【二次創作】翻案・三日後に死ぬ僕から【短編小説】

投稿日:2011/07/01 02:08:35 | 文字数:4,370文字 | 閲覧数:117 | カテゴリ:小説 | 全2バージョン

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※この作品は人工モノクローム(八白・でっち)様の楽曲『三日後に死ぬ僕から』(http://piapro.jp/t/sz19)をもとにした二次創作です。

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※この作品は人工モノクローム(八白・でっち)様の楽曲『三日後に死ぬ僕から』をもとにした二次創作です。

原曲:『三日後に死ぬ僕から』
作詞:八白(人工モノクローム)
作曲:でっち(人工モノクローム)
編曲:でっち(人工モノクローム)
唄:初音ミク


『翻案・三日後に死ぬ僕から』日枝学


 夕焼けの中、大きなトランクを持った女が、一戸建ての家のインターホンのボタンを押す。
 六秒ぐらいして、インターホンから声が聞こえてきた。
「はい」
「お久しぶりです、友近明美です」
「ああ明美ちゃん、久しぶりだねえ。今出るからちょっと待っててね」
「はあい」
 明美はそう言って、しばらくの間待つ。亀井家の人々には三年ぶりに会うので、楽しみと緊張で、自然と頬がにやけてくる。
 鍵を開ける音が聞こえて、扉が開かれた。扉から出てきたのは中年の女性だ。
「明美ちゃん、お久しぶり。この三年間海外を放浪してたんだよね、どうだった?」
「いやあ美恵子さん、お久しぶりです。面白かったですよ。世界的な大都会から、電気もガスも水道も何も無い、原住民の方々が住んでる島まで幅広く、色んな所で色んな経験をしました」
「ふふふ、充実してたみたいね。きっと勇も喜んでいることでしょう」
 勇という言葉を聞いて、心が浮き足立つ。亀井勇、今目の前にいる女性の息子であり、私にとって大切な人である。三年ぶりに会う彼は、どうなっているのだろうか。明美は気になって、尋ねてみる。
「あ、そうだ。その勇はこの三年間どうしてましたか?」
「あの子ね……ごめんなさい、明美ちゃん」
 美恵子は突然顔を曇らして、明美に謝った。
「え、ごめんなさいって、どうし――」
「あの子は、もういないの……」
「え……いない、って……」
 聞き間違いだろうか、と明美は思った。
 しかし、美恵子はもう一度、それを告げる。
「うん、あの子はもう、この世には、いないの……。一ヶ月前に、逝ってしまったの」
 この世にはいない、つまり死んだということであろう。どうやら聞き間違いではないらしい。
 聞き間違いではない?
 ということは、亀井勇は、もう既に……?
 美恵子の言葉から一拍遅れて、明美は言葉の意味を理解した。理解した瞬間、彼女は心に強い衝撃をくらった。
「え、そんな……だって、三年前はまだ……」
 三年前、明美が旅立つ時はまだ、彼は健康だった。とてもじゃないが、三年後の今には死んでいるなどとは想像はつかない状況だった。確かに彼は、人より病弱な所があったけれど、それでも、そんなことがあるなんて、そんな……。
「ということは……私は……彼が……苦しんでいたというのに……で……そんな……」
 その瞬間、明美の中で何か切れてはいけないものが切れた。右足を一歩後ろにやり、左足を一歩、右足を一歩。ぎこちない動きで亀井家の真逆の方向に振り向いて――。
「明美ちゃん」
 美恵子が明美を引きとめようと声をかける。しかしその声は今の明美に届かない。
 明美は駈け出した。亀井家の前の道路を、道に沿って全力で駆ける。二つ目の交差点を右、さらに駆けてコンビニを通り過ぎ、公園を通り過ぎ、地下鉄の階段を一段飛ばしに降りていく。足を踏み外しかけるが、バランスが崩れるのも気にしないまま、明美は駆ける。
 全てを置いて、現実も置いて、駆ける。自動券売機で地下鉄の切符を購入して、改札口を通り、さらに階段を降りたところにあるプラットフォームに向かう。たった今来た電車に駆けこんで飛び乗る。地下鉄が走りだす。
 明美は、空いている席に座って顔を自らの膝にうずめた。明美は一人呟く。
「嘘だ……そんなの、嘘……だ……」


