低く機械音を響かせながら、鉄の箱、エレベーターが下降する感触を俺は直に感じている。
 微かな振動が足元から頭の先まで伝わっていくのが分かる。
 だが、それ以外は何も感じない殺風景な鉄の箱だ。
 俺はいいまでに起こったこと、そして作戦目標の確認のために、少佐の下へ無線を入れた。
 「少佐。今技術研究連地下一階に向かう途中だ。例の男とは別れた。」
 『うむ。どうやら救出目標の科学者達はそこにいるようだ。くまなく捜索し発見しだい報告してくれ。それとデル、たった今クリプトンから陸軍へ新たな情報が入った。人質についてだ。』
 俺は少し期待したが、また新しい目標が増えるのだけは勘弁してもらいたい。
 「どんな?」
 『一つは、新たな救出目標の追加だ。そのフロアのどこかに囚われの身となっている技術開発研究所の局長、春日了司も救出してもらいたい。あと出来る限りの生存者の救出だ。』 
 何・・・・・・?!
 余りに唐突に無理難題を押しつられ俺は怒り心頭するところだった。
 「この期に及んでそこまで押し付けるつもりか?重要参考人だけで十分だろう。第一脱出経路まで俺に任せているが、そんな大人数をどうやってここから運び出せって言うんだ。」
 俺は怒りをこらえつつ反論したが、怒りそのものは隠せなかった。
 『デル、まぁ話を最後まで聞いてくれ。その研究者達だが、テロリスト同様レーダーに映るようだ。』
 少佐は俺の怒りを全く理解していないような口ぶりだ。
 「レーダーに映る・・・・・・と言うことは、体内にナノマシンが?」
 『そうだ。』
 レーダーと言うのは、基本的には人間は表示されない。
 俺が持っているレーダーの基本的理論では、人工衛星から発せられたレーダー用の特殊電波が建造物を透過する際、その特殊電波は障害物を通過するごとに僅かに減退していく。
 その減退した特殊電波の情報を人工衛星が読み取り、それの度合いによって特殊電波を照射された建造物内部の構造を計算し、簡易的映像化したものを俺の持っているレーダー警戒装置に視覚的情報を送信することによって建造物内部の情報が表示される。
 もっとも、リアルタイムで表示しているためその範囲こそ広くは無いが。
 しかし、このレーダー用特殊電波は軟質の物体や有機物に対しては減退せずに透過してしまい、そこに人や木があるという情報は全く表示されないのだ。
 そのためにこの技術は、屋外での任務を主にする陸軍では採用されず俺達のような特殊部隊のご用達となったわけだ。
 だが、一つだけ例外がある。
 体内に人工関節や人工骨、または心臓に取り付けられたピースメーカーがある場合、特殊電波はそれに反応する。
 俺の体内にもある、通信などに使われる極小精密機械、ナノマシンも一億分の一メートル程度の大きさしかないが、これは特別レーダーに反応するように作られているのでさらに明確に表示されるのだ。
 レーダーに映る、と言うことはやはり研究者達もナノマシンが体内にあるのだ。
 となれば、少しばかり人質を探す手間が省けたと言うことかもしれない。
 「少しばかり任務が楽になったようだな。」
 『そうだろう。こちらのレーダーでも既に確認済みだが、なにせ敵の数も多い。敵のいる方向へ案内するわけにもいかないからな。そこは少しがんばってくれ。』
 「了解。」
 『それと、もう一つ知らせたいことがある。』
 「今度は何だ?」
 俺は半ば嫌そうに答えた。
 頼むから、もう任務の追加だけは嫌だ。
 『君がさっき言っていた、敵の銃が動かないという話だが、これは敵の体内にあるナノマシンが関係しているらしい。どうやら敵の銃、20式小銃の内部に兵士個人のナノマシンと通信し、銃の作動を制御する装置があるらしい。』
 「・・・・・・だから、俺は引き金を引くことが出来なかったのか。」
 『詳しいことは今調査中だ。』
 あまり必要の無い情報だが、一つ疑問が解けたのだから、まぁよい知らせとも言えなくも無い。
 「まぁいい。実はさっき、あの男から武器を貰った。特殊9ミリ拳銃Ⅳ型だ。」
 『そうか・・・・・・ところで、彼はどこに向かった?』
 「通信連と呼ばれるところだ。この更に下の地下二階からそこへ続く通路があるようだが、キーカードが無ければ入ることは出来ないと言っていた。」
 『キーカードか。もしかしたら今後入手できるかも知れんな。もしかしたらそこに監禁されている可能性もある。今は彼に任せておくほか無いが、もしキーカードを入手してみたら足を運んでみるといい。』
 「ああ・・・・・・そういえばあの男、シックスと言うコードネームだが、一つ奇妙なことを言っていた。」
 俺はあの男の言っていたアンドロイドのことを思い出した。
 あの男が探していると言う、赤い髪のアンドロイドだ。
 『どうした?』
 「あ・・・・・・ちょっと待ってくれ。エレベーターが到着した。」 
 少佐が問いかけたそのとき、エレべーターのアラームが殺風景な室内に鳴り響き、目の前の扉が左右に開かれた。
 外に出ると、目の前で通路が左右に分かれており、小部屋のようになっていた。
 どこかの部屋へ続く通路の壁、頭上付近に、監視カメラが自ら視界を張り巡らしている。
 俺は誰もいないことを確認すると、通話を再会した。
 「あの男だが、テロリスト達がクリプトンの研究所から奪取し、この施設のどこかに隠されているというアンドロイドを探していると言っていた。」
 『アンドロイドか・・・・・・クリプトンの方では幾つかの重要な研究対象があるとだけ言って多くは語らなかったが、彼はその情報を掴んでいるようだな。でも、それのどこが奇妙なんだ?』
 少佐は何も知らず気楽そうに尋ねた。
 「何でも、赤い髪だとか・・・・・・。」
 『赤い髪だと・・・・・・。』
 その途端に、少佐は沈黙し始めた。
 深く何かを考えているようだが・・・・・・。
 『赤い髪だと?アンドロイドが?』
 信じられないと言った様子で、少佐が訪ねた。
 「ああ。」
 『普通のアンドロイドなら、髪が植えつけられているわけが無い。戦闘用なら・・・・・・いや・・・・・・まさか・・・・・・・。』
 明らかに思い当たる節があるように、少佐は口ごもらせた。
 『きっと、デルさんやぼくのように人間型のアンドロイドかも知れない。ううん、きっとそうに違いないよ。』
 突然ヤミが無線に割り込んだ。
 彼女は毎度毎度割り込んでくれるな。
 『ぼくもデルさんもアンドロイドだけど人間の姿をしていて、ちゃんと髪の毛もある。そうだよ・・・・・・きっと。』
 どこか口調が妙だ。
 先程までの冷淡な話し方じゃなく、どこか狼狽した、戸惑ったような感じだ。
 一体何を知っているんだ・・・・・・二人は。
 「・・・・・・とにかく、男はそれを捜していると言っていたし、俺にも探すように頼んできた。この施設のどこかにあるようだが。」 
 『ねぇ、デルさん。』
 「何だ?」
 『もしそのアンドロイドを見つけたら、どんな顔か、知らせてくれない?』
 ヤミはなぜか申しわけなさそうに言った。 
 さっきから二人とも、赤い髪と言い出してから何かおかしい。
 絶対に何かを知っている。 
 それでも一向に向こうか語ろうとしない。何故だ?
 「どんな顔って・・・・・・。」
 『何か、特徴があればいいよ。』
 「・・・・・・・いいだろう。」
 俺は渋々承諾した。 
 『それでは、デル。そのフロアを探索し、人質を救出してくれ。そこにいなければ地下二階へも行くように。いいな。それと、一応例の赤い髪のアンドロイドのことも留意しておいてくれ。』
 「・・・・・・了解した。」  
 無線を終えると、俺はボルトガンを抜き出し通路を見張る監視カメラに電撃を放ち、破壊した。
 今から、このフロアに捕らえられているかもしれない科学者二名と、局長、そして出来る限りの生存者を救出する・・・・・・。
 俺は通路に向かいながら、もう一度無線の内容を整理してみたが、やはり腑に落ちなかった。
 それは、目標が増えたことでも、何故敵の銃が撃てないことでもない。
 赤い髪のアンドロイド、それを口にした瞬間、二人の態度が一変したことだ。
 赤い髪のアンドロイドとは、一体何なのか。
 そして何より、二人は何を知っているのか?
 今の俺には、推測すら出来ない。
 考えても状況は変わらないと判断した俺は、そのまま通路へと突き進んで行った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第十九話「疑心」

