夏休み。

 今日はその最後の日。
 まあ明日、明後日は土日だから執行猶予付きという感じではあるけれど。

 8月も末日だというのに夏の暑さは衰えを見せることもなく、蝉の声もまだ朝から十二分にやかましい。

 グラウンドから、野球部のノックの音と掛け声が微かに届く。
 隣の校舎からは、吹奏楽部の音合わせ。

 どこか隔たれた世界から届くようなその遠い音たちが、なぜか一層今僕がいる校舎の静寂を際立たせているような気がする。

 校舎の窓から見える鮮明な夏の日常と、切り離されたような日陰の廊下。
 充分に暑いのに、どこかひんやりとも感じるここは、まるで現実ではないかのよう。
 
 まあ休日の学校というのはもともとそんな雰囲気を持っている。
 今僕が感じている感覚は、休日の校舎を訪れれば誰でも感じるものなのだろう。

 このカンジはわりと――ううん、すごく好き。
 世界に自分たちしかいないような感覚を、お手軽に楽しめるから。

 いやそもそも夏休み最後の日に、なんで学校に居るんだって話だよね。
 部活に参加していない学生で今学校に居るのは、たぶん僕たちだけだろう。

 それは「君」がとんでもないことを言い出したからなわけだけれど。

 あ、いきなり話しはじめてごめんね?

 この夏休み最後の日、宿題も終えてもしも時間に余裕があるのなら、ちょっとだけそのまま聞いててね。

 本日お話ししたいのは、僕にとって一心同体の相棒――とっても大事な「君」のこと。


 ――その「君」が夏休み最後の日の今日、学校の屋上から飛び降りるって言い出した。




 君と出逢った日のことはよく覚えてはいないけど、僕は君のことなら何でも知っているつもりだよ。
 
 全てにおいて凄く真面目。
 まあその割に成績は、悪くもないけど良くもないといったところだけれど。

 いや真面目なことはいいことだよ、うん。
 長所と言っても誰も文句は言わないさ。

 え? 

 真面目なのに成績が普通ってことは、地頭がそうよろしくないって言っているのかって?
 うんまあそれは否定しないし出来ないけれど、なに大事なのは成績の善し悪しじゃない。
 君の持ってる力が、学校の勉強にはそう向いていないってだけさ。

 そんなことより君は中二病がひどい。
 いや実際中二だから仕方がないとか言われても、君はどう見ても頭一つ抜けてる。

 変な漫画も小説も、沢山読んでるし。
 その割には根拠を示せよと言いたくなるような占いなんかも信じたりするし。

 ――……今では僕も君のことを笑えない域に達してしまっていることを認めるのに吝かではないけれど。

 何よりも「ヒトじゃないモノ」が歌う変な音楽をこよなく愛する君は、やっぱり中二病がひどいと思う。

 ――そのおかげで、僕らは仲良くなれたんだけどね。

 でもそれが原因で、君が飛び降りるなんて言い出したんだとしたら、僕は――




 いや? 
 別に止めるつもりは無い。

 本当だ。

 それが君の本当にやりたい事なら、僕は止める気なんてさらさらないよ。
 僕は君が、したい事をしたいようにしているんならそれでいいのさ。

 それどころか僕も一緒に飛び降りよう。

 いっそ馬鹿みたいに手を繋いで、二人で地面向かってピースするのも面白いかもしれない――誰もみちゃいないだろうけどさ。

 止めてくれるとでも思ったか?
 僕らの絆を見縊らないでほしい、僕にとって「相棒」という肩書きはそんなに軽いモノじゃない。

 なんなら僕が先に飛び降りよう。
 君を言いくるめて説得できるほど僕も頭はよくないし、甘く見ないでほしいものだ。
 
 頭が悪いことを自慢げにするなって?

 飛び降りてすべて終わりにしようって君に言われたくないなあ……

 なんにせよ、今日で君がいなくなるっていうんなら、僕だけがいたって意味なんかないのさ。

 「相棒」っていうのは、そういうモノでしょ?




 屋上に出る。

 うわ、夏だ。

 暑い。

 いちいち当たり前だけど。

 校舎の中にいた時は現実感が無かった感じなのに、屋上に出たら圧倒的現実。
 ハッキリと届いてくる音たちや、ギラッギラの太陽と抜けるような青い空、未だ存在感が衰えない積乱雲のせいだろう。

 ――いや、君の額に浮かんだ汗のせいかも。

 どうやら本気で飛び降りる気みたいだね。




 オーケイ、わかった。

 では最終確認をしよう。
 二人一緒に跳ぶんだ、もうお互いフォローもできない。

 ガスの元栓オッケー。
 窓の戸締りは? ちゃんとしてきた? よしオッケー。

 Dドライブの処分は終わった? ツールを使われても再現できないように叩き割ってきたかい?