 夜九時半、三年間で少し変わった××駅前を、明美はふらふらと歩いていた。
 この駅周辺は、この辺りで一番栄えている。仕事帰りのサラリーマンや暇を持て余して遊ぶ大学生、多くの人がここを行き交う。明美は行き交う人のうちの一人に、肩をぶつけられ、よろめいた。肩をぶつけた見知らぬ男性は、ギリギリ明美に聞こえる声量でつぶやく。
「チッ、死ねよ屑が」
 男はそう呟いて通りすぎていった。
 明美は立ち止まって、今の呟きを反芻する。
「死ね……か……」
 明美は虚ろな目で辺りを見渡す。近くにあるベンチを見つけて、そこに移動して座った。
 さまよい過ぎて身体的にも精神的にも疲れた自分を休める。疲れは座ると同時にやってきた。
 なんで私はこんなことをやっているのだろうか、と明美は考える。今日は、久しぶりに日本に帰ってきた、喜ばしい日だ。そのはずだ。なのに、何故こんなことをしているのだろう。
 考えるまでもない、それは亀井勇が――
「う……あ、あああ……」
 涙が明美の頬を伝う。考えた瞬間に痛みはやってくる。明美は自らの心を抑えつけようとする。考えるな私。どれもこれも嘘だ。考えるな、考えるな。
 明美は膝に顔を埋めて呟く。
「嘘だ……今日は何もなかった……何もなくて何も……何……も…………あんな……嘘……嘘……だ……」


 結局、明美が自分の家に戻ったのは午前一時になってからだった。
 明美は先ほど亀井家に行ったときは空港から直接向かったので、この部屋に入るのは戻ってきて初めてだ。
 鍵を開けて、部屋に入る。少し薄れかけている記憶を辿って、暗闇の中部屋の電気のスイッチを見つけてつける。部屋が少しばかりボロ臭い蛍光灯に照らされる。
 照らされた部屋は、三年前と何も変わらないまま残っていた。何もかもが変わらないまま、埃だけが積もっていったのだろう。
 掃除して、換気しなきゃと思う明美だったが、動こうとする気力が少しも残っていない明美は、ベッドに倒れこんだ。埃が部屋に舞い上がる。
 明美は考える。変わらない部屋、変わらない街、変わらない美恵子さん、いなくなったいさ……。
 思い出して頭が再び真っ白になる。そんなことはあるはずがない。そう否定する、明美の頭の中の声が、明美の正常な判断能力を奪い取る。
 何が何だか、何も分からなくなって、明美は目を閉じる。


 何かの音が、眠りから半分だけ目覚めた明美の耳に届く。
 意識が朦朧としている中、聞こえてくる音に、覚束無い頭で明美は集中する。小鳥の鳴き声、家の前を車が過ぎる音、しかし明美を起こしたのはそんな音ではない。
 ピンポーン。
 部屋のインターホンが鳴る。明美を起こしたのはこの音だ。
 立ち上がる気力がなくて、明美は動かない。
 反応がなくとも部屋の中に明美がいることを分かっているかのように、インターホンは何度も鳴らされた。
 観念した明美が、インターホンに出ないまま、直接扉を開く。
 扉の外に立っていたのは、美恵子だった。
「明美ちゃん、おはよう」
「美恵子さん……」
 美恵子は大きなトランクを持っている。そうか、私はトランクを置き忘れたまま駆けていったのか、と明美は今更気づく。
 美恵子が明美に、そのトランクの取っ手を持たせて言う。
「はい、忘れ物」
「すみません……」
「いいのよいいのよ、気にしなくて。あ、それと――」
 美恵子は、そう言って四角く畳まれた紙片を明美に渡す。
「……これは?」
「明美ちゃん宛の手紙よ。それじゃ、私は戻るから、外に出る程度の元気が出たらまたいつでも来なさい」
 そう言って美恵子は去っていった。扉が閉まり、部屋には明美が残される。
 誰からの手紙だろうか。何となく、予感がして、明美は立ったまま手紙を開いた。
 一行目が目に入る。
『明美へ』
 亀井勇だ。明美はそう確信して、手紙を読み進める。


 明美へ

 あなたが手紙を読む前に、僕は死んでいるでしょう。三日後、きっと私は死にます。それは決して避けられないでしょう。僕とてそれを望んでいるわけではありませんが。
 黒いインクが紫ににじんで、幾度となく書いた筈の字が上手く書けません。