ここら辺は・・・・・・なんて言ったらいいんでしょうか。
一ついえることは、再登場フラグってコトですね。
いろんな意味で大変なことになるかも。
それとあれです。話し進まネェ!


「レーダー」(デルが使用しているもの)【架空】
 クリプトンの新型衛星に着目した陸軍の技術開発研究部と共に、クリプトンが共同開発した最新鋭レーダー。kbv方式によって導かれた孤立波となる高出力波を用いている。
 人工衛星から高出力電波を地上の建造物に対し放出すると、高出力電波は渦ソリトンを発生させながら遮断物を透過するが、この際多少ながら電波は減衰。この減衰した電波の情報を衛星が受信し、減衰具合を計算することによって建造物等の内部構造を推測する。それを地上のレーダー端末に向けバースト送信することによって建造物内部の情報が視覚的に表示される仕組みになっている。
 内部構造の計算にはリアルタイム処理方式を用いており、移動する障害物に対しても常にその位置が分かるようになっている。必要であれば再計算と補正も可能である。
 なお、地上の有機物に対しては高出力電波は全く減衰せずに透過するため理論的に人間が表示されることはない。ただし、電子機器を装備していたり、体内にペースメーカーやナノマシンがある場合は例外である。
 

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投稿日:2009/06/21 23:25:15

文字数:3,506文字

カテゴリ:小説

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