―――黄昏に追い立てられた、街中に跳ねる影がふたつ。
『黄昏パレヱド』
「ね、レン。あっちに大道芸人がいるって!」
「本当?」
「本当! ちょっと見てこようよ」
夕闇がひたひたと迫る黄昏時に、二人の子供が顔を近づけて話をしていた。双子なのだろうか、鏡のようによく似た顔立ちをしている。
二人は深緑色をしたお揃いのジャケットを着て、少年は黒の、少女は黄色のリボンをしていた。少女は銀色の刺繍が施された深緑のスカートをはいて、黒いエプロンをして、頭には白いリボンが揺れていた。対する少年は金色の刺繍が施されたズボンをはいているがエプロンはしておらず、髪は紐で一つに縛っただけだ。二人の髪は街を包む黄昏に似た金色で、空色の瞳は好奇心に輝いている。
「もう随分遅いけど…」
よく似た顔の二人の内、少年の方は眉をひそめた。だが、対する少女の方は明るい笑みを浮かべている。
「大丈夫だって! ちょっと見てくるだけだもん」
「うーん…じゃあ、ちょっとだけだよ、リン」
「やった! ほらほら、早く行こ!」
秋深い、冬の足音が聞こえ始めたこの時期の夜は冷え込む。微かに冷えた指先を、双子は手を繋ぐ事でぬくもりを分けあった。
リンは少々乱暴に片割れの手を引いて歩き出す。街の街灯がちらほらと燈りはじめた。
茜色と黄昏色、夜色がグラデーションを描く空は二人のお気に入りだ。迫ってくるようで吸い込まれるような空を見上げていた双子に、乾いた風が吹き付けた。
思わず目を瞑ったレンの耳に、小さく…本当に小さく笛の音が聞こえてきた。
「リン、今の聞いた?」
姉は不思議そうな顔で首を横に振る。彼女の耳は、乾いた風の音を拾っただけだった。
だが二人が正面を向いた時、今の疑問も吹き飛ぶほど驚いた。
双子が目を閉じた一瞬の間に、沢山の人が石畳に溢れていた。まるで何かのパレヱドのように、人々はどこかへ向かっている。
御伽噺の中に迷い込んだような錯覚を覚えながらも、双子は手を繋いだまま人々の列に並んだ。
「なんだか、ハーメルンの笛吹き男みたい」
リンの言葉にレンは「でも、大人もいるよ」と返した。
幻想的な明かりが燈る、不思議で愉快なパレヱド。
ひとたび心を奪われたなら、きっと戻れないのだろう―――
頭ではわかっていても、心を奪われずにはいられない。そう思えるほどに、それは美しい景色だった。
双子が掻き分けながら進む人々の間に、共通点と呼べる物はないに等しい。
富める者がいた、貧しい者がいた。
男がいて、女がいた。
大人がいたかと思うと、双子と同じくらいかそれより幼い子供がいる。
共通点を探すのなら、皆一様にここでない何処かを見つめるような目をしている事だ。その瞳に正気はなく、彼らは醒めない夢に溺れるように狂った人々の集まりだった。
―――何処からか聞こえてくる、不思議と懐かしい夜の調べ。
「あのっ、何処に向かっているんですか?」
引っ込み思案な所のあるレンは、異様な人々の雰囲気に呑まれた姉の代わりに勇気を出して側にいた男に話しかけた。男は他の者達と同じようにここでない何処かを見つめた瞳のまま「楽園に行ける扉さ」とだけ答えた。実は遥か前方にはその扉が見えているのだが、何分10代の双子の背丈ではその片鱗すら窺い知れない。レンはとりあえず「ありがとうございました」と言ってぺこりと頭を下げた。
「リン、楽園に行ける扉だって! 僕らの背丈じゃ見えないけど…」
「そうなの?」
二人は互いの体温を確かめ合うように、もう一度手を繋ぎなおす。
だが、この時二人が抱いた感情は正反対だった。
リンは、楽園なんて本当にあるのかと疑った。
レンは、楽園があるのなら行きたいと願った。
いつの間にか現れた霧が、ぼんやりと世界をぼかす。リンは何かがおかしいと思い始めていた。
いつもは冷静で、もう少し愛想よくしたら?とまで言われる弟が無邪気に瞳を輝かせて楽園を願っている事を。
疑問を感じた途端、霧が密度を増した事を。
同時に、音楽が音量を増した事を。
ここにいる のは 本当に、私の弟?
ナニカガオカシイ…?
リンの脳裏が真っ赤に染まる。違う、真っ赤なのは過去の視界だ。
そして、真っ赤なのはレンだ。
「どうしたのリン! 頭でも痛いの?」
弟の顔をした「ナニカ」が、リンの顔を覗き込む。
レンと全く同じ顔、同じ仕草、でも根本的なものが違う。
「…気づいちゃった、か」
リンのただならぬ様子を見たレンは、ひどく寂しそうな表情で繋いでいた手を離した。
「絡繰に気が付いたら、もうここには居られない」
だから、君は帰らなくちゃいけない。
彼の言葉にリンは俯いて、「また会える?」と聞いた。その返答は、無言の否定。
「楽しい夢が見られて、楽しかった…ありがとう」
絡繰に気づいた者を、このパレヱドは排除する。
霧ごと集団そのものが遠のいていく中、リンは彼らに背を向けた。
彼らの先に一瞬だけ、大きな扉を見た気がした。
気が付くと、リンは黄昏時の街の中にいた。先ほどまで手を繋いでいた片割れの姿はない。
そもそも、レンはもうこの世の人ではないからだ。
レンがリンの目の前で事故死してから1ヶ月。片割れの死を否定し続けてきたリンは今、酷くすんなりとその死を受け入れられていた。
僅かに冷えた指先に触れて、ぬくもりを分けあう相手はもういない。
だから、リンは代わりに指先を擦り合わせて家路へと急いだ。
近いうちにレンの墓参りをしようかな、と考えながら。
「失ったものは戻らない」
当たり前の事を忘れていた自分に苦笑しつつ、傍らの影に気づかないまま。
少女とは交わらない平行線を描いて、現実を否定した人々が楽園を目指すパレヱドは進む。
―――黄昏に追い立てられた、街中を走る影はひとつ。
【鉄分P】黄昏パレヱド【勝手小説】
思いついたら書きかけを放り出しても書く、それが零奈クオリティー。
最近現実逃避する人の小説が多い気がする。
そしてサンホラちっくだと書き上げてから気づいたw
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