・序章・
いい香りの蘭の花も、甘いハチミツも、キレイな星空も、手に入らないのなら皆、キライだ。
そう、求めなければ傷つかない。手にはいるものだけで、手にはいらないものの代わりはいくらだってできる。隙間は埋められる。
いくらでも。できるのだとココロに言い聞かせて、そうしたら何もかもがつまらなく見えてしまって。そんな風に見えるのは、自分だけだと思っていた。
そう思いながら、人は誰しも自分の理想郷を、求めて傷ついていくのだろうと。
けれど、きっと彼も私も救えなかった命を求めて、涙を流す。
その涙の意味を知ることはできなくても、自分の心を偽って生きることに慣れてしまったとき、きっと生きることすらも偽ってしまうのだろう、そうなったときは、その衝動に任せてしまおう、そうしたら楽になれる。そうおもって、今までずっと。
大音量の音楽が、壊れかけのジープから流れ出していた。
そのジープのボンネットを開き、ガチャガチャと作業をしていた少年がいきなり顔を上げて、壁にもたれてクッキーを頬張る少女を見た。
「リン、五月蝿い。音量下げてよ」
その声に気がついたのか、リンはつけていた大き目のヘッドフォンをはずし、少ししかめっ面でラジオのスイッチを切った。
「何?何か言った?」
どうもヘッドフォンのコードは、ジープとは別のラジオにつながっていたらしく、いまだにジープからは大きな音が流れ出ていた、
「だから、ジープの音量下げて。できれば消して。それに、別のやつ聞いてるならなんでつけるかなぁ」
「いいじゃない、暇なんだもん」
「なら中でお茶でも飲んでいれば?」
「いいの」
「俺がよくないの」
そう会話をする間にも、少年――レンは作業をする手をとめようとはしない。
二人は青い目にまばゆい金髪を持っていた。
しばらくしてやっと手を止めると、スパナを手にしたまま動かなくなった。
「――よしっ!できた!」
そう言ってぶかぶかの薄汚れた作業用の手袋をはずし、額に光る汗を右手でそっとぬぐった。それをみていたのか、リンがもたれている建物の二階の窓が開き、中から優しそうな青年が二人に声をかける。
「リン、レン、お茶でもどう?お昼も近いし。作業は午後からにするといい」
「いや、丁度できたところ。後でエンジンかけて、軽くその辺走ってみてよ。変なところあったら教えて」
そういい終わると、リンのヘッドフォンを取り、建物の中へ入るように促した。それをみた青年も、窓を閉じた。窓には白く太い字で、
『始音探偵事務所』
と書かれていていた。つまり、青年はこの探偵事務所に勤務――いや、探偵事務所を経営する、元警察官の探偵なのである。
二人が青年のいる部屋まで上がってくると、鼻に紅茶のいい香りが届いてきた。
そこで笑いながらチャっチャと料理を並べる青年は、青い髪と深い海のような青の瞳が印象的だった。桃色のエプロンが何となくふんわりとした彼にぴったりとマッチしているように見える。
「カイト、今日は料理おおくない?」
「めーちゃんが昼休みに来るからって、昨日言ってたから」
カイトと呼ばれた青年は、そう言って嬉しそうに微笑んだ。まるで少年か女性のような微笑み方である。
一応着ているワイシャツもピシッとして、いかにも凛々しい人が着ると似合うものなのだろうが、彼はどうもミスマッチだ。どちらかというと、ダボダボした服のほうが似合いそうだ。
その料理の数々は、プロ顔負けといった調子で、綺麗に盛り付けられた皿に色鮮やかに映える料理の美味しそうなことといったら、この上ないほどだ。その料理を見るやいなや、リンは椅子に滑り込むように座り、いただきますを言うのとほぼ同時に料理に手を伸ばした。
それを見て、レンが呆れてカイトが微笑む。
すると、扉の向こうからハイヒールのカツカツカツ、という高い音が聞こえてきて、カイトは嬉しそうにドアを開いた。
ドアの向こうにいたのは、栗色のショートヘアーの、赤いスーツを身に着けた女性だった。カイトの行き過ぎた歓迎に驚いているらしい。
赤いスーツと赤い口紅をつけた女性のいでたちは、勇ましいという印象を受けるもので、優しげなカイトとは対照的でもあった。
気の強そうな整った顔立ちは大人っぽくもあったが、男性のようにも見えることもあった。並べられた料理を見て、彼女は少し呆れていた。どうやら、カイトの言う「めーちゃん」とは彼女のことらしい。
「メイコ姉、美味しいよ。食べにおいでよ」
「え?ええ。カイト、作りすぎだわ。四人だけじゃ食べられないじゃない」
「残ったらめーちゃん、もって行きなよ。職場の人におすそ分けとか」
そういいながらも、料理はさらに運ばれてくる。
「めーちゃんは料理しないから。できるくせに、買ってばっかり」
「時間がないのよ。仕事柄、いつ呼び出しかかるかもわからないでしょう」
彼女は、現職の警察官である。それも、警部。
捜査一課の警部ではあるが、他の部署にも顔が利く、やり手である。そんな彼女が、この小さな探偵事務所に来ることには理由がある。彼女とカイトは幼馴染、そしてリンはメイコの妹だからである。まあ、正しくは、メイコの幼馴染であるカイトの家に、リンがレンを連れて転がり込んだから、なのだが。
取り合えず、料理を囲む。
四人は、まるで家族のようだった。
そう、このときがずっと続けばいいと思った。
真実のガーネット 1
こんばんは、リオンです。
昨日のふざけた宣伝のヤツです。ごめんなさい。
とりあえず、人物紹介。です。
『リン』女の子。いつもレンと一緒にいる。メイコの妹で、カイトの家に住む。
『レン』ショタ風味の少年。リンといることが多いが、血縁関係はない。リンに振り回されっぱなし。
『カイト』優しいが、時にミステリアスな青年。メイコの幼馴染で、リンとレンの世話をしている。探偵。
『メイコ』現職の警部。カイトとは昔から仲がいい。しっかりしているが、たまに天然。
こんな感じでしょうか。
いやはや、いいですね、めーちゃんって。よんでみたいです。
まあ、そんな私の要望はどうでもいいとして。
また明日、これの続きを。長ったらしくなりそうです。
それでは、おやすみなさい。
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