今日は4月10日。今年高校に入学した俺達姉弟は、やっと教室への道のりを覚えた。


「ねぇ、レン。レンはさ、部活とかどうするの?」
学校への道のりを歩く中、俺の姉である鏡音リンが聞いてきた。

「まだ考えてない。リンは?」

「私もまだ考えてないかなー。ただ、中学と一緒でいいかなって。」
リンの中学の頃の部活と言うと…、美術部か?

「ふーん、そうなんだ?」
こいつ、何気に絵上手いんだよな。羨ましい。

「うん、かも。あるかな?」
いまいち不安そうだ。俺は…、どうしようかな、ホント。

「でも、今日部活紹介があるからいっか!」
ぽん、と左手の上に右手で作った拳で軽く叩いて、リンは閃いたという仕草をする。

「そうだな。」
自己完結したらしい。俺はため息一つつき、肩を竦めた。


学校に着くまでの間、リンは話題が尽きないとばかりに、次から次へと話題を投入してきた。お陰で、徒歩20分の道のりはあっと言う間だった。



「じゃあレン、またね!」
一年二組のプレートが掲げられた教室の扉を開け、リンは俺に手を振る。

姉弟とは、得てして同じクラスにはならないものである。今までも(小学、中学って全学年!)そうだった。

オレはそれから歩き、一年五組のプレートの前で立ち止まった。

「おー、レン。おはよう。」
教室に入り、自分の机に鞄を置くと、タイミング良く声を掛けられた。

「ん?藤岡か。おはよ。」
声を掛けてきた方に振り向くと、俺はその人物を確認し、同じように返事をする。

「なぁ、お前部活どうする?俺は美術部にでもしよっかなーって思うんだけどさ。」
開口一番これである。またこれか…。


藤岡は、俺達双子と小学校からの腐れ縁である。だから、俺たちは友達作りに励むこの時期に、もうすでに打ち解けていたりするのだ。

「俺はまだ考えてない。っつーかさ、お前まで美術部かよ。」
今朝の話題を思い出し、俺はげんなりした声を出す。

「は?っつー事は、鏡音もか。」

「そういう事だな。でもなんで美術なんだ?」
確かにこいつは絵は上手いが…、そんな積極的に部活やる程だったか?

