この時点で、俺の頭の中に様々な疑問が渦巻いていた。
だが、どうやらゆっくり考えるのは生きて帰った後のようだ。
《こちら雪峰所属、ロンチ隊。配置についた!!AWACS、指示を請う。》
《こちら水面基地所属警戒管制機ゴッドアイだ。これより各味方航空機に指示を出す。既に百マイルのC-42エリアに揚陸艦で構成された敵艦隊が雪峰艦隊に接近中だ。航空機部隊は多数。しかし先のサンドリヨンの攻撃で半分の航空戦力は削ぎ落とされた。恐らくこれで最後だ。対艦兵装のある機体は海上戦力、対空兵装のある機体は航空戦力を攻撃、殲滅せよ。》
《了解した。ソード隊、空を頼むよ。私たちは海を当たろう。》
《了解。貴機の幸運を祈る。》
《さぁて、初めての実戦だ・・・・・・。》
今、大軍と大軍がぶつかり合う大規模の空中戦が始まろうとしている・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
《捕捉した・・・・・・例の黒い機体の奴らだ。》
《あのアンドロイドがいないな。》
《アンドロイド部隊が敵空母で抑えているらしい。》
《これはチャンスだ。あの四機を集中して狙え。》
《艦隊におびき寄せて、弾幕を浴びせるんだ。》
《あの悪魔がいなくなればこの戦争は終わる! 俺達は英雄になれるんだ!!》
《レーダーの射程内に入った。》
◆◇◆◇◆◆
敵機の姿がレーダーに移った瞬間、既に戦いの火蓋は切って落とされていた。
《レーダーロッオン。ブレードリーダー、エンゲイジ。》
《シーカーオープン、ロックオン。》
《ダガー3、フォックス2! フォックス2!!》
《スプラッシュ1、スプラッシュ1!》
無線に味方の声が入り乱れる。
敵味方、およそ百機近くが入り混じったドッグファイトだ。
レーダー照射。ロックオン。ミサイル追尾を警告するアラームが鳴り止まない。
《ソード1! 後ろだ!!》
「分かってる。」
背後から迫り来るミサイル。操縦桿を巧みに操作し、チャフを発射し、回避する。
天と地が何度も何度も逆転した。そして、俺の視界に現れた敵を捕捉する。
「レーダー、ロック・・・・・・。」
ロックオンに気付いた敵機がうねるような回避機動を繰り返す。
だが無駄だ。俺に捕まったお前はもう逃げられない。
「フォックス2!」
ミサイルが敵機に吸い込まれるように追尾していく。
だが、撃墜を目視で確認している余裕はない。そんな情報は後で機体のコンピューターが直接脳内のナノマシンと、麻田が伝えてきた。
「ナイスキル! 隊長!!」
よって即座に次の行動に移る。敵は溢れるほどいる。
直ちに次の目標を捕捉、撃墜するか、今俺の機体を追尾している敵ミサイルを回避するかどちらかだ。
いや、選ぶ余裕もない。俺とこの機体はそれを両方やってのけた。
既に幾つかの巨大な火の玉が海面に墜落していくのを確認した。パラシュートは見当たらない。敵か? 味方か? そんなことはもはやどうでもいい。次だ。
襲い来るミサイルを回避し、敵機を捕捉する。距離は近い。
気付いて回避しようとする敵。ガンの照準の丸い円が敵を捉えて逃がさない。
「ソード1、フォックス3!」
トリガーを引きしぼると、二砲身のM61バルカン砲から毎分六千発というスピードで弾丸が発射され、敵機を引き裂いた。
◆◇◆◇◆◇
《おお、これが強化人間の力か・・・・・・!》
《すごい! これならこの先安泰だな。》
《できれば例のアンドロイドの戦闘も見たかったんだが。》
《呑気に言ってる場合か! まだ敵はいる!!》
《チクショー! こちらハンマ4、後ろを取られた!》
《ハンマー4、もう少しでフォローに入る。粘れ!》
《クソッ、エンジン被弾! もう持たない!! ベイルアウト(脱出)する!!》
◆◇◆◇◆◇
味方の無線を聞くところ、味方も多少の被害を被っている。
味方を苦しめているのは数の差だけではないと言うことだ。
