!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
その名前は、俺たちを落ち着かせてくれる人の名前だったはずだ。俺はそれだけは間違いないと・・・そう思っていた。
俺の困惑を感じ取ったらしい隆司さんは――いや、最初から理解できないだろうと思っていたのか――男を鋭い視線で射抜きながら、説明してくれる。
「正しく言えば、『竜一』ってのが戸籍上のあの人の名前だ。
だが、今のあの人は竜の二頭目・・・『竜二』」
戸籍上、というのはどういうことだろうか。偽名を名乗っているという風な意味ではないように聞こえたが、竜の二頭目という言葉の意味もわからない。まさか本当に竜であるわけではないだろうし、一頭目を『竜一』と置き換えるということなら、確かに二頭目は『竜二』でもおかしくはない・・・が、どういうことなのか。
「一体どういう・・・?」
「悪いが、説明してる暇はない。二重人格と似たようなもんだ」
簡潔に言った隆司さんは、俺とマスターを護るように立つ。
つまり、あの男の本名は『竜一』。しかしその体の中には主人格とは別にもう一つの人格があるということで・・・そのもう一つの人格というのが、今目の前にいる男・・・『竜二』という名の人格だということだろうか。
男の低い笑い声が耳に障る。隆司さんの体があってその姿は見えないが、男は未だにあのいけ好かない笑みを浮かべているのだろう。
「何をするつもりだ」
そう問われてようやく、男は低い笑い声を止めた。その口の両端がゆっくりと吊り上げられ、笑みが浮かぶ――その様が、見ていないというのに容易に想像できた。
ゆったりとした足音が少しばかり遠ざかる。こっちに背を向けて歩いているのだろうか。じゃり、と隆司さんが足の位置を少し動かす音がした。
「そう警戒するな。お前の言う通りにしてやろうと・・・竜一に代わろうと思ってるだけだ」
変わらない低い声がそう告げるが、隆司さんの緊張は一切緩まない。俺が口を挟めないのも、その緊張と威圧感が伝わってくるからだ。
男の足音だけが不穏に響く。
「なぁ・・・今あの人が何をしてもマスターには見えないし声も聞こえないはずだ。
そんなに警戒しなくても・・・」
「――だと、いいがな」
小さく呟いた声は、隆司さんの掠れた声に押し潰されて消える。
俺が言ったことは間違っていないはずだ。あの男が何を言ったところで、眠っているマスターには聞こえない。距離があるのだから尚のこと。そうだというのに、何故隆司さんは気を緩めないのだろうか。まるで、これからが最も危険だと思っているような・・・。
「律」
響く低い声。それは、距離をものともしない響き方をした。だからと言って怖がる必要などどこにもないはずなのだ。いくら響いたところで、その声が眠っているマスターの耳に届くわけがない――そう、本来ならばそのはずだった。
ふと腕が軽くなったのは、俺の中に『やはりマスターには聞こえていなかった』という安堵が芽生え始めていた時だった。
隆司さんの背中に向けていた視界が、突然起き上がったその人の後頭部で隠される。がくがくと震えながらも、マスターは立ち上がっていた。
後ろを確認し、立ち上がったマスターを目にした隆司さんは、小さく舌打ちをする。
「――人間ってのは実に脆いな。
恐怖の種を埋め込み、ゆっくり更なる恐怖を餌にして育てていけば・・・
操ることもこんなに容易い」
「なぁ、律」と声が聞こえたかと思うと、響いていた足音が止まる。こっちを振り返っているのだろうか。
ぶるりと震え上がったマスターが、縋り付くように手を伸ばしたのは、隆司さんの方。マスターは隆司さんの背中に身を隠すように服を握り締めて、それでも男の方を見つめていた。あの人にはきっと、俺なんて映っていないんだろう。
「りゅ・・・じ、さん・・・」
「やっと名前呼んだな、律。でも、さよならだ」
ふ、と隆司さんの足の位置が変わる。その瞬間何が起こったのか・・・男が膝から崩折れるのが見えた。それは本当に突如として、だった。何の予兆があったわけでもなく、突然操り人形が糸を切られたかのように倒れていく。