「ん?美人いるって噂を聞いたからな!」
胸を張って答える。こいつに真面目に聞いた俺が馬鹿だった…。

「お前、馬鹿だろ。」
呆れた俺は、思わず半眼でコイツを睨む。

「は?何言ってんだ、レン。あんな美人はそうそう居ないぞ!」
お前人生の半分を損してんな!
そんな事、胸張ってまでコイツに言われたくない。

「あー、はいはい。」
聞く耳持たずとばかりに、俺は藤岡の言葉を流す。

「お前…!
憧れの君も居るんだぞ!!」
藤岡はのたまう。

別に、その言葉が引き金になったとは言わない。ただ、きっかけではあったと思う。俺、鏡音レンの美術部入部への。




「リンちゃん、レン君、久し振りだね。」
改めてよろしくね、とその女性は微笑んだ。

あの後、俺と藤岡は部活紹介で各部の力の篭った演説を聞いた。そこには、藤岡の話通りの美人が居た。

その美人の後ろにいた…、緑の髪をツインテールに結んだ女性が、藤岡の言う憧れの君だ。

何故俺が彼女の事を知っているのか。話は簡単である。

彼女は、俺たち姉妹と幼馴染なのだ。

藤岡が憧れの君と呼んでいるのは、ただ単に面白がっているだけのことである。


「……って事で、カイト先輩とメイコ先輩って呼んであげてね。
親しく呼んであげると、二人共喜んでくれるからね。」
いつの間にか紹介が始まっていた。

慌てて聞き耳を澄ます。どうやら、呼び名と言うか、愛称の紹介をしているらしい。

「最後に。遅くなったけど、私の名前は初音ミクです。よろしくね。」
優しい笑顔を浮かべ、彼女、ミク先輩は言った。




「結局、レンも美術部にしたんだ。」
これじゃ、中学のときとなんら変わんないね!
おかしそうにけらけらと笑い、リンが言ってくる。うるさい。余計なお世話だ。

「ふん、悪いかよ。」
たくさんある机の隅を選び、俺たち姉妹はお互いをつつきあっていた。

「悪くないけど…、レン、ホントミク先輩好きだよねぇ~。藤岡と憧れの君とか言ってたけど、よく飽きないよね。」
それを言われると耳が痛い。けど、俺はめげない。

「二人ともそんな隅っこで何してるの?」
藤岡君は早速絵を描いてるけど。
と、俺たちが隅っこでをお互いをつつくような真似をしていたとき、先輩に声を掛けられた。

「あ、ごめんなさい。どこに座ろうって、レンと相談してたの。」
冷や汗をだらだらとかきながら、リンは先輩の質問に答える。

「そうなんだ。せっかくだし、絵を書きながら雑談でもしようよ。」
それに、無理に敬語なんて使わなくて良いよ。
人の良さそうな、少し抜けている笑みで、先輩は俺たちに提案した。



「たっだいま~。新入生は釣れたかしら~?」
がらりと美術室の扉を開け、女性の先輩が入ってくる。その人に続いて、男性の先輩も入ってきた。

「ただいま。よろしくね、一年生達。」
きっと、先輩が先ほど説明した人たちだろう、先輩達はそう言うと、さっさと自己紹介を終えた。そして、準備室のほうへ一回行くと、なにやら油絵を取り出し、俺たちの近くで筆を取った。


「メイコ先輩、それ、椿ですか?」
ずいぶん、花びらが赤いですけど…。
女性の先輩、メイコ先輩の見て居る写真を覗き込み、先輩がつぶやく。真紅に近い赤というのも、珍しい気がする。

「そうなの。家の近くで見つけたのよ。」

「あれは綺麗だったよ。」
メイコ先輩の言葉を補うように、カイト先輩が感想を述べる。確かにここから見ても、椿の花がいかに綺麗なのかよくわかる。

「へー、見てみたかったなぁ。」
残念そうに先輩は呟く。俺も…、見てみたかったかも。



「失礼するぞ。おい、蒼井。」
いきなり美術室の扉が開き、誰かが入ってくる。

「あれ、神威?」
どうしたんだよ。
カイト先輩が入ってきた人物に振りかえる。そうか、この人蒼井って苗字なのか。

「お前、生徒会のこと忘れてるだろ。だから迎えに来てやったんだ。」
ふん、と胸を張る。何なんだ?

「あ、二人は知らないよね。今の生徒会長、神威岳保先輩。」
あれでカリスマあるんだよー?
そう、先輩がおかしそうに笑う。そんなに変わってるのかな?

「す、素敵…。」
俺の横から、なんだか変な声が聞こえてきたぞ?も、もちろん空耳だよな、空耳だって信じさせてくれ!

「リンちゃん、もしかして、がくぽ先輩好きになっちゃった?」
先輩は、恋愛沙汰に興味があるのだろう。にわかには信じられないが、リンが目をきらきらさせてあの紫ポニーテールを見つめている。先輩はそんなリンの姿を見て、興味津々そうに話しかけていた。

「うん。あの人、かっこいい…!!」
いまだ夢から戻る気配のないリンはほっといて、俺は他の人の様子を見てみる。(主にあの紫ポニーテール!)もう、付き合ってられん。

「む?いくらか新入部員が入ったのか。よかったではないか。」
俺たちや藤岡を見て、神威先輩とやらは言う。その視線がこっち、主にリンに向いたとき、一瞬止まったのは、気のせいだと信じたい。

「おお、そこの女子(おなご)よ。」
何を思ったか、この紫ポニーテールはこっちに来て、リンの前に立ち止まった。(おいおい、冗談だろ?あのじゃじゃ馬女に、何言う気だよ!?) (レン?)(な、何でもないよ…。) (ああ、疲れる。) (ふん。)

「はい、何でしょうか?」
自分の目の前に止まったリンの憧れの人(俺命名)に、目をこれでもかときらきらさせ、リンは尋ねる。

「私の名前は神威岳保。そなたの名前を教えてほしい。」
仰々しく名乗る紫ポニーテール。何時代だっつの!