 私があなたに手紙を書こうと思ったのは、目に映るものをすべて叩き壊して、ただ虚しさだけ募って、あと七十時間の人生をどう使おうかと考えた結果です。
 伝えたいことがあるというわけではなく、突き動かされる通りに「世界はこんなにも眩しくてこんなに優しくて、あたたかだった」なんてくだらないことを、紙に書いては丸めて捨てています。

 気付けば二日もの時間が過ぎてしまいました。僕は変わらず、あなたに送る手紙をずっと書いています。
 苛立っていた胸の内は不思議と穏やかで、ただ夢でも見ているかのようです。

 遠い空の下 あなたは今何を見て、何を思っているでしょう。
 あとたった二十四時間ではあなたの元には辿り着けなくて、それを寂しいと思うと同時に、僕はほっと胸を撫で下ろして、二度とあなたに会えないことに安堵を覚えてしまいました。
 きっと、あなたと会えば私は泣いてしまうでしょうから。

 耳が痛いほど密やかな午後の風がカーテンをそっと揺らしています。
 こういう光景を見ていると、僕の世界があと数分で消えてしまうなんて信じられません。 ただ気持ちの良い秋晴れの青い空を見ていると、とても眩しくて、目が眩みます。もし、僕の涙が流れたとすれば、きっとその空のせいに違いありません。

 僅かしか残されていなくとも、僕は生きるのです。
 何もかも失ってしまっても、僕は生きたのです。   勇より


 明美は、手紙を読み終えて、誰にともなく呟く。
「そっか、勇、死んじゃったのか……」
 明美は立ち尽くす。亀井勇はもうこの世にはいない。そのことが、ようやく明美の心の中に染みこんでいく。勇はもういない。勇は、逝ってしまった。嘘ではなくて、もはやどうしようもない現実として、染みこんていく。

 頬を伝った涙の跡が乾いて、明美はようやく動き出した。カーテンを開いて窓を開ける。新鮮な空気と太陽の光が、止まっていたはずの部屋の時間を動かす。
 明美は、頬の涙の跡を擦って、それでも取れなかったので、洗面台に行って顔を洗う。タオルで顔を拭いて、鏡を見ると、涙の跡は消えていた。




※あとがき
 今作を書くに当たって「人の死を受け入れる」ことについて調べてました。親しい人に逝かれた人が、どうやって自分の未来にまた足を進み出すのか、それを考えながら書きました。
 自分の作品には、未来とか将来とか、そういうキーワードがよく出てくる傾向があるようです。多分、自分の今の一番の関心事がそういうものなのだということでしょう。
 小説にしろ何にしろ、何らかの作品って、それを作った人の考えや興味、性格や経験が現れるので、そこが面白いと思います。

なにかの素材になればいいな、っていうテキストと、好きな作品をモチーフにした掌編小説を投稿できればいいなって思ってます(2013.12.25)

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作品へのコメント1

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    ご意見・感想

    こんにちは! 今回も拝読させて頂きました。

    人の死

    重いテーマですよね。それを速い場面展開で書いているところが凄いです。ガーン! ってなった(もしくはそれになる前の動揺状態で)人は、行き先も解らずに、とにかくその場にいたくないって思ってしまうのですよね。

    でも手紙の文面が、ゆったりした時間で終わっているので、安心しました。

    今日も暑くなります。ご自愛下さいませ。

    ではでは~♪

    2011/07/01 11:01:51 From  enarin

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    メッセージのお返し

    >enarinさん
     いやあ毎日読んでいただいてありがとうございます!
     はい、そうですよね。テーマで人の死を扱うと良くも悪くも作品が重くなるので、その重さをどうやって作品に自然に取り込もうか悩みました。死って、古今東西幅広く扱われるテーマだけど、だからと言って使いやすいというわけでもなくて、物書きとしての能力がテーマ負けして陳腐になってしまうことって結構あると思うんですよ。少しでも陳腐な状態を脱却出来るよう今後努力していきたいところ
     執筆がんばります! コメントありがとうございます!

    >mikoさん
     おおおおそのコメントに僕が感動させられますよ! いやあ褒めていただいてありがとうございます。
     歌詞に自然に繋がることを目標のうちの一つとして書いていたので、そう思っていただけて嬉しいです。
     ありがとうございます! それではまた!

    2011/07/02 00:23:34 日枝学

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