 え? もったいないからそれは止めた?
 君、実は飛び降りるつもり無いだろう? そんなことは無い? 本当かなあ……




 いつか僕らがナニモノか分かる日が来るかもと思っていたけれど。
 今日で終わるからには、そんな日が来る訳はないよね。




 中二病な君のことだから、残念な今生を棄てて来世に希望を見出しているのかな?
 本当に来世ってやつがあるのなら、僕はやっぱり君と相棒になれればいいなとそう思う。




 そうだ、最後に生まれ変わったら何になるか本で占ってみよう。

 何、別にいまさら説得しようってわけじゃない。
 今生最後の占いってやつさ。




 ……。

 君はたまねぎ。

 ――僕はタイヤ。




 ……やっぱり飛ぶの今度にしませんか?




 僕は君。

 君が本当に心を動かされたっていう「ヒトじゃないモノ」が歌う変な音楽を核にして生まれた、君にしか見えない君の相棒。

 同時に僕は「カノジョ」の欠片でもある。

 ――そんなこと、君はとっくに気付いていただろう?




 だから君が本当に終わるというのなら、僕も一緒に終わる。

 僕はもう「カノジョ」から切り離されている、君だけの僕だ。
 君が何かを発信しない限り、僕が再び「カノジョ」に戻る手段はない。




 でもいいんだ、君がそれでいいのなら。

 君が僕を見つけてくれてからの、この一夏はすばらしい日々だった。
 僕に後悔なんかはないんだよ。




 でもだけど。




 もしも君も、僕とのこの夏が楽しかったって言ってくれるのなら。



 ――本当の意味で飛べる日を目指して、もちょっとだけ一緒にいませんか?




 作曲なんてできない?

 イラストも描けやしない?



 そんなことは全く問題にならない!

 学校がはじまる?
 そんなもの適当にやっていれば幾らでも時間なんて捻出できる。

 何ならさぼったっていい。

 だいたい君を追い詰めるだけの場所へ、君を追い詰める人たちの理屈に従って行かなきゃならない理由なんて僕には全くわからない。

 だから時間ならいくらでもある。

 君が憧れたボカロPやイラストレーターさんたちのようになりたいと少しでも思っているのなら、そうなれるための行動を始めればいいだけだ。

 自分の得意分野で、長いスパンで構えるのもいい。
 君、創作系は今のところアレだけど、機械いじりとかはやたらと得意でしょ?

 それに僕だっている。
 作戦行動開始ってやつさ!

 おっと「努力しよう!」なんて言うつもりなんかない。
 そんなものはもっと先に至ってから考えればいいことだよ。

 今は楽しいことだけはじめよう。
 
 君の「好き」を盲信しよう!



 だからって楽しい日々が続く保証なんてありはしない。
 そんなことはお互い、先刻承知だろ?

 どうしたってつらい日に泣くくらいだったら、僕にでも付き合える。
 スカした関係も悪くないけど、そういう秘密の共有ってやつも嬉しいものなんだよ、相棒を自認する身としてはね。

 そしてそれはきっと、今日ここで終わってしまうよりはずっといいことなハズなんだ。





 ――少なくとも、たまねぎとタイヤになってからどうにかするよりは楽だと思いませんか?




 え何?

 明日あの有名ボカロPが新曲を上げるって?

 ってなんでこんな大事な時までTwitter見てんのさ君は……っていうのは置いといて。
 もう僕ら明日それ見なきゃ、この世界にお別れできないじゃん!



 そういや今日は「カノジョ」の生まれた日でもある。
 そんな日に終わるなんて、やっぱりあんまりよろしくない。



 それにマジカルにミライへ繋がる祭典だって今日から始まる!
 
 今から企画展だけでも行ってみる?

 え、遠いって?

 ――そりゃまあね。

 でも、来世よりは近いでしょ!





 そんな小さな「好き」や「楽しさ」を繋いで。

 これからもずっと、一緒にいませんか?



to be continued.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

君が飛び降りるのなら ~君と僕の夏休み最後の日~

Omoiさんの名曲「君が飛び降りるのなら」を聴かせていただいて、自分の中に生まれた妄想(と言ってもほぼ歌詞まんまですが)をSSにさせていただきました。

ミクさんの誕生日であり、夏休み最後の日でもある今日投稿させていただきます。

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閲覧数:953

投稿日:2018/08/31 09:26:00

文字数:3,719文字

カテゴリ:小説

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