ぼくには大好きな人がいました。彼女はそれはそれはきれいで、大人で、ぼくはいつまでも子供のままでした。昔、家族でケーキを食べたときのことです。ぼくは一番に飛びついて、ショートケーキを選びました。ここの店のショートケーキはスポンジの間にバナナも入っていておいしいのです。ああ、おいしい。隣でリンがいちごずるいと騒いでたけどそんなことお構いなしにいちごを頬張ります。ガチャリ。玄関が開く音が聞こえて、リンはめーちゃんめーちゃん聞いてよレンがね、と走り出すのです。やめてくれ。ぼくの評価を下げないで。めーちゃんめーちゃんぼくそんなんじゃないからねめーちゃんにはいちご分けてあげるからね。わいのわいのと騒ぐぼくたちを余所に、めーちゃんはひどく疲れた様子でため息をつきました。どうしたんだろう。子供なぼくにはめーちゃんの悩みなど分かりっこないのは確かでした。なんだか悲しそうな笑顔とは呼べない笑顔を浮かべためーちゃんは、仲良くね、とぼくたちに言いました。リビングに立ち寄ることもなく部屋へ向かっためーちゃんは何分も何十分も出てきません。ぼくとリンは、さっきのことなどまるで忘れてゲームをしていました。とんとんとん。階段を下りる足音で、悲しそうなめーちゃんの顔を思い出しました。かちゃりとティーカップを揺らしながらリビングへ来ためーちゃんの大きな目は少し赤くて、マスカラを付けたまつげが束になっていました。めーちゃんは何を言うでもなくソファに座ってケーキを食べました。めーちゃん何食べてんの?と聞いたのに、あの頃のぼくはあまりにものを知らなかったので、カタカナの名前を覚えられませんでした。

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bittersweet

だらだらと続きます。

お付き合いいただけたら幸いです。

閲覧数:347

投稿日:2009/02/21 00:08:37

文字数:688文字

カテゴリ:小説

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