『澄み渡る 風の声 どこまでも遠く
果てしない世界へと 響く風の唄―……』
リンちゃんでブラバン小説!「風の唄」~Real Side~
あたしの目の前には、真っ青な空があった。夏が過ぎ去ったあとの青は、余分な熱をそぎ落とし、夏よりも高く広がっている。
遠く近くにさわさわと揺れる木立の緑も、葉先からぎらぎらとした生命感が消え、静かに終わる季節を待っている。
「……なんてね」
ふいに訪れた感傷を口の端で少し笑い、あたしは、ゆっくりと手にした楽器を構えた。トランペットである。
「よし、いくよ」
まっすぐに前を向いたベルに青い空と木々の景色が映る。あたしはその風景が好きだ。だから個人練習をする時はなるべく外に出ることにしている。体が外の風にさらされてわずかに高揚し、心が静かな緊張に満たされる貴重な空間だ。
おなかに力を入れて、息を吸う。自分の足が強く大地に着く感触。そして、教室とは違う、広がる空間に、音を丁寧に飛ばしていく。
「なーるーみーや!」
浸されていた静けさは突如として破られた。背後から無遠慮な呼びかけとともに、後頭部が何かでばしっと張られた。
「痛い! あっ……もう」
楽器をおろし、叩かれた頭を押さえてうらみがましく振り返ったあたしの目に飛び込んできたのは、憎たらしく笑う奴の姿だった。
瑞樹 蓮(レン)。もうすぐ十五歳にもなろうというのに、声変わりもしていない不憫な奴だ。何の因果か、あたしと同じ誕生日で、おまけに幼馴染で、さらに同じ吹奏楽部の部員である。楽譜も読めなかったくせに音楽の心臓部を担う打楽器パートに収まり続けること三年。あたしは呪われたとしか思えない。
「よくも邪魔してくれたわね」
そう言うと、奴は手にしたマレットで自分の肩を叩き、けらけらと笑った。
「お前のラッパ、相変わらず鳴らねぇな! 」
笑顔で放たれたその一言があたしの胸に突き刺さる。
「名前、鳴宮のくせに」
「うるっさい!」
楽器を持たない手で拳を振るが、蓮の奴はそれをひょいと避けてしまう。
「あはは。三年もやってるくせに、『F4』もやっと、て、どういうことよ」
F4。ピアノの音でいうところの、『高いファ』のことである。五線譜のてっぺんにのっかるその音は、トランペットの持ち味である明るく輝かしい音域であるはずで、普通は一年も練習していれば楽に届く範囲であるのだが、三年前に先輩の音に憧れて入部した私の音域は、基本の一オクターブに上4音がやっとである。
「うるさい! 貴重な個人練習の時間を邪魔しないで! あんたも練習してきなさいよ!」
「凜ってさ、音より声の方がよっぽどデカイんじゃないの?」
「ぐっ……」
あたしはくるりと蓮に背を向け、再び楽器を構えなおした。気をとりなおして立てた譜面に向かう。
目の先には、先ほどと変わらない青空。木立の向こうのグラウンドには、放課後の部活の音が響いている。
ボールを追う声。走る音、響くホイッスル。そして、他の吹奏楽部の部員たちの、校舎から聞こえるかすかな音色。
蓮はどこかにいってしまったようだ。秋の風が、火照った感情を鎮めるようにあたしを撫でて行く。
高くもなく、低くもなく。沈みもしないが輝きもしない、あたしの中庸の音がグラウンドへ向かって飛んでいく。それは、三年間続けたあたしの日常だった。
でも、それも、もうすぐ終わる。あと数日で、文化祭がやってくるのだ。
中学最後の、演奏会が。
……続く!
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ご意見・ご感想
ハルマキ@春巻P
ご意見・ご感想
突然の小説化で慌ててしまった春巻Pです。
いや~…吹奏楽風の曲ですが、そこからまさか吹奏楽部の設定とは…。
しかも、リンのパートがトランペットということが
僕の考えと同じなんですね。(リンはトランペットが似合いますよね。)
それを踏まえた上で楽曲聴き直したら、いろんな想像が頭に浮かびます。
続き楽しみにしてます。
2011/12/10 21:10:49
wanita
>春巻Pさま
さっそくのメッセージをありがとうございます。
前回の海を越える唄に引き続き、かってに小説化でゴメンナサイ。
いつも春巻さんの曲は「わーっ!」とイメージが浮かんで、じつに面白く大変です☆
曲へのラブレターになればいいなと思いながら書きました。
ラストまで楽しんでいただけたら幸いです♪
追伸:リンのパートがトランペットという考えが同じでほっとしました!良かった!やっぱり似合いますよね!
2011/12/10 21:21:43