「はい、私の名前は鏡音リンです。鏡に音と書いて鏡音。リンは片仮名です。」
恋する乙女というのはこういうのだろうか。恋は盲目というが、これはないんじゃないか?

「そうか。リン、私はたった今、そなたに一目惚れをしてしまったらしい。私は、そなたが好きだ。」
そういうと、どこかの貴族を気取っているのだろうか、リンの前に片膝をつく。そして、リンの手を取って、なんと、なんと、その手に口付けをしたのだ!ありえん!

「せ、先輩…。」
さすがに理性が残っていたのか、リンは血迷って様呼びなどはしなかった。よかった…。


「あの、これ、どういうことですか?」
こそこそと移動し、この紫ポニーテールのことを知っていそうな、カイト先輩とメイコ先輩に聞いてみた。

「がくぽね、話し方が変わってるのよ。突っ込まないであげて。」
いや、俺が知りたいのは、普段からあんなことをするような人間なのかであって、話し方はもうどうでもいいです。

「いや、あんながくぽ見るの初めてよ。
むしろ、がくぽって見た目整ってるでしょ?だから、告白する女子が絶えないのよ。専ら斬る専門ね。」
あんなやつだったのね、がくぽって。
そう、メイコ先輩は仰る。へ、へー…。確かに、あの顔はもてそう…?

「レン君、リンちゃん取られちゃうかも知れないけど、いいの?」
いつの間にかいたのか、先輩がやってきて言った。俺にはあなたがいるからいいです。リンは二の次三の次。

「そうなんだ。行っちゃうよ?」
先輩の指すほうを見ると、リンはあの紫と一緒に出て行くところだった。っておい!

「リン!」
俺は叫んだ。

「何?」
リンは振りかえる。

「今日の夕飯は?担当お前だろ。」
我が家の夕飯は当番制なのだ。今日はリンの番。

「レン任せた!」
親指を立てられても…。まあ、リンはなんだかうれしそうだからいっか。

「レン君、リンちゃん追わないの?」
後ろから、ミク先輩の声が聞こえる。

「大丈夫じゃないっすか?あいつ、あれでもちゃんと自分の意思持ってるやつですから。」
まあ、生まれる前から一緒だった俺が言うのだ。間違いなんてない。筈。



その日、リンは6時ごろには帰ってきた。

結局、あの後どこへ行ったかと聞くと、生徒会室だったらしい。(君のことをもっと知りたいから生徒会に入らないかと誘われたそうだ。)(どんな理由だよ!!)

そして、リンは1年書記として入ることを約束したらしい。俺は1年会計だそうだ。(何で俺まで入ってんだよ!)( ありえねーだろ普通!)(だって、私だけじゃ寂しかったんだもん。)(ミク先輩は副会長なんだって。)(な、なに!?そんな素振り少しもなかったぞ!) (でも、副会長って言ってたもん!)(あ、そ。)(だ、だからって承諾したわけじゃないからな!)(ふーん、どうだか。)


ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機奏学園 -春、それは出会いの季節-

学園ものです。

シリーズです。

ちょっぴり恋愛風味。

閲覧数:344

投稿日:2009/04/16 21:04:57

文字数:4,389文字

カテゴリ:小説

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  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

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    フォルトゥーナです。
    この話、面白いですね!つっこみ所が満載で……(笑)。
    がくぽの『岳保』って……。思わず吹きました。><

    続き、楽しみにしてます!

    2009/04/16 21:57:30

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