《アハハッ!この人らよわーい!》
《スローすぎてあくびが出るぜ!!》
《ソード3、スプラッシュ3。》
だが俺の部下が予想以上に暴れているため敵は確実に数を減らしている。
サンドリヨンの援護射撃も凄まじい。
俺も次々と敵機を撃墜する。
もうあと三機だ。
《隊長、前だ!》
そして、最後の敵機が、気が狂ったのか俺の方へ真正面から突入してきた。
俺は慌てず、操縦桿をひねり、トリガーを引いた。
刹那の後、20mm徹甲弾によって抉られたように引き裂かれた敵機が火を吹きながら俺の真上を通過した。
コックピットが崩壊して原型を留めていなかった。勿論パイロットも。
《こちらダガー1。ゴッドアイへ。敵機はすべて撃墜した。レーダーにも反応なし。そちらのレーダーはどうだ。》
《こちらゴッドアイ。君達がいる空域はグリーンコンディションだ。だが揚陸艦からVTOLが上がってきている。すぐに撃墜せよ。》
《了解。座標は?》
《C-47だ。》
《なんだ、すぐ近くじゃねぇか。》
《味方航空機を援護せよ。》
《了解。》
高度をさらに下げ、一気に海面すれすれまで降下する。
そして兵装コントロールをチェックした。空母から発つ前に対艦装備を追加されたはずだ。
ASM-4四発・・・・・・これならいける。
即座に切り替え、ロックオンの準備を始める。
「こちらソード1。これより艦隊攻撃に移る。ASMの準備はいいか。」
《ああ。いつでも撃てる。》
好都合なことにこのミサイルはこの機体のレーダー、コンピューターと連動し、複数同時攻撃が可能だ。
敵艦がレーダー射程に入る。ターゲットコンテナが赤くなる。アラームが鳴り出す。今だ!
《ソード1フォックス3!》
機体外に搭載された巨大な四発の対艦ミサイルが解き放たれた。
即座に白い糸のような煙を発し海面数メートルという低高度で一直線にそれぞれの目標に向かっていく。
《ハンマー2、フォックス3!!》
《発射! 発射!!》
《イィィヤッホゥ~~~~~!!!》
味方も負けじとばかりミサイルを発射する。
それはまさにミサイルの弾幕だった。
そして、俺達が敵艦隊の上を通り過ぎるとき、すべての敵揚陸艦は火に包まれ、海の藻屑と消えていくところだった。
《春瀬君、いやソード隊か?援護感謝する!》
《残りの目標は、揚陸艦から発進した艦載機です。》
《こちらゴッドアイ。上空の味方航空部隊に告ぐ。そのエリアの敵航空勢力、海上勢力は全滅した。アンドロイド部隊も全滅。サンドリヨンが敵輸送潜水艦を撃破した。レーダーにも反応なし。一時帰投せよ。》
ゴッドアイが、敵の殲滅を告げた。
「こちらソード1。ゴッドアイ。一つ質問していいか。」
《なんだ。》
《今回の敵勢力は・・・・・・どこの国だ。》
周りに緊張が走ったのを感じた。ここで飛んでいる俺達だけではない。
この無線を受信している全ての味方がそのことを知りたがっているだろう。
《・・・・・・敵の無線傍受により国籍が判明した。敵は興国軍だ。》
《何・・・・・・だって・・・。》
《そんな馬鹿な。俺達と今まで戦っていたやつら、とても興国軍とは思えない。あんな機体、どうやって・・・・・・。》
《やっぱり、興国かよ・・・・・・。》
《・・・・・・詳細は後に伝える。水面基地所属部隊、一時帰投せよ。》
《了解。》
機体の状況チェックをしようとした俺は大変なことに気が付いた。
「こちらソード1ソード隊各機へ・・・・・・残燃料をチェックせよ。」
《了解・・・・・・。》
《燃料が無い。》
《ホントだ。》
そう。燃料が無い。水面基地に帰投する分さえない。
どうやら雪峰での給油が不十分だったことと垂直離陸を行ったせいだろう。
しかし無理に帰ろうとすれば途中で海水浴をしなければならなくなる。
「おいおい。海水浴なんてカンベンだぜ。おい、ゴッドアイ! 森上!! 何かいい案はないのか?!」
突然麻田が無線に向かって怒鳴る。
