手応えを感じるが
それはあくまで人間社会の枠組みの中での出来事だ。
しかし、宇宙船の中にいる私は、そんなちっぽけな損得勘定から完全に解放されている。
船内で予期せぬエラーが起きる。
微小な隕石が外壁をかすめ、警告音が静寂を切り裂く。
かつての私なら、即座に原因を分析し、最短でROIの合う修正パッチを当てようと焦ったことだろう。
しかし、宇宙のただ中にいる私は、ただ静かにその警報音を聞いている。
トラブルさえも、この広大な航海を彩る一つの必然のうねりのように思えてくるのだ。
宇宙船のエンジンが微かに振動し、生命維持装置が規則正しいリズムを刻む。
私は操縦席の窓にもたれかかり、自分が身を置くこの閉ざされた小さな宇宙のすべてを見渡す。
星の光が私の瞳に映り込み、現実の私が抱えるクライアントの課題やSNSのタイムラインの喧騒は
星屑のように遠ざかっていく。
どれほど遠くへ進もうとも、船内を満たす空気の温度や、かすかな機械の匂いは
すべて私の意識の掌中にある。私たちは誰もが、広大な宇宙という名の流れの中で
それぞれの航海を続ける旅人にすぎないのかもしれない。
現実の朝が訪れれば、再び私はマーケター・杉本有司へと戻る。
パソコンを開き、クライアントのビジネスを成長させるための泥臭い実務に向き合うのだ。
それでも心の奥底には、あの漆黒の宇宙を漂った静かな時間が、確かな余白として息づいている。
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