大きなお屋敷。
豪華な装飾。

私の幼馴染は、そんな家に住んでいた。
私は、その幼馴染に『身分違いの恋』をした。

もちろん、叶うはずがないから、その恋は諦めた。


そして今は・・・・・・なんの因果か、その幼馴染の家のメイドをしていた。





「おはよう・・・もう起きてたのか、ルカ」
私の幼馴染・・・今はご主人様のがくぽ様は、朝にとても弱い。
今日はがくぽ様にとって『早起き』に入るらしいが・・・正直８時３０分では早起きとは言いがたい。
しかし、怒鳴りつけようもんなら、即刻クビになってしまう。
だから、私はとびっきりの作り笑顔をがくぽ様に向けた。
「おはようございます、がくぽ様」


私の家は、ごく普通の一般家庭だった。
私ががくぽ様と出会ったのは、お屋敷の庭園だった。
当時、私はとてつもない方向オンチで、友達とかくれんぼをしてた時に、変な木の間を縫うように隠れる場所を探していた。
そしたら、とても広くて綺麗なところに立っていた。
どこを探しても友達はおろか、人っ子一人いなくて、私は大声で泣いてしまった。
その時に声をかけてくれたのががくぽ様だった。
それから、私は敢えて道に迷い、誰にも秘密でお屋敷の庭園に行ってがくぽ様に会っていた。

がくぽ様はもちろん、超お金持ちが通う学校に通っていたから、私は必死に勉強をして、中等部からがくぽ様の学校に編入した。
そんなときに事件が起こった。父と母が心中したのだ。
超お金持ちが通う学校は、学費もハンパない。それを払うために、両親は借金をしていた。
両親が死んだのは、私のせい。
だけど―――――私は、死ねなかった。
でも、借金を返す余裕なんぞ私にはない。
悩んでいたら、がくぽ様が声をかけてくれた。
「俺ん家で働かないか」って。
そのときは凄く喜んだ。
私に与えられた仕事が・・・



・・・がくぽ様の専属メイド、ってことを知らなかったから。



はぁ。
どうしてこの仕事を選んだのかしら、と今でも思う。
確かにここは給料いいし、待遇もいいし、住み込みで働けるし、何よりも、『かつて』好きだった人と毎日会えるのはとても嬉しい。
だけど、どうせそばにいるんなら《メイド》としてではなく《伴侶》としてが良かったなぁ・・・なんて思う。
今更そんなこと言っても遅いけど。
歯車は、私が狂わせた。
私が狂わせたせいで、いろいろな人に迷惑をかけてしまったから。
自分だけ、贅沢を言うなんて。

「明日は、みんなでピクニックに行く！」
ある日の夕食後、突然がくぽ様が言った。
この人の言う「ピクニック」は、私有地の山を一日かけて上ったりすること。しかもメイドも全員参加だからな・・・末恐ろしい。
あれ？でも・・・。
「がくぽ様、明日は皆さんお休みでは？」
明日は半年に一回のメイド達の休日。住み込みでしかも帰るところの無い私は別だが、他のメイド達には帰るべき家庭があり、その家族とゆっくりとしていけ、というのが目的の休日だ。
ところが、がくぽ様はとんでもないことを言ってのけた。
「だからだ。明日は休みじゃないものだけで行く！」
はい？
どういうことでしょうか・・・？
「と、いうことで、今日の仕事は終わり！皆、自分の家庭に帰ってよし！・・・あ、今回の休みは一週間とるからなー」
メイド達は、歓声を上げた。そして、急いで荷物をまとめ、足早に帰っていった。

リビングには、私とがくぽ様だけが残った。
「あのー、がくぽ様？」
「なんだ、ルカ？」
「本当にピクニックに行くのですか？２人だけで」
「もちろん！」
どうやらこの人は本当に２人だけで行く気のようだ。
「ところでルカ・・・料理、洗濯、掃除はできるか？」
「まぁ・・・一通りは」
「実は、メイドだけじゃなく、コックや家政婦も明日から一週間、休みにしてあるんだ」
「えぇ！？じゃあ、この一週間、このお屋敷には・・・」
「俺とルカだけになる」
「はああああああああああああああああああああああああああああ！？！？！？」
え、えと、なんで、２人！？
そりゃ、好きな人と一週間も２人きりなんて、とても幸せ。
「ほら、明日は早いから・・・寝なよ」
「そうさせていただきます・・・お先に失礼しますね」
「うん、いい夢を」
今、この瞬間が、夢みたいなもんですけれど。
お楽しみは、また明日、ということですね。