1月7日 七草
トントン、コトコト。お料理の音って、何故だか不思議にあったかい。
「マスター、朝ごはんの準備ですか?」
普段より少し早く起きだしてキッチンに立つ私に、あれっと首を傾げてKAITOが寄ってきた。
「いつも朝はトーストなのに珍しいですね。何作ってるんです?」
「ん、お粥だよ」
手元を覗き込んでくる彼に答えつつ、まな板の上で小さな山を作った刻んだ野菜を鍋に落とす。これでもう一煮立ち、と火加減を見ようとするところへ、えっ!と焦りを含んだ声がした。
「おか、おかゆ? マスター具合悪いんですか大丈夫ですかっ、あぁあ料理なんて俺がしますから寝ててください、っていうか何着替えてるんですかお仕事なんか行っちゃだめですお休みしてください寝てくださいっ」
「?! いや待ってカイト違うから、病気じゃないから! むしろ無病息災を願うやつだからー!」
一瞬で涙目になりながら寝かしつけようと背を押してくるKAITOに、私も慌てて声を上げた。
「七草粥っていうんだよ。日本の風習のひとつ。本当は、七草の準備は前日の晩にしておくらしいんだけどね」
「はあ……本当に、本っ当ーに、病気じゃないんですね?」
「ないない。ちゃんと熱も測ってみせたでしょ」
いまだ潤んだ瞳で疑念の視線を向けてくるKAITOに苦笑しながら健康アピールをしてみせて、私は鍋からお粥を掬う。わたわたと騒いで宥めてとしている間に、七草粥は丁度良く煮えていた。
「ていうかカイト、別にお粥は病気の時限定の食べ物じゃないから。中華粥とか美味しいよ?」
「うぅ、でもマスター、普段は食べないじゃないですかぁ……」
「そう? あー、最近あんまり中華系のお店行ってなかったかも」
言いつつKAITOにもお粥をよそい、ふたりで手を合わせていただきます。口に運んだお粥はほろりと優しいシンプルな味で、お正月から続いた濃い目の味付けに疲れた舌と胃を労わるように染み入った。
「ほら、カイトも食べて。これで今年も病気をしないで過ごせますように、っていう風習なんだよ」
「……いただきます。えっとマスター、そういうことなら、いっぱい食べてくださいね。それで毎日元気でいてくださいね」
じっと見つめてくる青い瞳に、コトコトと音を立てる鍋の湯気と同じあたたかさを感じて、私はじんわりと笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう。カイトもね?」
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