一体どちらが早かっただろうか。隆司さんが走り出すのが先だったのか、それともマスターが走り出すのが早かったのか。どちらにしても、二人はほぼ同時に男に駆け寄ってその体を起こした。
今まで敵であったその男に対してあったはずの憎悪など、今は見えない。困惑気味に俺もできる限り傍まで駆け寄ったその時、ちょうど男の目が開いて思わず身をかたくした。何をされるか想像もつかない上に、今はマスターが男に近い位置にいるのだ。
・・・だが、心配は不要だった。
「り、つ・・・隆司くん・・・それから君も、すまない・・・」
「え・・・?」
ゆっくりと開かれた口から零れる、同じ声。だが、その声から受ける印象は穏やかで筐体に自然と吸い込まれる心地良いものだった。向けられる視線も、優しい。これではまるで・・・まるで、別人じゃないか。
男は眩暈がするのか、額に手をやりながらゆっくりと立ち上がる。隆司さんはその体を支えるようにしていて、心配そうな表情だ。隆司さんだけじゃない・・・マスターも心配そうな表情で男の方を見ている。若干まだ震えているようだが、さっきよりは遥かに普通の状態に近い。
「大丈夫ですか? 竜一さん」
「ああ・・・すまなかった。律も君も成長したね」
男は隆司さんの頭を撫でて、マスターの頭にも手を伸ばした。その体が一瞬怯えたように跳ねたが、撫でられ始めるとその震えは徐々におさまる。
ああ、この人か、と合点がいった。隆司さんがマスターの好きな人だと言ったのは、きっとこの人のことだと。
筐体が疼くような音がするからだろうか、俺の口からは何も言葉が出てこない。
ふと、男がこっちを向いて小さく会釈する。謝罪か、それとも感謝だろうか。会釈をして返すと、彼はマスターの肩に手を置いた。
「苦しめて悪かった・・・もう自由に生きなさい。足枷になりたいわけじゃないからね」
隆司くん、君も同じだよ、と男は優しく続ける。きっとこれで皆幸せになれるのだろうとそう思った・・・のに・・・何だろうか、どこか奇妙な違和感があるのは。これで終わりではないのか。底冷えするような感覚というのは、おそらくこれだろう。それが何を意味するものなのかわからず、余計に恐怖を煽る。
男がマスターの頭を再び撫でた。
「・・・隆司くん、それから君も・・・律のこと、これからも頼むよ」
優しいその声色は、決して不安感を助長するものではないというのに、違和感が消えない。言葉を返す代わりに頷いたその後で、彼はもう既に背を向けていた。隆司さんが返事を最後まで言う間も、返事を口にする暇すらもない。男は、誰も追いつけないようなスピードで走り始めていた。
あまりに展開がはやすぎて頭がどうかしてしまいそうだ。どういう状況なのかと混乱し始めたその時、視界いっぱいに何かが映った。
「きゃうっ!」
「っん!?」
頭の中の混乱をどうにかしようと努めている俺の方に、突然マスターが飛ばされてくる。律のこと頼む、と今叫んで走り出した隆司さんが突き飛ばしたのだろう。
「まっ・・・待って、司くんっ・・・!」
走り出そうとしたマスターの手首を無我夢中で掴めば、マスターの強い視線が俺を射抜く。まるで自分の敵でも見るかのようだ。さっきも同じようなことがあったな、と自嘲気味に笑いながらそうじゃないと首を振って応える。
「マスターが行くなら俺も一緒に行く。裸足じゃあきついだろ?」
「あ・・・」
足元を確認したマスターは、痛みを忘れていたらしく、今頃少し驚いた顔をしている。全く、マスターはどうも抜けているところがあるらしい。背を向けて肩膝を立てて座ると、マスターは少し渋った後で「お願いします」と控えめに呟いてそっと俺の背中に覆いかぶさった。
何故だろう、俺はこんな風になっても、もうこれで終わるのだと安心しきっていた気がする。隆司さんが行ってくれたからだろうか、それとも・・・マスターが俺に心を許してくれたような気がしたからなのだろうか。
どちらにしても、俺はまだ・・・何もわかっていなかった。全く、何も。
→ep.38
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