「善処されたし。それと、頼むから個人名を出さないでくれ。」
「もういい。お前じゃアテにならん。記録員の金子呼んで来い! あいつの方がアタマがいい!」
《繰り返す。頼むから個人名を出さないでくれ。》
麻田とゴッドアイの通信士とのやり取りを聞いていた味方が爆笑した。両者は本気なのだろうが、周囲から見ればまるでコントだ。
だが笑い事ではない。この機体を失ったら日本防衛空軍にとって計り知れない損失となる。
どうすれば・・・・・・。
《そんなのカンタンだよ。空母に泊めてもらえればいいじゃん。》
今度は朝美がさらりと図々しいことを発言した。
《ぼく、空母の中見てみたいなぁ♪》
《そりゃぁいい。名案だ。これで君達とゆっくり話ができるな!》
矢野大尉はかなり乗り気だった。
《そうとくれば、膳は急げだ。さあ、雪峰に帰投しよう。》
俺達はロンチ隊の横につき、雪峰へと向かっていった。
燃料のある他の味方は水面基地に帰投していった。
そういえば、ミクはどうなったのだうか。無事なのだろうか・・・・・・。
◆◇◆◇◆◇
敵はもう上がってこなかった。どうやら全部倒したらしい。
空母の上にはわたしとキクしかいない。他の人たちはもうどこかへ行ってしまった。
「キク・・・・・・キク。」
呼びながらゆっくりキクに近づく。キクは下を向いたまま何も言わない。
「キク、戦いはもう終わった。ありがとう。」
「・・・・・・・・」
「え?」
「ノ・・・・・ィ・・・」
突然キクが剣を振り上げた。
「イィギギアアァァァァァァ!!!」
「キク?!」
わたしは大きく後ろに飛び下がった。目の前を剣の先がすり抜けていく。敵の弾より速い。
「なにするんだ! わたしは敵じゃない!!」
「キライ・・・・・・キライキライ!!!」
「キク?!」
それでもキクはものすごい声で叫びながらわたしに斬りかかってくる。どうして? きらい? わたしが?
そうだ、タイトがわたしにキクがなにかあったら呼んでくれと言っていた。
「タイト! 聞こえるか!!」
「ミクか。どうした。」
「キクがわたしに襲い掛かってくる! どうしたら・・・・・・。」
「分かった。すぐ行く。」
そのとき、キクの剣がわたしのすぐ上にあった。
避けないと、でも、間に合わない!
「イィヤアアーーーーーーッ!!!」
「うぐっ!!!」
キクの二つの剣を刀で受け止めた。でもものすごい力だ。
これじゃ長く持たない。腕が、膝が・・・・・・。
「キク・・・・・どうして・・・・・・?」
「やめろーーーーッ!!」
キクの両手から剣がはじき落とされ、タイトがわたしとキクの間に飛び降りた。
「タイト!」
「大丈夫か。」
「ああ。でもキクが・・・・・・。」
タイトは黙ってキクに近づいた。そしてキクのバイザーとヘッドセットを優しく取り外した。
「キク。大丈夫だ。もうあの音はしない。俺がいるから。な?」
「タイ・・・・・・ト・・・・・・。」
タイトがキクの顔を撫でると、もうすっかりキクし落ち着いていた。
「あーあー。キクまたあれかぁ。」
「ミク、怪我はある?」
空からワラとヤミが降りてきた。
「ワラ、キクはどうしたんだ?」
「時々ああなるんだよ。何かの音を嫌ってるみたいだけど、タイトさんは知ってて話してくれないんだから・・・・・・。」
「・・・・・・。」
わたしの・・・・・・音?
《こちら雪峰コントロール。フライトデッキのアンドロイドへ。艦載機が着艦する。先ずは空母の中に入ってくれ。援護を感謝する。ゆっくり休んでくれ。》
「了解。」
「お邪魔しまーす。」
わたし達はエレベーターに歩いていった。
後ろを振り向くと、まぶしい夕日と、わたしのよく知っている飛行機の音が聞こえた。
なんだか、大変な一日だった・・・・・・・・・。
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