湿る空気に耐え兼ねたのか、一滴の粒を筆頭にはらはらと雨が降り落ちてきた。途端、賑やかにコンクリートを叩く水の音が響き始める。それに一入気を滅入らせる女が一人、臭い袋の山に身を埋めていた。
女は、名をルカと言う。その瞼を重く伏せて、彼女は静かに泣いていた。声も無く、只管に彼女は涙を流し続ける。いっそ痛ましい程に透き通った雫は、頬や流れる髪に落ちていく。それを止める術も当然あるはずがなかった。
(歌いたい……マスター。 貴方は今、何処に)
彼女の想う、たった一人。その人物と彼女は、かつて二人で暮らしていた。とはいっても過ぎた年月に深さはまだ無い。精々一週間といったところだろうか。しかし、彼女にとっては果てしなく長い時であった。
彼女は所謂ボーカロイドという機械であり、マスターとはそれの所有者だ。しかし主従の重圧は殆ど無く、仲睦まじい彼女らはまさしく家族であったと言えよう。
だが今、ルカにマスターは居ない。率直に言えば捨てられたのだと、機械である彼女は知っていた。
「マ……スタ、ァ」
所詮、彼女は機械だったらしい。人間のそれよりずっと早く、彼女の寿命はやってくる。マスターであったはずの人間は、至極順当のことであると、あっさり彼女をゴミ捨て場へと葬った。せめてもの情だったのか一度だけその頭を優しく撫でて、それっきりルカは一人になったのだ。
確かに、二人の関係はとても微笑ましかった。機械であるということを微塵も感じさせぬ様な二人であった。
だからこそルカは気付かなかったのだ。人間と機械の差、その大きさに。彼女が密やかに抱いていたであろう恋情も、プログラムであった可能性は薄く無い。
しかし残酷だ。
激しさを増す雨は、彼女の体に浸食していく。彼女がもし人間であったならば、風邪や発熱で済むかも知れないこの雨は、着々と彼女の機能を停止させていく。
「……マ、スター……マスター……!」
機械が何故咽ぶのだろう。だがあるはずのない感情は、確かにルカに芽生えていた。だが最期の最中、ただマスターと呼ぶ彼女の心を、その人自身が知る事はない。
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