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8件
8.
その後、二人――みくと本橋――の間に会話はなかった。
なにも言えないでいる本橋に、みくは一礼して、店から去っていった。
テーブルには、手つかずのティラミスが残されたままだった。
家までの帰り道、みくはとぼとぼと歩きながら思う。
明日、自分はまた出勤できるだろうか。
出勤しても――仕...水箱 8 ※二次創作
周雷文吾
7.
「妊娠がわかってからしばらくして、死産になることもなく、その子は生まれました。
元気な男の子でした。
学校に行っていないその頃の私は、漢字が難しくてほとんど書けませんでした。
だから、ゆうき、と平仮名で名前を付けました。
私に生きる勇気をくれた、初めての存在だと思って。
生まれる直前...水箱 7 ※二次創作
周雷文吾
6.
「ごめんなさい。そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。でも……ダメなんです。
……え?
いえ、そういうわけじゃありません。私は誰かと付き合っているわけではないですし、今も、きっとこれからも一人です。
自分がどんな人間なのか、てんちょ……本橋、さん……は、ご存じありません。それが……そ...水箱 6 ※二次創作
周雷文吾
5.
「みくさん。今度……一緒にご飯でもどうですか?」
――断らなきゃいけなかったのに、なんでうなずいてしまったんだろう……?
みくはそんなことを考えながら、呆然と眼前のイタリアンを見つめた。
本橋にそう誘われたのは、働き始めて四ヶ月たった頃のことだった。
仕事の流れや、多岐にわたる商品につ...水箱 5 ※二次創作
周雷文吾
4.
みくが次のパート先を見つけるのに、一週間かかった。
一ヶ月くらいはかかってしまうのではないかと思っていただけに、みくは少しだけホッとした。
多少なりともお金が貯まっていたとはいえ、あくまでそれはみくの主観による金額だ。実際のところは全財産が一万円ちょっとしかない金額であり、二十七歳の全財...水箱 4 ※二次創作
周雷文吾
3.
勉強が可能だということと、勉強が得意だということは全く意味が違う。
そんな、当たり前の事実がみくを苦しめる。
漢字の書き取りも苦手だったが、数学はそんなものとは比較にならなかった。
そもそも中学校レベルの数学についていけなかったみくは、特別に小学校レベルの内容から教えてもらっていた。
...水箱 3 ※二次創作
周雷文吾
2.
「お客様。なにかご案内しましょうか?」
その言葉にハッとして、みくは手にしていたベビー服をあわてて棚に戻す。
「あ……ごめんなさい。大丈夫です」
「なにかあればお呼びくださいね。色違いやサイズ違いも案内できますので」
みくの態度に不審そうな態度をとることなく、みくにはできそうにないほがらか...水箱 2 ※二次創作
周雷文吾
水箱 ※二次創作
1.
「え……? パートを辞めたいだって?」
パイプ椅子で向かい合って座っていたスーパーの店長は、そう言ってから弱ったな、と言いたげに頭をかいた。
パートを辞めたい、と言った当の本人――みくは、店長にウダウダと言われることがわかっていたし、そう言われたところで自分が意見を変える...水箱 1 ※二次創作
周雷文吾